76話 帰路2
手分けして探すという、一人きりになれる状況を作ったレティシアは、手首につけた鍵を外し、乳白色の石を床に翳しながらゆっくりと歩いた。
ヴァスバード侯爵にはあんなことを言ったが、こんな汚い部屋の中で門を作るのなら、ガラクタがない床しかない。たぶん。
(というかそうであってくれないと困る!)
さっきから音が聞こえてくるから、ヴァスバード侯爵は本当にガラクタを動かして探しているのだろう。それであっちに門があったら言い訳が面倒だし、そもそもこのゴミ、じゃなくてガラクタを動かすなんて面倒すぎる。
これはもう新しく作った方がいいのではないかと考えながら、店の奥の物置に入ったときだった。鍵である乳白色の石が仄かに光った。
(ここか)
レティシアはヴァスバード侯爵がいないことを確認すると、鍵を床にトンと付けた。すると床から記号のような文字のような紋様がぼんやりと浮かび上がった。あとは足りない分を鍵で書き足せばいい。
(でもその前に)
レティシアはまた鍵を手首に巻き直すと、近辺のガラクタを散らばしてまるで探し出したような雰囲気を作った。それから鍵で足りない部分を書き足し、文字を完成させる。その瞬間、床にぽっかりと穴が開いた。
「あったわよ」
レティシアの声ですぐにヴァスバード侯爵が来た。その額には汗が光っている。彼は蝋燭に火をつけると、不気味に光る穴の中をしばらく見つめた。
「……何も見えないところからして地下に繋がってるようだな。私が先に降りるが」
「心配しなくてもちゃんと行くわよ。武器全部盗られちゃ、戦いようがないからね」
◆◆◆
店から繋がっていた先は、アビが店に連れて行ってくれた時と同じ薄暗い洞窟だった。
(この鍵は旧道への門だから、市井への門は開けっ放しってことか)
鍵は一つしか渡されていないから、そういうことだろう。ただ問題は市井への門がどこにあるかということ。
「進む方向はわかってるの?」
「ああ。こっちだな」
ヴァスバード侯爵は上を見てから左方向を指した。
「天井に印が書いてある方へ進めと言われている」
「……印っていうか傷っていうか。大雑把な道案内だこと」
レティシアは適当に答えながら体の後ろに隠した右手を動かし、穴の外の岩から内側に向けて鍵で線を付け足して門を閉めた。これで工作は完了だ。
「これから先に進むが……その前に聞いておきたいことがある。今さっき消えた門は、どうやったら作れるんだ?」
確信めいた物言いに心臓が飛び上がる。
「作るって?」
レティシアは何食わぬ顔をしてやり過ごそうとして、
「門を探す前、君はうっかり『アビがどこに作ったかわからない』と言っていただろう?」
「?!」
「……やはり気づいていなかったか。まだ本調子ではなさそうだな」
レティシアは額を押さえた。自ら墓穴を掘るとは。叫びたい気持ちを押さえ、代わりに汚い店のせいで気力どころか注意力まで削がれたと、八つ当たりをした。
「私の予想では門を作る、消すためには何か条件があると思うのだが……その一つがその装飾具ではないのか?」
「?!」
「アビが手を動かして門に何かしている姿は見ていた。先ほどの君のようにな。そして君が手首に巻いているお守りは、不自然なことに装飾部を内側にしている。……ということは、それが門に必要なものだろう」
もう何も言えない。この男の観察力に完全に負けた。やっぱりこの男キライだ。
「君が一家に関わる情報を隠したい気持ちはわかる。だが私は国防を任されている者として、王都へ敵が侵略してくる可能性の有無を知りたいのだ」
この男をここに連れてきたのが間違いだった。いや、連れてきたのはレティシアではなくスファンだ。会ったら絶対半殺しにすると、レティシアは静かに心に決めた。
レティシア、珍しくうっかりミス




