51話 急展開3
思わぬ進展があったのは、事件現場に向けて基地を発って一刻半ほど経った頃。スファンの要求を受けて休憩していた最中だ。
「おまえ、どこに行ってたんだ!」
スファンの腕をエレンツィオががっしりと捕らえる。監視をすり抜けてふらりといなくなったため、逃げたのかと少々騒ぎにあんったのだ。
「物騒な野郎だな。いくら夜で暗闇に乗じて逃げられるっつっても、馬がなきゃ逃げ切れないだろうが」
「エレンツィオ、熱くなるな。それで、わざわざ一人になって何をしに? 諜報からレティシア嬢の情報が入ったのか?」
エレンツィオの脅しもどこ吹く風のスファンにヴィンセントが追求すると、今にも舌打ちをしそうな顔をされた。やはり彼女の状況を判断、報せる何かが彼女のそばにいるのは確かなようだ。
「どうやら脱出の目途が付いたっぽいな」
「それは本当か?」
「細けェことは書いてないけど、多分そろそろ動くみてェだ」
そう言ってスファンは小さな紙切れをひらりと見せる。
「それはもしや伝書鳩が持ってきた書簡か」
「そ。アンタらに捕まる前に飛ばしてたんだ。それの返事が今来たってワケ」
まさか彼女の生存状況を判断しているのは、伝書鳥だろうか。そんな疑問が過ったとき、エレンツィオがスファンからから紙をひったくるように奪い取り、そして顔を真っ青にして叫んだ。
「これ、インクじゃなくて血じゃないか!!」
「ペンがなかったんだろ」
「そういう問題じゃない! というかなんでおまえはそんなに落ち着いてるんだよ!」
「こっちに連絡するだけの余裕はあるんだから問題ねェだろう」
呆れた様子のスファン。ヴィンセントはエレンツィオからメモを受け取って中を確認する。確かに血で書かれてはいるようが、急いで書いたような雑さはないので、切羽詰まった状況ではなさそうだ。
「ところでこの暗号はなんと書いてある?」
そう問えば、スファンはやれやれと言わんばかりに頭を掻きながらため息を吐いた。
「なんかアイツ、第五区に行くつもりみたいだぜ」
「は? 今なんと?」
「故郷が心配だから里帰りするってさ。来んなって釘刺したのに」
想定外のことに部下たちは唖然とする。ヴィンセントも面食らってしまった。ただでさえ危険な状況だというのに、自ら再び危険な場所に行くなど、彼女は一体何を考えているのか。これはなんとしても止めなければ。
「彼女の居場所についてのことは書いていないのか?」
「全く。ここから北西の方向にいるみてェだけど、多分アイツ、自分がどこにいるかは把握できてねェんじゃね?」
マシューが地図を広げ、今の場所から北西方向にある、監禁されている可能性のある町を出していく。
「まァ、今アイツに居場所を聞いてっから、その返事を待ってから動いた方がいいんじゃねェのか?」
「聞いてるというのは、彼女に伝書鳩を送ったということか?」
「そ」
「伝書鳩がいるなら先に言え!」
エレンツィオがスファンに殴りかかる。彼女と連絡を取れるのなら言ってほしかったが、それでもスファンの協力を得られたのは大きかった。第五区へ行く前に彼女を保護できるかもしれない。
「エレンツィオ。お前はこのまま現場へ向かい、捜査に当たっている兵たちを北西のカザエスに連れてきてくれ。我々は一足先にカザエス駐屯地に行くぞ」
「はっ」
犯人の人数はわからないが、ネービス家を崩壊させた連中の一味なのだ。荒事になることを前提に兵力を集めておくべきだろう。エレンツィオを見送ると、ヴィンセントたちは北西に進路を変えた。




