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星を埋めた少女  作者: 神木ジュン
王都編1
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46話 救出作戦1

 そろそろ行くか。まだ一服にも満たない時間だが、()()に行かなければ、ガスに見張りを代わった意味がなくなってしまう。男は煙草の火を消すと、足早に娘を監禁している部屋に向かった。





 とんだ面倒に巻き込みやがって。それが男の本音だった。

 失態を犯したのはオレたちじゃねェ。だというのに他の一家に動きを勘付かれたタイミングと被ったために、メモを送ったゾルも責任を問われ、それに伴い自分たちまでこの負け戦に動員させられるハメになったのだから。


 ゾルが馬鹿げたこの誘拐計画に乗った理由は、わからなくもない。責任を問う。これは凶賊にとっては死を意味する言葉だ。ゾルは何としてでも死を回避しようと躍起になった。いや、一番躍起になっていたのは(かしら)の方か。もしもこの失態で()()()の長年の計画に差し障りが出たらと、あの方の怒りが自分に向かうことを恐れた頭は、手下(オレ)たちに公爵令嬢の誘拐を成功させるよう命じた。自分はアジトへ逃げ込んだ。


 王が目を掛けているという娘を誘拐した以上、公爵家も軍も黙っているはずがない。だというのにこんな無謀な作戦を言い出したのは、最初からオレたちを切り捨てるつもりだからだった。

 娘の証言から犯人として挙げられるのは、顔を会わせた実行犯(オレたち)になるのは確実だ。特に男は道中娘を脅していたので、一番顔を覚えられているはず。それがわかっているから乗り気ではなかったけれど、あの方がこの作戦に力を貸すとなった以上、やらないわけにはいかなかった。


 だから考えたのだ。自分たちが助かるための有効な手段を。それが娘を監禁し続けるか、あるいは()()()()()()()()()()()かの二つの方法だった。前者に関してはイケ好かねェ貴族風情野郎の邪魔が入る可能性が高いので、娘相手だけで済む後者が一番手っ取り早い。


 問題はそれをいつ、誰にやらせるかだ。と思っていたが、それも今朝のうちに解決した。昨夜の件で外されたゾルの代わりに入ってきたのがガスだったからだ。ガスは狡猾な野郎で気に食わねェが、ヤツの性的嗜好はよく知っている。だからヤツが「借り」を理由に見張りを代われと言われたとき、男は内心ほくそ笑みながら承諾した。


 娘の方はガスがやった。あとはそれを含めてすべての責任をガスに押し付ければ、計画は遂行する。

 男はナイフを忍ばせると、鍵のかかっていない扉を蹴破った。


「おい! 何やって……」


 用意していた台詞は、目に飛び込んで来た光景を前に続かなかった。床を染める大量の血と、散乱した荷。うつ伏せに倒れているガスと、その先に呆然と座り込む娘。服も髪も酷い有り様だ。


(ガスの野郎、ヤるつもりが()られたか)


 中途半端にズボンを脱いだまま事切れているガスを見下ろしながら、油断するとは間抜けな野郎だと思った。まさかこうなるとは思わなかったが、どうやら手間が省けたようだ。


「なんてことだ……!」


 後ろから怒りともつかぬ声があがり、眉根を顰めた。貴族風情野郎は男の横をすり抜けると、放心状態の娘の元へと駆け寄った。途端に娘は悲鳴をあげ、錯乱したように一心不乱に腕を振り回す。最後までヤッたかは知らないが、計画は完全にうまくいったらしい。

 貴族風情野郎は上着脱いで娘に掛けると、自分の前に立ちふさがるように指示を出した。


「死体を外へ出せ! 窓を開けろ!」


 奴に指示されるのは癪に障るが、状況的に仕方がない。男は舌打ちすると、騒ぎに気付いて部屋来たもう一人の野郎と共に、ガスの死体を引きずり出した。



 ◆◆◆



 静まり返った部屋で、レティシアはホッと一息ついた。


(上手くいってよかった)


 その一言に尽きる。あの死体を調べられて毒針を刺した傷とか死因に気づかれて、一波乱起こる可能性もなくはないが、先ほどの表側の人間の対応を見ると、例え不審な点が出たとしても、表側の人間は取り合わないだろう。まあ、そうさせるためにドレスを破ったり、荷物を散乱させたり、あの男のズボンにも小細工して、誰が見てもレティシアは被害者で、男は偶然殺されたとしか思えない状況を作り出したのだから。


(さっさと綺麗にしよう)


 水が入った桶とタオル、そして薬と包帯を見たレティシアは、石鹸がないことに舌打ちしながらも、服を脱ぐと、濡らしたタオルで体を清め始めた。


「……いっ!」


 服を切り裂かれた時に皮膚も切られていて、胸元がヒリヒリする。だけど痛さよりも気持ち悪さを拭う方が大事だ。特に男に舐められた跡と触られた場所は念入りに拭った。拭いても拭いても気持ち悪くて仕方ない。


 あの男の下劣な行動は他の連中には想定外の悪手だったようだが、レティシアにとってはまたとない好機になった。連中にもはや修復しようもない溝を作ることに成功したのだから。


 レティシアは最低限、身を清めると傷口に止血の薬を塗る。傷は深くないからこれ以上出血はしないだろうが、包帯をきつめに巻いて止血する。そして破かれた下着をまた着て、その上から男の上着を羽織った。さすがに服まで用意するのは難しかったようだ。


(さて、次はどう動くかな)


 これで表側の人間がレティシアを解放する方に動いてくれればいいのだが、果たしてどうなるか。レティシアはようやく開いた窓から暮れる空を見上げた。

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