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星を埋めた少女  作者: 神木ジュン
王都編1
45/105

45話 誘拐事件4

性的暴力・暴力描写があります。

 誘拐されて半日が過ぎた。レティシアは朝から瘦せぎす男から二度目の尋問を受けた。とはいっても半刻もかからなかっただろう。昨夜に引き続き、「知らない、帰して」と泣くだけのレティシアに、向こうが白旗を上げたからだ。


 レティシアの思惑通りの展開ではあったが、一つ引っ掛かったことがある。痩せぎす男と同席していたのが鉤鼻男ではなく、監禁された当初に鉤鼻男を一喝した、表側の人間だったのだ。恐らく鉤鼻(かぎばな)男がレティシアの首を絞めるという暴挙に出たために、表側の人間がそういう処置にしたと思うが、果たしてそれを凶賊が納得したのだろうか。


(してないわね、絶対)


 連中がそういう質でないことはよく知っている。きっと今頃腸煮えくり返って、痩せぎす男の鼻を明かしたいと思っているに違いない。


(やっぱり妙だな)


 レティシアは眉根を顰める。メモの紛失は表側の失態だ。あれを送った凶賊にそこまでの制裁があると思えない。むしろ表側の失態に付け込んで、幅を利かせるはずだ。だというのに現状では凶賊の方が表側の人間に尻に引かれている。その理由がわからない。

 それにあのメモが誘拐理由なら、ここにいる凶賊はネービス家の者か傘下の者のはず。けれど見てる限り、力のある人間とは思えないのだ。


(いや、そんなことより脱出の算段をつけよう)


 レティシアは(かぶり)を振って思考を切り替える。レティシアが危険な状況に置かれていることに変わりはない。この部屋の窓は塞がれていて、出口は一つ。その唯一の出口である扉は外から鍵が閉められているうえ、常に見張りがいる。見張りは一人のようだが、他の部屋にも人の気配があるので、仕掛け指輪で見張りを倒せても、他の連中全てを倒して逃げるのは不可能なのだ。


(逃げる機会(チャンス)があるとすれば、奴らを瓦解させることか)


 奴らは一枚岩ではない。これ以上は事を荒げたくない表側の人間と、何がなんでも吐かせたい裏側の人間で意見が対立しているのは確実だ。それを利用すれば脱出する機会が生まれるかもしれない。


 そう考えていると扉の向こうでボソボソと男の話し声がした。見張りの交代の時間かと思っていれば扉が開け放たれ、一人の男が部屋に入ってきた。初めて見る(カオ)だ。一目で凶賊だとわかるナリで、どことなく狡猾な雰囲気が漂っている。


「テメェが()()()()()()()か」


 男は後ろ手で扉を閉めると、レティシアにギラギラした目を向けた。下劣な欲望の目を。その意味を本能的に理解したレティシアは、座った体勢のまま後ろへ退いたが、男の手が伸びてくる方が早かった。あっという間に床に押し倒されると同時に口を手で塞がれ、汚い顔を近づけられた。


「へェ、銀髪か。こりゃ確かに珍しいなァ」


 男の息が掛かる。


(気持ち悪いっ!)


 レティシアは顔を歪めた。今すぐ殺したいが、馬乗りにされているせいで身動きが取れない。せめて片足だけでも自由に動かせるよう、そっと腰の位置をずらす。


「イケ好かねェ野郎がずいぶん生温いことをしてるみてェだが」


 男は腰の短剣を抜くと、レティシアにその鋭利な切っ先を見せつける。


「吐かねェなら、吐かせりゃいいだけの話だ」


 八重歯をむき出しにした醜悪な笑みを浮かべた男は、その短剣でドレスの胸元を引き裂いた。レティシアがもがくように抵抗すれば、狡猾男は短剣を振り下ろした。


「……ッ!!」


 耳元を風が切り、その直後に大きな音がする。左耳のすぐそばに短剣が突き刺さったのだ。


「大人しくしねェと、次は耳が落ちるぜ?」


 動きを止めたレティシアを、恐怖で怯え固まったと判断したのだろう。切りきれなかった肌着(シュミーズ)を手で引き裂くと、レティシアの首筋に舌を這わせながら胸を掴んできた。床に刺した短剣から完全に手を離して。


 レティシアはか細い悲鳴をあげて抵抗しながら、男の首の血管のあたりに右手を動かし、狙いを定めた。そして親指の腹で人差し指の指輪の側面をスライドさせると、迷うことなくその首に針を突き刺す。マンドレイクの毒を塗った針を。


「ッ?!」


 狡猾男の意識がそちらに向いた、その一瞬の隙をついた。レティシアは左手で床に刺さった短剣を力づくで抜くと、抜けた反動のままに男に切りつけた。その汚い顔から血が吹き出すと同時に狡猾男は呻き、両手で傷口を押さえる。男の姿勢が変わったおかげで、上半身に自由が生まれた。

 レティシアは柄を両手で握り締め、刃を横にしたまま、心臓目掛けて思い切り突き刺した。そして上体を起こしながらさらに深く刺す。


「……ッ!」


 狡猾男は叫ぶことも忘れて目を見開き、それから怒りの表情を見せたが、すぐに苦悶の表情に変わる。毒が回ってきているのだろう。手を伸ばしてくる男を跳ね除ければ、簡単に崩れ落ちた。


(このクズ野郎が……!)


 レティシアは肩で息をしながら顔に着いた血を袖で拭う。早くこの場を()()()なければいけない。

 動かなくなった男を雑にひっくり返して懐を漁り、羅針盤らしきものを見つけるとポケットに隠した。それから短剣を強引に抜くと、自らドレスを破り始めた。

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