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星を埋めた少女  作者: 神木ジュン
王都編1
36/105

36話 秘密の花園3

 邸に持ち帰った灰色の小鳥は、さっそく立派な鳥カゴと、胡桃と麦(しょくじ)が与えられた。

 レティシアは机の上にカゴを置き、人の気配が近くにないことを確認すると、ポケットから茶色の小さな布の巾着(オモニエール)を出した。これは鳥の下に置いてあったものだ。


 たぶん、この中にア(・)レ(・)があるはずだと、巾着の中から折りまれた紙を取り出す。それを広げれば、予想通り、海辺の砂のような鈍く光る粒が一つまみ程度入っていた。


(あとは血ね)


 レティシアは裁縫道具の中から針を出すと、右の指先に刺して血を出す。そうして雫のように溢れた鮮血を粒の山に落とし、針で軽く混ぜて鳥の前に置いた。机の上で丸まっていた鳥は、待ってましたと言わんばかりにそれを啄み始めた。


 この鳥は特定の相手に最速で書を運ぶ、連絡鳥(れんらくちょう)という第五区固有の鳥だ。ニオイを覚えた相手なら、どんな遠い場所だろうと必ず相手の元へ届ける、とても優秀な伝書鳩である。


 そして特定の相手のニオイを覚えせるために必要なのが、連絡鳥の殻と血。先ほどの砂のような粒は、すりつぶした連絡鳥の卵の殻だ。

 本来ならまず先にこの食事を与えて、相手を覚えさせてから伝書鳩として使うのだが、スファンは自分のニオイだけを覚えせた状態で連絡鳥にメモを預け、雪イバラの根元に放置するという強硬手段を取った。そのせいで届けようにも相手がわからない連絡鳥は、かわいそうにその場から一歩も動けずにいたのだ。


 全て食べ終わった連絡鳥は、ちょんちょん跳ねながらレティシアの前に来る。無事にレティシアのニオイを覚えてくれたようだ。


 レティシアは鳥の腹のあたりを指でくすぐるように撫でた。すると胸から腹にかけての羽毛の中に切れ目ーー袋が見えた。元々は卵を入れるためのものらしいが、ここに手紙を入れている。


「ご苦労様」


 袋から生成りの薄い紙切れを摘まみ出すと、連絡鳥を鳥カゴに戻した。己の役目を終えた鳥は一目散に餌の入った器に向かった。


 レティシアは紙切れを広げ、そこに羅列されている文字を読む。文字といってもこの国で使われている文字ではなく、レティシアの元(・)家(・)族(・)が使っている暗号だ。


 これはオレの個人の判断、期待するなという注意書きから始まった手紙には、どうも故郷がきな臭いことが書かれていた。そして最後に「だから馬鹿なことは考えるな」とあった。まるっと無視しよう。


(門(アトロプ)のことを知らせたのは正解だったみたいね)


 レティシアがスファンに渡したメモには、王都近辺で魔法陣にカモフラージュした門(アトロプ)が幾つか見つかっていることを書いた。あれは有益なものでありながら、今の自分では持て余していたから、スファンに流したのだが、たぶんきな臭い何かに関係してるような気がする。


(予想はしてたけど、魔法陣は有力凶賊内で、頭領の座を奪おうと狙っている者の仕業か)


 今のレティシアに何ができるわけではないけれど、注意するに越したことはないだろう。第五区は案外市井のすぐそばにあるのだ。

 レティシアは灯りの蝋燭に火を付けると、紙切れを翳して燃やした。証拠は全て消さなければならない。

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