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星を埋めた少女  作者: 神木ジュン
王都編2
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98話 女の戦い方2

「それでそれで?」

「それでもなにも、喋ることなんてもうありませんよ」

「えー。もっとあるでしょう? キュンとしたこととか」


 ああ、失敗した。目の前できらきらと満面の笑みを浮かべるクラリスを見ながら、レティシアは内心頭を抱えていた。


 二刻(じかん)前に終わった茶会での、レティシアの対応は完璧だったと思う。

 魚については「とてもいい人」という、聞く者によってどうとでも取れるように話したし、主催のマージェと知り合ったきっかけである、エレンツィオの花見に呼ばれた際の仔細について詰められたときは、

「義姉(ねえ)様の旦那様が、気に掛けてくださったんです。人目を気にせず、私と義姉様が会えるようにしたいとエレンツィオ様にご相談されたそうで。面識のない私を招待してくださったエレンツィオ様はもちろん、義姉様の旦那様もとてもお優しい方ですよね」

 と無いこと無いこと並び立て、決して自分が面食いではないこと。そしてクラリスの旦那であるケビックがいかに気遣いできる人物であるかを強調し、自然と話題の中心を結婚したばかりのクラリスに移したのだ。


 それはよかった。しかし恋愛話が大好きなクラリスは、前半の話を忘れてはくれなかったらしい。せっかくの機会だからと、茶会の後にクラリスを邸に招待していたために、こうして「お話聞かせて」攻撃を受けていることになってしまったのだ。


「お茶会で話したことが全てですよ。というかなんでそんなにあんな話を聞きたがるんですか……?」

「だって、レティの初ロマンスだもの」


 クラリスは満開の花のようにうふふと笑う。萎びた蕪になったレティシアとは大違いだ。このまま話を続けていたら干物になってしまう。早くこの流れを変えなければ。


「私のはロマンスではないですよ。ロマンスというのは、義姉様とケビック様のような情熱的な恋のことでしょう」


 情熱的な恋という、いかにもクラリスが好きそうな単語を入れれば、義姉は頬を赤く染める。今だ。


「私のことよりも、義姉様の結婚式はどうだったんですか? 義兄(にい)様からとても素晴らしかったと聞きましたよ」


 今度はレティシアが満面の笑みを浮かべて迫る。これはこれでダメージがないわけではないが、今受けているダメージよりはマシだ。それにこの流れなら、自然と輝星石のチャーム(アレ)を回収できる。

 こんなレティシアの心情を知らないクラリスは、さらに畳みかければ、嬉しそうに結婚式とその後の話しを喋り始めた。



 ◆◆◆



 軍人ではあるとはいえ、やはり国営軍本部の中枢部である建物に入るのは気が引けてしまう。特にこれから会う人物に対しては。リベルトはふう、と息を吐き、表情を引き締めてから執務室の扉を叩いた。


「失礼します」


 イーツカルツェ公爵はただ座っているだけなのだが、なかなかに威圧感がある。国営軍に所属している身とはいえ、リベルトは肩書だけの下っ端なので、こうして直接元帥と会うことはないのだ。


「ご苦労。呼び出してすまぬな」

「いえ、本日は妹がラインベール公爵邸に遊びに来ているので、ちょうどよかったです」


 今日の茶会の後はクラリスが来ることになっているため、一時的に護衛を外れたのだ。例え自分の妹であっても、リベルトがレティシアの護衛をしていることを知られるわけにはいかない。


「……レティシア嬢はクラリス嬢と仲がいいのか?」

「ええ。性格はまるっきり違うのですが、レティシアは昔から妹のお喋り相手をしてくれていました。クラリスには既に結婚のお祝いの品(プレゼント)を渡しているのに、また用意していましたし」

「ほう」


 イーツカルツェ公爵は意外そうな顔をする。恐らくはレティシアが自分には決して見せない、元凶賊だった一面を見ているから、女の子らしい様子が想像できないのだろう。


「本日の報告はありませんが、どうやら最近、ガースロー伯爵家の次男のカルロ卿と文のやり取りをしているようです。返事を書くのに侍女には見せて相談しているようなので、妙な内容ではないかと思いますが」

「……では彼がレティシア嬢に近づいた理由は一般的な理由か」


 イーツカルツェ公爵はふむ、と考え込むように頷く。


「いくらレティシア嬢を守るためとはいえ、君に従妹を見張らせるような真似をさせて申し訳ないな。あと七(・)日(・)ほ(・)ど(・)辛(・)抱(・)してもらえると助かる」


 リベルトは目を瞠った。それはつまり、この任務があと七日で終了だということ。元々リベルトがレティシアの護衛についたのは一時的な対応だったので、義妹を守るための最善策が決まったのだろう。その話のために呼ばれたのだと悟る。


「凶賊対策が決まったのですね」

「ああ。詳しいことは言えないが、レティシア嬢にはより警備の厚い場所に移ってもらうことになった。移動中や社交界での警備体勢も整ったから、彼女も安心できるだろう」


 まさか警備強化の本当の理由が、レティシアが危険行動を起こせないようにするためとはこれっぽっちも思っていないリベルトは、軍のトップの言葉に胸を撫で下ろした。


「だが、くれぐれも彼女に言わぬように。彼女が口に出さなくても、行動や様子で勘づかれてしまう可能性があるからな」

「承知いたしました。あと七日、全身全霊で任務に努めます」


 胸の前に拳を当て、軍の敬礼をするとリベルトは執務室を後にした。

萎びた蕪は水に漬けるといいらしい。

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