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№030 『エンカウント』と意識すると討伐したくなる…。ならない? 【盗賊だ! 処せ!】

なんとか、まにあい、ました…!

「いやぁ、昨夜はお愉しめましたね!」


「自分で云った!」



 夜が明けて伸び伸びと、烏丸くんはとってもにこやかであった。

 朝の挨拶としては酷いくらい最低な部類で、喜ばしいレベルの清々しさなのが逆に腹立つ。

 ちなみに各家々の防音は上手い事【上等】なご様子で、あっはんうっふんな『鳴き声』も特別響いたこともなく誰もが程好く穏やかに身体を休められたのでそこそこ快活で寝覚めの良い朝ではあるけれどそれはそれとしてやっぱ腹立つ。


 集落では小鳥が囀り、

 森の木々から射す陽の光が、

 オーロラのような斜光のカーテンを造る様は神秘的そのもの。

 そして漂う、カレーの香り。


 昨夜の炊き出しの残りだ。

 存外膨大に煮詰めたカレー鍋は未だ底を見せることは無く、食うに困窮していると常々知る彼女らエルフはそういった残り物でも最後まで戴く。

 【勿体無い精神】を正しく発揮させているらしい。


 そんなカレー臭に混じって、一晩お相手を勤めたらしい香油の残り香が烏丸くんから漂ってくるわけで。

 もうほんとに、この子は、なんでこう……!



「やっぱり見た通りにエーリウさんも好い抱き心地してました。 歳だ歳だとご本人は仰ってましたけど、肌には張りも艶もしっかりと残ってて。 それでいて触れれば吸い付く様な滑らかさに、抱えるくらいにずっしりとした重みでもギリギリの均衡までは崩さないプロポーションを維持できる辺り全然許容範囲内で。 更には経験がモノをいう淑やかさとの相性が実に良い感じで、」


「何の感想だよ黙れよもう!」



 報告要らないよ!

 ていうか物事の前提情報を序文で崩壊させてるんじゃないよ! 適齢期外だからお相手しないとか言ってた昨夜の酋長(エーリウさん)はなんだったのさ!

 もうほんとに、この子は、なんでこう……!(2回目。



「まあ挨拶代わりの冗談(ジャブ)はこの辺で」


「キミの冗談はジャブで済まないんだけど」



 朝ののっけから抉り込むようなレバーブロウ。

 要らない(話の)肝に突き刺さる。



「寝物語に聴き齧りましたけど、この国の大結界は王族の祖先が敷いた物だったみたいです」



 そうした言い出しで語られ始めたのは、彼なりの情報収集の成果であった。

 裏があるとは思っていたけど、矢張り王族側が遺せない情報なんかを知る機会だと、烏丸くんも判断していたらしい。



「召喚術と同じ様に詳細な部分や実行法そのものは失伝したみたいですけど、『その前』からこの土地で暮らしていたエルフ(彼女たち)や他の種族は侵略者である王族(人間)に程良く虐げられたって感じで」


「ふぅん、口伝か何かで残ってたんだね。ていうか、他にも別種族? 異種族? が居たの?」


「エルフそのものとは交流は少なかったみたいですけどね。なんせこの大陸が普通に広大ですし」



 サハラ砂漠と同程度なんだっけ? カイチョー曰く。

 それだけの大きさなら交流が足りないのも頷けるけど、紀元前のアレクサンドロス大王はギリシャからインダスまで東方遠征噛ましたのだし不可能って断言するのも難しい。

 まあその人最後には遠征の無理が祟って熱病で亡くなってるから、今の話とはまた別だよね。頭の中からポーイっ☆



「エルフは……元は各々別個の部族を名乗っていただけのようなんですが、侵略者に取り入る形で一番先に遜った時点で其処は口伝に残さなくなったとか。だから嶽本先輩の云うトールキンとかの考察ってあらかた無駄ですね」


「それ、云わない方が良いかもね」



 どっちにしろ明かさなくてもいい問題みたいだし、わざわざ槍玉に挙げることも無いよね。

 重箱の隅を突くのは真面目な話の時だけで充分さ。

 冗談や冗句が面白くない時は除いて。



「それより以前にも、彼女たちって元々外来の他種族に奉仕するのが生き方だったみたいで。奴隷として連れて来られた魔族(ベリアー)に同情はすれども、根本的な部分では判り合えなかったとかなんとか。客とホストみたいな関係性は持ってたみたいなんですけどもね」



 ちなみにこの場合の【ホスト】とは、言葉本来の『もてなす側』の意味を含むのだという。

 今の『夜の街』で例えると男女逆になるから、どうにもややこしい話ですね。



「って、魔族も【連れて来られた側】なんだ?」



 あれれー? おっかしいなー。

 王様は魔族の事を『元々こっちに居た少数民族』だとか説明してなかったっけ~?


 しかも奴隷って。

 要するに、自分たちが連れて来た奴隷を、食うに困ったから国外追放したんだ?


 そりゃあ逆恨みも恐れるよねぇ……。

 事情を知らない【召喚勇者】を向かわせようとしていたみたいだし。

 今更だけど王様の株価が著しく下落しまくリング。



「大雑把に身体特徴が多様になってるのを、『身内』を除いて纏めて『魔族』みたいですね。中でも多かったのが、黒肌に金目の縦瞳孔だとか。他の種族は身体の半分が蜘蛛になってたり、鱗で覆われていたり、人面の鳥だったり、蹄みたいな脚が生えてたりと多様みたいです」


「ちょっとわくわくしてきた。けどその話はまた今度にしようか」



 人間が『身内』から若干の低評価っぽい点もさておいて、ボクらは朝の『挨拶』を取り留める。

 目を覚ませたシャーロット様や他の皆も、(そぞ)ろに顔を覗かせに来たためです。

 それじゃあ朝ご飯にしましょうか――。




   ◇    ◆    ◇    ◆




「うめぇなコレ、なんの肉だ……?」


「牛、かな……?」



 思わず答えに言い淀む。

 ドロップしたのは烏丸くん謹製のダンジョンだし、ミノタウロス討伐して出て来たA5ランクなので正しく『何の肉』なのかまでの詳細をボクらは知らない。

 なので、返答に困って烏丸くんに視線で救援を求めたのに製作者で生産者で在りながら目線を逸らす状況なのには納得がいかないが、知って困る情報を知らされても誰もが幸福になるとは限らないので押し黙るしか選択肢は無いのだろう。

 先ほどのエルフ談義の焼き直し。

 まあそれはさておき、



(ムッカ)か! へぇー、よく獲れたなぁアンタら!」


「牛で『獲れた』って表現どうなの」



 酪農家辺りが屠殺して出すならともかく、表現としては完全に牛泥棒のソレなのでは……?

 と、キンジョーちゃん(ボク)は訝し気に疑問符を挙げた。

 それともこの辺りだと野性の牛が居たりするのかしら。



「まさかね、常磐線を止めるヌーの群れじゃあるまいし」


「唐突に何処時空の話や……」



 埼玉県だけど?



「キンジョーちゃん先輩、この辺りだと牛や馬ってモンスター扱いなんです。水辺に棲んでいて、寄った人を引き摺り込むのだとか」


「置いてけ堀かな」


「むしろ河童やろ」


「どちらも違います。水棲牛ムッカ・フルメンティクス水棲馬カヴァル・フルメンティクス、下半身が魚だとかいう噂もある、凶暴な川辺の怪物です」



 どちらにせよ妖怪みたいなのは間違いが無いようだ。

 いや、妖精にそんなのが居たような気が……?



「それと、この世界では家畜は非情に少ないですね。山羊(ヤギ)家鴨(アヒル)鵞鳥(ガチョウ)、家鴨は皆さんも食べたはずですけど」


「え、何処で?」



 訊けば『貴族に給される鳥』が『それ』で、ボクらが毎食頂いた王宮で出された鳥料理は基本家鴨肉だったらしい。

 鶏じゃなかったんだね……。


 で、ぶっちゃけ顔の見覚えの無い髭面のこのおっさん。誰なん……?

 暫く話に付き合ったけども、其処が気にならないのはボクだけ……?

 っていうか、凄く、山賊っぽいです……。

 秒で話を逸らした自分がツッコむのはお門違いかも知れないけども。



「合ってますよ。こちら、この辺りで山賊業に営む近隣農村の青年団です」


「カラスマとは昨夜(ゆうべ)に風呂場で顔合わせたくらいの付き合いだな。死狗(しいぬ)をムチャクチャ簡単に潰してたのは見てたぜ!」


「????????????」



 だから一回の会話に情報量溢れるくらい詰め込むのはやめて。

 思わず宇宙の真理を覗き見た猫みたいになっちゃったじゃないか。



「一般じゃ例のゾンビドッグのことそう呼んでるみたいで」


「ルビまでついとったのに周知されとらんのやね」


「いよいよ戦国時代に突入する室町幕府みたいになってきたわね」


「王族の威厳が届いてない感じは、まああるよな」



 ペロッ、これは……群雄割拠フラグ……!

 って、そっちも気になるけどそっちじゃなくて。



「思い思いに言いたいこと口を()いたのはしかたないとして、先ず山賊業を営む、とは?」


「言葉の通りですね。貧窮に喘ぐ農民が武器を手に取り『自分たち以外』からの搾取を選択する。良く在る話です」


「何処界隈の【良く在る話】なんやろうなぁ……」



 そりゃあ、ネットの片隅のジュブナイル小説界隈?

 いち読者のボクとしても、そういう事態に遭遇したくないから確認取ったけど。



「昨夜会った?」


「風呂借りた時に」



 お風呂場は流石にハッテン場ではなかったご様子。



「この方らもエルフの『客』みたいで。俺が相手をした子とはまた別に、方々(ほうぼう)でお相手受け持っていたみたいです」



 良く見渡せば、カレーを受け取って思い思いに食事する広場では、似たような襤褸切れみたいな服装のおっさん層が数人ほど見かけられた。

 隠れ里とは、一体……?



「完全に隠蔽できてるなら、そもそも俺たちが此処を見つけることだって難しい話でしょう? 近隣の農村だと割と周知だったみたいですね」


「それで物資とか融通してもらう代わりに『お相手』っていう話なのね。血がどうのこうのっていうのはなんだったの……?」


「それも嘘では無いのですけどね」



 ふらりと、話に加わってきたのはエーリウさん。

 わぁ、相変わらず艶気が凄い。



「魔族という分かり易い別種族が居なくなってしまったので、やはり血の濃さを警戒してしまうのは妥当でして……。だから、あなた方にお願いしたのも、保険に近い程度の話でした。断られても、其処は仕方ないと思っても居ましたよ?」


「へー。そうなんですかー」



 言葉半分に聴いておく。

 そう捉えてしまうのも、云いつつ彼女の身体が烏丸くんに寄り添っている為である。

 一見すると、すっかりと誑かされているのは彼女の方に伺える。



「……だって、あんなに優しく扱われたのなんて、初めてで……」


「だから言ったでしょう、エーリウはまだ若いって」


「おい、子供が見てるんだからこんなところで口説くな」



 カナちゃんが睦言を交わし始めた烏丸くんと、顔を赤らめて寄り添うことを辞めないエーリウさんに纏めてツッコみを入れていた。

 子供って誰の事だ。

 ボクの事じゃないよな?


 あと姫様がなんかパルパル言いつつ後ろの方に居るんじゃが、放置してて構わんの?



「というか、集落に既に居たって云うのなら、『犬』の時にも手を貸せば良かったんじゃないのか。貴方方は、見てただけか」


「カナエ先輩、このヒトらは基本『村人』なんですよ。戦うことが『必須』なわけじゃありません」



 まあ、だからこそ自分たちより『弱そう』な相手に山賊やってる、ということだろうしね。

 とあるゲームではモンスターの襲撃にも鍬持って迎え撃った集落が居たけども、それだって突発的な状況だから火事場の馬鹿力でなんとかなった、って言い訳(注釈)が付きそうな気もするし。

 ちなみにライフコッドっていう村なんだけど。



「うーん、しかしエルフに遭って山賊に遭って、となんだかテンプレートな状況を軒並み踏襲してるよね。事実は小説よりなんとか」


「偶然にしては出来過ぎやけど、因果とか指折り拾って見ると意外と起こりそうな程度の話、ってことで済ませられそうでもあるなぁ。これでドラゴンとかと遭遇戦始まったら、いよいよファンタジーやけど」



 と、カイチョーと談話を交わしていた丁度其処へ、エルフのひとりが慌てて広場へと駆けて来た。



「みんな逃げてーーー! 飛竜が! 飛竜が襲ってきたわーーー!!!」



 嘘だろバーニィ。


~魔族関連

 どこら辺まで披露した情報だったのか、前ログ読み返さないと若干不安になる


~水辺で獲物を引き摺り込む牛馬

 イギリス・マン島にある伝承ではタルー・ウシュタにカーヴァル・ウシュタ

 妖精というカテゴリに属して、有名な【ケルピー】もこの類

 この世界では『流れる水辺に棲まう牛馬』という意味合いもあってこの名前。烏丸は王宮の古書などを読んでいたので情報を把握してます


~これは、群雄割拠フラグ…!

 ドリフターズ読むと良く判る。抑えつけていた『上』に支配力が無くなって逝ってバラバラに動き出すために起こる、六十四卦で云うところの沢水困からの天地否。仏教で云うなら末法の世。またはハンタハンタで喩えるなら女王が死んで勝手に動き出す蟻の群れ


~飛竜

 もう伝わるだろうけど意訳。じゃあ飛ばない竜も出るの?



次も来週目指して執筆開始ィ…!

特に感想が無ければ別作品書き始めます浮気野郎ですので応援ください…!

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― 新着の感想 ―
[一言] テンプレ的フラグが当たりましたね。まあ彼が斜め上に解決するでしょう。
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