№026 衣装を語り出すとそれだけで話が終わる罠 【遭遇戦】
「よし」
「良くない」
ガチャで排出した学校指定ジャージに着替えたボクらに、カナちゃんのそんなツッコミがさく裂した。
何が不満かな。
「露出が減ったから?」
「何についてのその科白かは問わないが、普通に言うぞ。――TPOを弁えろ……ッ!」
何が不満かなぁ。
【Storage】の応用簡易装備交換で着替えシーンのすっ飛ばしがご不満だったのだろうか。
そんなまさか、読者じゃ在るまいし。
コスプレが現地の方々に不評だったので着替えることも推奨されたわけだからガチャを回した。
何もおかしなところは無い。
多少宝石を溶かした程度で、その宝石の類もダンジョン探索時に時折ドロップしたのだから懐もあまり痛くも無い。
そう説明するとゲームっぽいけど、そういえば最近【Status】を見てなかったことを思い出す。
まあいいか、どうでも(無慈悲。
「俺だけか、俺だけが可笑しいのか、ファンタジーにジャージは無いだろ……ッ!」
言わんとすることはなんとなくわかる。
しかし魂の咆哮も斯くやと言わんばかりに吠えずとも。
あとはアレだ、現代ファンタジーというジャンルならワンチャンあるはず。
「難儀ですねぇ、先輩も」
「言っちゃあなんだが大体お前の所為じゃないのか……。というか、欲しいモノが結構頻繁に当たるんならもう名称換えろよ、ガチャ特有のわくわく感皆無だぞアレ」
「当たらなければ当たらないで文句を言う癖に……?」
「それとこれとは違うんだ」
珍しく烏丸くんが正しいことを口遊んでいる気配が伺える。
というか幼馴染のダメ人間感が珍しく表出している気配が伺える。
決め顔で廃人プレイに勤しむようなカナちゃんを見て、やはりガチャは忌避し退廃すべき文化だった間違いない、と決意にも似た感情が自分の中に芽生えることを自覚した。
恋させたいなら恋を誘えやー、ゲームに勤しんで人間関係蔑ろにするんじゃねーぞべらぼーめぃ。
一方で、動きの鈍そうなドレスから換わって、シャーロットさんは貴族向け乗馬服のようなピッチリとしたズボンのそれを身に着けている。
ジョッキーみたいな帽子こそ無いが、『動き易そうな衣装』と言えなくも無い。
草木を掻き分けて進むことになるのだから、幅広スカートのゆったりとしたドレスなんて論外だ。
ボクの説明で判り辛かったのならば、ベルでバラで有名な若干お古い耽美漫画の主人公の恰好を思い起こしてほしい。
アレは完全に男装だけども、上着に付いている意味の無さそうな意匠を『ひょっとして』と考慮すれば、身分の高い人達用の『体操着』が彼女の着ているそれに当たるのかも知れない。
どちらにしろ、前述した通り草木を掻き分ければそこいらの木々に意匠が引っ掛かりそうな出来栄えだが。
なお、メイドさんもメイド服を着ていない。
着替えの際はシャーロットさんの時同様、馬車と荷物を纏めて【Storage】に収納てしまった烏丸くんが速攻詰め寄られるという事態がひと悶着あったが、別個にして着替えをポポーンと出す微妙な離れ業を見たのだからボクらには文句は無い。
勿論、文句を言う当人らには一切意味の無いのがボクらの心情だ。
さておき彼女らが着替えた格好は、姫様ほどでは無いが余り汚れも目立っていない小奇麗なズボンタイプ。
下働きなので気に掛けなかったが、そもそも王宮のメイドになるくらいなのだからいいところの生まれに当たるのかもしれない。
メイドなのにメイド服を着ない羽目になったのでアイデンティティの崩壊につながらないことを祈っていたが、あの様子だと余計な心配だったかと自省する。
逆にもっとメイドとしての誇りくらい持てよ、と言いたくもなるが。
世の中にはメイド服のまま巨大な鉄球を振り回すスタイリッシュな少女や、ふたりのメイド力が漲れば熱光線だってブッパできると豪語するメイドロボだっているのだし、やはりこれも口にはしない。
余計なお世話ですね。そうですね。
「……逆に自分の中のゲシュタルトが崩壊し始めた感が否めなくなってきた」
メイドってなんだっけ(哲学。
関係ないけど新聞などの公用文では『メイド』ではなく『メード』と表記するらしい。
「タッくん、どないしたん?」
「気にしないでください会長、コレは余計で意味の無いことに思考を割いている顔です」
「……よく見てるのね、カナエくん」
「幼馴染だからな」
「いいなぁ、そういう幼馴染……」
冒頭の遣り取りはなんだったのか。
なお、最後に呟いたのは烏丸くんである。
順列は先頭に烏丸くんとシャーロットさん。
次にボクたち異世界勇者召喚被害者組4名、メイド服を着ていないメイド3名、最後尾にくっころ要員の御二方。
今更だが王宮組のライフラインを保持している烏丸くんが真っ先に死んだりすると預けてある荷物の残りは戻ってこないので、ローラさんとリヴィさんはシャーロットさんに次いで彼を守らなくてはならない。
が、彼の生存力と実力は割と周知の事実なので、入れ込んでいるシャーロットさん以外は烏丸くんを心配しようという気にはほぼならなかったり。
逆に人質ならぬ物質を握られているので、別の意味で危機が強い。
それはさておいて、後ろ3人の交わしていた会話を拾った烏丸くんの呟きに応えよう。
メイド? それはもういいや(思考放棄。
「そういえば、幼馴染にトラウマがあるんだっけ」
「なんで断定されてるんですか」
なんでも何も、理由は既に知ってるからなぁ。
「藍緒ちゃんに聞いた。恐妻な感じ、って」
明確ではないけど、意訳的には多分間違ってないと思われる。
それを答えると、にゃろう、とやや忌々し気に呟く彼が居た。
「仮にも自分の造った子なんだろうし、そういう扱いもどうなの?」
「生まれはそうでしょうけど、中で成長しているうちに自己改造だって施してるでしょうから、もうなんとも言い難いですよ。どっちにしろ出す気は無いので会うことも無いのですけど」
今更知られる驚愕の事実。
新キャラとはなんだったのか。
「いや、別に悪い関係ってわけでもないんですよ? ただちょっと俺よりも資質的な部分で上位互換なので単純に比較すると多少の妬み嫉みが疼くって程度で、且つハニートラップや恋人なんかを周囲に積極的に置こうとしている感が強くって、自分よりも強いのであまり強気にも出られないっていう葛藤みたいなものが………………。……なんで俺あいつと幼馴染やってんだろう」
なんだか自己否定モードに入り出しているご様子。
メンタル脆弱な後輩クンだなぁ(白目。
なお、ご本人よりもむしろ幼馴染=サンがハーレムを推奨しているっぽい部分には触れない。
自分で振っておいてなんだけど、話が逸れっぱなしだと先行きにも不安が出る。
なので、無理やりにでも話を現実へと回帰させるの術を敢行。
聞け!
「で。キミが感知した集落ってのはどの当たりなの?」
「ああ、もう少し歩きますよ。やっぱり隠れ里っぽい感じですね、税収逃れかも」
だとしたら国の頭に直結する人たち連れて行くのは、ちょっと心持ち最悪な初手かと思われる。
烏丸くんが携わると大概そうだけどね!
そんな面持ちでローラさんやシャーロット様を見る。
彼女ら、というより『立場・騎士』のリヴィさんや王宮勤めのメイドさんらは、烏丸くんの言葉で少々憤慨した様相を見せていた。
「世界が大変なことになっているのに、自分たちの食い扶持を守るために隠れ住むとは。民としての責務すら果たせないのか」
「自分たちだけ助かればいい、と思っているのでしょうね」
「見下げ果てた奴らですぅ」
きちんと払おう国民保険。
そんな文章が脳裏を過った。
おんにゃのこたちにめがっさ見下されて見悶える趣味があるのなら追及まではしないけどさぁ。
……年金? アレは使い道が不透明なままで信用が失墜してるにも関わらず巻き上げようって人たちだからなんとも。第一ボクは未だ払う年齢じゃないしぃ。
「……王の差配の行き届かなさが、このような不備を齎しているのでしょうか……」
「シャーロット様、貴女が気に掛けることなど無いのです。王の治政に不備のようなモノなど無いのですから」
そんな住処を追われた方々へ心痛なご様子を見せるシャーロット様へ、ローラさんは言葉を重ねる。
距離が開けていなければ百合百合しい絵が観れたかもしれないけど、先頭と最後尾なので些か間の抜けた会話になっておられる。
さておき、ローラさんの言葉に、シャーロットさんを含むボクらは何とも言いようのない貌をそれぞれ見せる。
政治に不備は無いのかもしれないけど、勇者召喚に踏み入った事実と、それを逆手に取られた実績があるからなぁ。
ちょいとばかし信用が失墜しているのが現状の王様だ。
いかん、このままでは話がループする。
「まだ見えないのかな?」
「逸る気持ちはわかりますのでせっつかないで。もうちょっと進めばそろそろ見えてきます――おや?」
多分先ほどから自分の領域を届かせているのだろう。
以前の説明でピンと来なかった方は『円』を思い出して欲しい、ネフェ●ピトーの。
網目なのかアメーバなのか、敵方ならば不穏だけど味方だとかなり頼もしいそれに感知が届いたのか、烏丸くんは微妙な顔を見せて言い放つ。
「これ襲われてますね。相手は……数が多いけど不規則、大きさはひとよりもひと周り小さめ、獣かな?」
「……獣? まさか、」
心当たりがあるのか、呟いたローラさんに全員の視線がぶつかった。
「勇者様方は王から聞かされていませんか? この世界を襲う異常気象と共に、それまでには見られなかった獣、『魔獣』が現れ始めたという事実を――」
「っ、まさか……!」
と、驚愕の顔を見せて、烏丸くんの指す方向へと駆け出してゆくカナちゃん。
そんな幼馴染を――悪いけど見送って、ボクは心の中で問いかけた。
ごめん、初耳。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「――うおおおおおっ!」
広場のように開けた場所へ出たところで、幼馴染のそんな雄叫びが耳に届いた。
ブレザー型の学生服を身に纏ったカナちゃんが、【はがねのつるぎ】を振り下ろして大きめの野犬を両断する。
そんなシーンに遭遇したらしい。
今は動物愛護の精神なんかはさておいて、ちょっと前言を撤回してほしい。
ヒトにTPOを説いておきながら、その恰好は無いだろう……。
「易い異世界テンプレみたいになってるなぁ」
「今になってそれを言いますか」
思わず呑気な声を漏らせば、返ってくるのは後輩の呆れた声。
目を向けると、やや神妙な顔で問いが続いた。
「さっきは王宮から下賜されたこの世界の服を着てましたけど、ひょっとしてカナエ先輩ってあの恰好でダンジョン潜ってたんですか?」
「あー、うん。そういえばそうだね」
割とどうでもいいことを尋ねられていた。
いや、実際アレはカナちゃんの勝負服なんじゃないかな、って思ってたり。
アレで剣を振るえるのも割と凄いけども、返り血や汚れなんかは一回【Storage】に仕舞えば落とすことが出来る。
考えてみれば洗濯要らずだ、画期的過ぎないかこの技術、元の世界でも流行らせよう。
「呑気すぎやないかな!? ローラさん、はよ救助に向かわんと……、って、なんでみんな傍観しとんのや!?」
ちょっと慌ててカイチョーが叫び出せば、そのまま飛び出してゆくのかと思いきやあまり全員が動く様子が無い。
この世界の方々は、やや難しい貌をして集落の方を伺っていた。
「ローラ、此処は、ひょっとして……」
「ええ、獣たちに相対している者たちの恰好からも……、そうでしょうね」
シャーロット様でさえ、なんだか行きたがらない様子を匂わせている。
野犬の群れが何人もに襲い掛かり、恐らくは集落の住人たちである彼女たちを追い詰めている。
そう、『彼女たち』だ。
ひと目見たところ、体つきのご立派な若干薄着の方々しか見受けられず、ちょいと失礼だがオークなんかが乱入して征くとすっごく違和感のない場面が出来上がりそう。
逆にそんな中にカナちゃんが入り乱れていると見るからに場違いなのだが、とりあえず今のところは誰もそれを咎めるほどの余裕が無い様子だ。
さて疑問を提示。
あの人たちの正体は『何』で、シャーロット様たちが関りを持ちたがらないのは『何故』なのだろうか。
「さておいて、状況を落ち着かせてから問うべきじゃないですかね。諸々のことは」
「……キミに言われたくは無かったなぁ」
心外な、という目を向けられるけど、割と総意だからね?
~幼馴染に厳しいメインヒロインがいるらしい
でも提督で奏者でプロデューサーでラブライバーなカナエくんが間違ってる気がするから不思議
~メイドのまま巨大な鉄球を振り回す
ごめん、サモン●ボードのコラボで当てた程度でそんなに詳しくないんだ
~二人のメイド力が漲れば熱光線だってブッパできる
前後に重なったメイド服装備の少女たちが指をそれぞれダブルとエムに型作り、その中心点を砲身に替える要領で、ご主人様を思い遣る心を滾らせる『ダブルメイドストライク』
無ければ無いで別のモノを滾らせろ! 日頃の不満とか、お給金のこととかでも構わない!
なお『メイド二人がそろえば誰でも出来る』と豪語した件のメイドロボはま●ろさんみたいにエッチな要素は一切ない。逆に加害者側みたいな中学生男子の感性を併せ持つ、CVだけ女性声優並みの紙袋装備で素顔非公開可変形型なのでご本人からブッパしたとしか思えない罠
~年金問題
結局何か解決したとも説明してないのに、未だに払わせられる義務を課せていられるのだから面の皮が分厚いなぁ、って
~本日のメタ
ネフェル●トーの『円』
強ち間違っても居ないけれども、こういうメタネタばかり推すと執筆力を疑われるってよく言われます
みんなもご注意やで?
~魔獣
応えられる下地があるのに未だにこの世界での呼び方等について質問が来ない
みんな気にしてないってことなのだろうか…
~新キャラ登場、次回へ続く
地の文読んでも理解が難しいのなれば描写力の足りなさがきっと足を曳いている
むへぇ




