№024 異世界の国 【こだまside】
街並みは予想以上に整然としていた。
なんちゃって豆知識のような中世フランスみたいに薄汚れた風景は微塵も無く、石畳で舗装された道にはサルワさんたちのような鱗人のひとたちが然程も急ぐこともなく悠々と歩く。
時折小さな荷車のようなモノを引いてゆくのは、先ほど乗せてもらった馬車を牽いていた巨体ではなく、多少体格ががっしりと目立つ普通のひとたち。
道で呼び止められて二言三言交わしたと思えば、呼んだひとも手を貸し荷車を押して進んでゆく。
石膏や煉瓦で組まれた家々は、水色だったり黄色だったりの壁が色彩豊かに景色を飾る。
各家庭の庭先には偶に芝や植木が程よく茂っており、道の端には透き通った清水が通って細い水路を形成していた。
嫌な臭いは微塵もない、率直に言ってかなり理想的な街が其処にはあった。
「……いめーじの『いせかい』じゃぜんぜんないね」
「異世界にどういうイメージを抱いているの」
イオリちゃんにツッコまれてしまったが、正直私たちの年代での『異世界』といえば下手に文化の遅れたファンタジックな悪所だ。
冒険者とかゴロツキとかがお酒を煽り、町の外にはモンスターがわんさかいて危険なので、安全なところを確保すれば生産施設と一般居住区が隣り合わせになる『ごった煮』のような世界。
安全な場所に危機が放り込まれているわけだから、江戸の頃みたいに『火事と喧嘩が華である』と無理矢理に推し上げられるくらいの印象操作と誤認識が蔓延っていても可笑しくない。
正直、そんなイメージを抱いていて今ではすっかりごめんなさいとしか答えようがなかった。
―この世界に来たときは水の確保にも大変だったけど、あれだけの河がそばにあるんだもん。すごい、恵まれた街だよね……。
「しかも浄化槽や上下水道も完備されてると思われますわ。衛生観念までしっかりとしてて……、正直、元の世界の都市運営と比較してもずっと良識に溢れてますわね」
「随分と褒めてくれるもんだなぁ」
ほのぼのちゃんやこはくちゃんの呆れてるのだか感嘆を漏らしているのだかむしろ両方な会話に、朗らかに返したのはテトさんだ。
呼んで欲しい名前だけで呼ぶと、某ボーカ●イドと被って非常に危ない。
「この国は高低差があるから、居住区の方に水を引けば廃水がそのまま下流にある農業地区に転用できる。もちろんそっちはそっちで別に水源が確保できてるから、正直居住区とかの区切りも大した意味を持ってない感じだけどな」
「ああ、畑の傍に棲みたがる人だっていますもんね」
のほほん、とイオリちゃんが返す。
お爺ちゃんが猟師だったらしいので、実感も伴っているのだろう。
『廃水』と聞くと薄汚れた水で、使いまわすなんて以ての外だと言われるかもしれないが、多分この世界というかこの街では洗剤のような界面活性剤は使われてないのでは?
予測でしかないのだが、それで上手くいっているようだからそうとしか思えないわけで。
「って、今はそういう話じゃありませんでしたでしょう!?」
こはくちゃんがヒステリックに叫んだ。
でもなぁ、
「ぶっちゃけ、にてはいるけど、みまちがうほどじゃないよ、そらとは」
―もうちょっと、ソラくんのほうが悪辣って感じ……。
「カッコ良さではテトさんのほうが上だよね」
私たちはしみじみと言う。
イオリちゃんの科白は現彼女にしては辛らつだが、割と妥当な評価でもあったりする。
イケメンと言い切れないことも無いとは思うのだが、時折調子に乗って「ヒャッハァー!」と進んで道化を買って出るところがあるのだ、私の幼馴染は。
そういう時は大抵、惚れるというよりはドン引きする。周囲が。
「聞くほどによくわからない評価を受けてるな、そのカラスマ・ソラとやらは。どういう者か、詳しく聞いても?」
「……くそげどう?」
―端的だけど言い過ぎだよこだまちゃん……。え、えーと、偉い人を罠に嵌めるときは愉しそうだね……!
「……周りに女の人の知り合いが多いかな……?」
「聞けば聞くほど酷くなってないか」
「わ、悪い人では無いのですのよ?」
イオリちゃんの目からハイライトが消えかけていたけど、テトさんがしみじみ真顔になるような私たちのそんな評価を、覆そうとしていたのはなんとこはくちゃんだった。
彼女、こう見えて実家の方からソラの暗殺を要請されたりしているのだけど、それをのらりくらりと躱し続けている以上、やはり何かしら思うところを抱いていたりするのだろうか。
でもソラがろりこんくそげどうなのは間違いようが無いと思います。
「ただ目を離すと少々暗躍が過ぎるといいますか、本人が守りたい対象とそれ以外との対応の格差が激しいといいますか、それゆえにやらかすときには盛大に犠牲を払うことも厭わないといいますか……」
……微妙に擁護になってない。
評価にトドメを刺しているような、そんな言い訳がまだ続く。
「……本当に、其処には悪意なんてものは微塵も無いんです。 ですが、今言ったように対応の格差が激しいので、守ろうとする少数が犠牲にならないために、それ以外の大多数を屠ることに躊躇が無いだけですの。 根底にあるのは善意なのですが、過程に被害が出ても結果になるまで誰にも気づかれないという……。 もちろん、『悪い結末にしよう』と動いているわけではないのは判るのですけれどね。 実際、本当に『悪い結末』を迎えているのは相応の『悪党』だけでしょうし」
「……なんだかちょっと会いたくなってきたな。少しだけ、興味がわいてきた」
ところで今更だがテトさん、テトラ=クロバードさんはソラとは本当に関係が無いのだろうか。
言われてみれば似ていたが、言われないと似てない辺りはふたりの性質的なところが似通っているということを指す。
そして其処まで似通うとなると、どうしたって彼がソラの『何か』であることが疑いようも無くなってしまうのだ。
たとえば、並行世界上の自分とか。
彼らが『ふたりいる』ことは、正直私としては気にはならない。
しかし、これが自分だったらどうなのだろうか、と思考が嫌な方向へと流れてしまう。
そしてこの世界の正体についても。
ひょっとしたら、私が予測したように此処が並行世界である可能性だって無きにしも非ずなわけだし。
……。
とりあえず、並行存在の自分に会ったら殺しておこう。気持ち悪いし。
「さて、そんな彼が居るところが判っていて、其処までの足を用意してもらえないかと、そんな話だったな」
胡乱に流れる私の思考を遮ったのは、そんな風に切り替えたテトさんの声だった。
同時にバサリとテーブルの上に広げられたのは、結構細部まで書き込まれた地図。
なにこれしゅごい。
「此処がティシトリア、で、キミたちの言う方角と距離を表すと、多分此処になる」
「……イグノディア?」
大きな大陸の下の方にある、西の端に値する河と思われる波線のすぐ傍。
先ず其処を指したが、あの向こう岸が見えなかった瀑布がこれだろうか。
そしてコンパスで距離を測り、引かれた直線はとある『島』と思しき位置を指す。
縮尺どうなってるんだろう、これ。
っていうかちょっと待って、これ、まさか『世界地図』ってこと?
「あの、これ私たちが見ちゃって大丈夫なんですか? こんな精度の地図は公開するのって危険なのでは……」
イオリちゃんが不安げにテトさんに問う。
目的地の名前よりも先に、そっちが気に懸かったのは私と変わらない。
「ああ、下手に何処かに吹聴しようとしてないことは読めるから平気だ。精度に関しては最近の調査でもそれほど大差も無いことが判明してるし、基本的にアレな国にも詳細は省いて卸している情報でもあるから問題は無い」
さらりと、心内を読んだことを暴露される。
というか、サルワさんたちの言っていたあの話マジだったのか。
……ん? それにしてはなんだか微妙に違和感が。
「ちなみに俺の国であるネフティスが此処だ。この国みたいに常緑樹が頻繁に見れるわけではないけど、負けないくらいには豊かな国だ。機会があったら見に来ると良い」
ティシトリアからさらに南西へ指を向けて、隣の陸地に当たるまた河の波線の傍を指す。
私が違和感の正体に届く前に話を切り替えられたが、下手に穿っても多分良いことは無い。
それに悪意を持たなければそれを返されることも無い、と言われていたのも事実だし、流れのままに話に乗ろう。
「ここがねこみみのひとのくに?」
「ああ。呼んで字の如く『猫耳人』、とはいっても、耳があるだけでそれ以外はキミたちと大差は無い。俺みたいなので驚いていたら、フォモルや翼人と会うと立ってられないぜ?」
【フォモル】は【スプリガン】の、【翼人】は此処から北東にずっと行った【ジルニトレア】の、それぞれの種族だと説明される。
うーむ、ふぁんたじぃ。
エルフやドワーフなんかも居たりするのだろうか。
「さて、話を戻すけど。目的地がわかっているなら引き留める理由も無いし、送り届けてやりたいのも山々なんだが、少々問題点がある」
「あの、その前に気にならないんですか? 私たちの言ってることって、けっこう荒唐無稽な気がするんですが」
テトさんが『問題点』というモノを説明する前に、イオリちゃんはおずおずと問う。かわいい。
しかし、彼は読心術が使えるのだから、要らない質問なのでは。
そう思ってしまう。
「いや、キミらが嘘を吐いてないのは読み取れるけれども、それ以前に自分たちの恰好を見直してみないか? そんな縫製技術、この世界の何処にも無いぜ?」
―「「あっ」」
言われてみれば、私たちは日本の女子高生の恰好、即ち制服のままである。
正直、異世界ファンタジーにそぐわないレベルではない。
不審人物の天元突破状態だったことを思い出し、何故かほんのり恥ずかしくなってきた。
そんな私たちを微笑ましそうに見て苦笑し、テトさんはもう一度切り出す。
俗に言うリテイクだ。優しい。
「さて、話を戻そう。イグノディアは此処300年ほど、完全鎖国状態なんだ。物理的に」
物理的な鎖国ってどういうこと。
江戸時代でもそんなんねーぞ、とツッコもうとしたところで、
――バァン!
と、扉が開け放たれた。
現れたのはいつの間にか姿を消していたこはくちゃんで、皆の視線を掻っ攫い、息を荒げて彼女は叫ぶ。
「――ッ、と、トイレが水洗でしたわ! しかもウォシュレット付き!!!」
―「「マジでェッッッ!!!?」」
「……それ、そんなに驚くことか……?」
異世界の生活事情、マジで重要です。
女子のそんな細やかな部分を気になってない、テトさんは呆れたような声を上げていた。
~異世界テンプレ、その幻想をぶち殺す…!
異世界と言えば何でも許される風潮
仮にもそこで色々と人類生きてるんだから、こっちの現実よりも必ずしも下にしなくてもいいんじゃないかと
~水道云々
維持と管理が現代に比べるとやや手がかかるだけで、やろうと思えば色々とできるはず
何も塩ビパイプが無くちゃ水を引けないわけでもないのだし
~流れるように罵倒される烏丸
別に彼女たちは彼のことを嫌ってるわけでは無いです
印象が悪いだけなんだよ。物事を解決するときに相手の心象を一切配慮してないだけだから
~さらっとサイコパスな思想を晒すヒロインがいるらしい
ありだと思います(白目
~何気に出てくる『世界地図』
手元にはあるのだけど公開の仕方を知らねぇ
まあ、みんな各々で予測できるように書けばいいか、と自らハードルを上げて逝くスタイル
~今更な事実
そうです。彼女たち制服姿でファンタジー世界旅してました
~大取りで全てを掻っ攫ってゆくヒロインがいるらしい
そんなことよりもこの国の発展具合について語ろうズ!
基本的に烏丸くんは結果は出します
でも作中に挙げられた通り過程が酷いので、理解されることがほとんど無いです
お蔭で世間一般からのイメージはパブリックエネミー
ごく狭い世間な上に公にすると被害が甚大になるので秘匿されていますが、居られるとけっこう迷惑な悪役というイメージは付いたままなので味方がいないですし、形成されたハーレムだって『何人かで囲っておかないと何仕出かすか危険』という理由ありき
勿論好意的なモノも隠れてはいますが、大きな理由がある『好意』なのでとてもではないですが『恋愛』が見当たらない、割かし酷い青春送ってますね
そんなことより次の話をお楽しみに!




