№023 ダンジョンの達人 【何度だって遊べるドン!】
「――で、ここ何処? というか、呼ぶなら呼ぶでせめて何か前以てひと言くらい欲しかったんだけど?」
「此処は王都から東へまっすぐ2000キロちょっとのところ、要するに北の大山脈とはまた別の【世界の果て】ですね。いやあ、1週間くらいかかりました。というか、一応着いたら出しますよ、って言いましたよね?」
「其処まで聞いてないんだけど?」
「スマン、俺が聞いてたけど言うのを止めていたんだ」
烏丸くん製作の人造迷宮【ダンジョンの達人~何度だって遊べるドン!~】から回収されて小一時間ほど。
『異世界モノ』ということでお馴染みのダンジョンをテコ入れの如く話に持ってこられたのかと思いきやほんとに持ってきていた事情のひとつには、偏にボクたちの経験の低さに原因がある。
烏丸くんから寄越された異世界生活応援セットの中で、カナちゃんを除くそれぞれに備えられた【魔導刻印】が主な理由だ。
しかし無理矢理に回収された事情が分からずに激おこぷんぷんどりーむムカ着火ふぁいやー!なボクに、待ったをかけたのはカナちゃんであった。
「目的地にいつ着くのかもわかっていなかったのも理由だが、『いつか出してもらえる』ってわかっていたらタクは探索をヤル気も起きなかったろ?」
「……ソンナコトナイヨ?」
心外である。
確かに、『奥の方へ行くと脱出できる方法がわかる』とは教えられていたので探索と、使うたびに馴染んでゆく性質を備えた【魔導刻印】のフル稼働は自然と取り掛かれたわけだが、それでも予め知っていたら修行にならないだなんて、ひとをニートか何かだとでもおもってるのではないのかまったくもう(末尾超早口。
「それで、中ではどうでござんしたかね?」
微妙な敬語で話を切り替えられる。
彼に空気を読まれることになろうとは、烏丸くんのクセに生意気だ。
「快適だった、とまでは言わないが、悪くは無かったな。なんとなくだが、神経を研ぎ澄ませた感じが残っていて良かったよ」
「生理現象に悩まさられることも無かったし、時間加速のお蔭で大した気にもせずに過ごせてたわ。もっとゲームっぽくすれば一般にも普及できるんちゃうか?」
「あれ以上現実感を喪失させると戻って来た時の乖離が酷いと思いますけど。こっちで体感的な違和感は感じないでしょう?」
「そうだな。その点が俺は推せてる」
「あああああ……。あああああ……!」
「ユラちんはいつまで絶望しとんのや」
主にカナちゃんに好評だった【ダン達】。
理由としては修行的な面を推薦されていた感じだが、ウチの幼馴染てばそんなに脳筋だったけか。
勝手に話を進められてもドクシャ的に困るだろうので、ボクのほうから補填的なことを語らせていただこう。
人造迷宮は烏丸くんの所持する【Storage】に当たるらしい。
ただし、それはボクたちが得られたモノとは大幅に異なる。
迷宮というか別世界レベルで次元が異なっているにも関わらず彼本人は中に入れず、カイチョーも言った『時間加速』というエフェクトのお蔭で『中のモノ』は劣化が激しいとか。
そこで管理に人材が必要となってきて、それが前回さらっと合同していた『藍緒ちゃん』になるわけだ。
結局彼女の正体についてはまったく聞いていないのだが、多分ホムンクルスとかガイノイドとかオートマタとかそういう類なんじゃないかな、って勝手に予想していたり。
ボクらの持ってるストレージは烏丸くんが言うところの『観測性量子学』とやらに準じて、中に情報素子として保存することにより状態の一定値を変動させない仕組みが働く。……らしい。
自分で言っててワケワカメだが、要するに一回中に保存すれば腐ることも劣化も無い、ということだ。
それでダメなのか、と思ったのだけど、『保存する』だけなら問題ないけれど、烏丸くんがああやって『空間を維持』しているのは『研究と実験』に理由が傾いている。
例えば時間経過で生成されるモノ、一般的に言えばお酒とかの発酵物や、植物や動物の促進栽培。
藍緒ちゃん曰く、それらの管理も兼ねて彼女はあそこで働いているという話なので、その辺りの理由も聞いていたところである。
時間だけならかなりあったからね。
「で、こっちだと1週間だっけ? 意外とそんなに経過しないもんなんだね」
「え。正気かタッくん」
「……タク、結構図太いよな……」
「それなりサバイバルだと思いましたが。相変わらずフルフラットな」
「なんでそんなみんなで驚きの表情なのさ。あとフルフラット言うな」
いや、言い訳すると、時間の長さを変えているというのが技術的な理屈がさっぱりなのはさておいて、漫画では結構良く見るモノだし。
主に『精神●時の部屋』とか。
ただ『本家』だと1日が1年だったのに対して、こちらのは半年で1週間程度。
比較対象を先に挙げてしまえば、物理的に真面目な話というモノは大抵が『この程度』と笑って許せる話になってしまうのです。
もうちょっと補足すると、迷宮内は烏丸くんの施した一種のバーチャル、仮想空間に値する。
仮想という割には実体もあって、死んだ時は痛みも感じたし、空腹時はお腹も空いた。
ボクらの状態は中では『アバター』を介しての活動であり、経験を積んで現実でもそれなりの動きと選択を取れるように、というのが目的であるのだから、やはりそこに現実との齟齬は無い。
……そう改めて鑑みると、アレを仮想だと言い張るのは何かが変だと思うのだけど。
ちなみにボクらの『本物の身体』はそれぞれ『アイテム』として情報凍結が施され、それぞれの【Storage】に収められていた。
外側から身体を好きに弄られないように、という意図らしいが。
カイチョーの言い分じゃないけど、コレ一般に卸せば下手なVRゲームに手を出すよりもずっと評判良くなるんじゃないか……?
しかしゲーム的な内容にも関わらず、レベルアップといったゲーム的な遊び易くなる要素は微塵も無く、かといってモンスタードロップや宝箱といった取得できるアイテムは情報凍結が施されたモノが多分にあったり。
素材剥ぎ取りの必要が無かったり、『アイテム袋がいっぱい』とかいう妙に現実的な要素が無いことは賛否両論かと思うけど。
……なんだろう、下手に考察すると危うい橋を渡らされている感が益々増えてきていて、どうにももやっとする。
もひとつちなみに、ダンジョンは全1666階層。
ボクらが遊んでいたのは表層の10階に満たない部分。
全階層攻略とか、マジで何年かかるのやら。
「あ。そういえば、中で蘇生術とか桃園さんが使えるようになってたんだけど、こっちでもできるの?」
「ええ、やり方を忘れてなければ」
「あああああああああああ」
あ、これ駄目だ。
まだこっちに慣れてないわ、もうちょっと放置しておこう。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「……それ、なにやってるの?」
最後にドロップしたA5和牛セットを中心にコカトリスからドロップした【薩摩地鶏】とオークからドロップした【鹿児島産黒豚】のラインナップでBBQパーティを開催しつつ、砂地で仁王立ちになっている烏丸くんに声をかける。
アイテムドロップの原理はさておいて、出てきた代物がちょっと高級なお肉屋さんとかで包んでもらえそうな笹の包装で切り分け不要というのはどうなのか。
加工品なん? とか、ミノタウロスって結局食用で合ってるの? とか、ラインナップの異世界感皆無じゃねーか! とか、言いたいことは色々あるさ。
でも美味しいお肉が目の前にあったら、そんなの些細な問題だよね!
若いからこそ肉を食う! 牛牛豚牛豚鳥でリズムを刻め!
ちなみにダンジョンから出てきたときは全員入った時の制服姿だったけど、せっかくのレア装備を大量確保してたので着替えも済んでいたり。
焼肉に制服はちょっとねぇ。
話を戻すが。
旅のお供に連れてきたメイドさんらと炭熾しをしつつも、どうにもちらちらと何かがずっと気になっていたらしい烏丸くんが、とうとう件の格好になったのが疑問の始まりだ。
要するに現在地は国境、この世界風に言うなら『世界の果て』で、烏丸くんが目を向けている方向は延々と砂漠が続いている。
しかし変な場所である。
砂漠なのだからもう少し暑かったり乾いていたりしても良いはずなのだが、根本的に境目の森、というか林? との区切りがはっきりとなっているし、そもそも砂もかなり水気を含んでいて湿っている。
この様子は砂漠というよりは、浜辺に近い。
でも、国境の先は完全に砂漠が続いていて、陽炎すら見えるくらいだ。
どうするの? ここからこのまま進むの?
「いや、さっきから色々と調べてたんですがね、どうにも要領を得なくて……。ちょっと本腰入れようかな、と」
「うん? うぉっ」
気づけば烏丸くんから黒い靄がドロドロと噴き出して前へと拡散して行った。
なにあれ。
放置してて大丈夫?
「なにそれ?」
「。ああ、刻印にけっこう馴染んでるんですね。ちょい稀釈してたのを濃い目に顕現させただけです」
「いや、答えになってなくない?」
改めて確認してみると、ハイメさんやウィティヒさんヒャルティさんなんかの顔馴染みのメイドさんたちには当然の如く見えておらず、シャーロットさんにお付きのローラとリヴィの女騎士コンビもなんのことやらと話についてこれてないご様子。
しかしビキニ鎧のカイチョーや僧侶コスプレの桃園さん(復活済み)には見えていたらしく、特にカイチョーが詳しいところを訊いてくれた。
【魔導刻印】に馴染むと意識が拡張され【知覚圏】というモノが出来るらしい。
出来る、というか元々人間に備わっている脳の感覚領域を指すらしいのだが、それが鋭敏になると自分自身を俯瞰的に見下ろしたり、視覚情報では本来は処理し切れない空間の揺らぎを捉えたり、文字情報から映像へと脳内誤変換処理のオーバーフローが幻視に繋がったりと碌な働きをしてくれないので、通常は意図的に脳の働きでシャットアウトされている機能だとか。
要するに、一般で霊感と呼ばれるモノだ。
「あれらは『実存しないモノ』ですが、『視えてしまう』とどうしたってそれを否定しきれなくなりますからね」
「烏丸くんは霊感とか否定派なんか」
「否定も何も、この世は割と見たままでしょう。見えないモノが影響を及ぼす可能性は否定しませんが、其処に『死者の意思』は働きませんよ。死んでるのだから、大人しくさせておきましょうよ」
なんだか妙な言い回しに感じるのはさておき。
つまりは意識的に出来ることが増えて『世界が広がったような感覚に陥る』、と搔い摘まれる。
学園都市の子女らはこれを幼少期からゆっくりと底上げしているので顕著にはならないそうだが、ボクらの歳になって【魔導刻印】に目覚めると酷い時には幻覚にまで発展するらしい。
さてその上で、烏丸くんから見えたモノにも正体がある。
連想するのは体感時間で半年前に、王宮で暴虐した【魔王】だ。
だけど、今日のコレはもっとうっすらとしている。
「要するに、それもキミの領域?ってやつなんか」
「テキトーにス●ンドでもいいですけど、」
「それやと伏字が面倒やん」
なんだか身も蓋も無い話を垣間見る。
「前にも言ったと思いますけど、俺はこいつが及ぶ範囲までなら索敵が可能なんです。で、さっきから稀釈した状態で砂漠の先の方へと伸ばしてたんですが、どうにも違和感、が……、……あー」
「え、なに」
説明の途中で、何やら気づいたような納得したような声を出し、ふむ、と頷く。
「――よし。喰いましょう」
「アレ!? 結論はどうした!?」
踵を華麗に翻しBBQに勤しもうとする彼に、思わずツッコミをさく裂させてしまった。
「いや、単純にこの先には行けないな、ってことを再確認しただけです。実際、此処から旅立った奴らは帰ってこなかったままなんだろ?」
「は、はい。記録にある限りは帰還者も来訪人もこの砂漠からは皆無だった、と城の書庫にも……」
烏丸くんに物理的に距離の近いシャーロットさんが応える。
あれれー? なーんか怪しいなー?
小学館で20年以上小学生探偵をやっている頭脳は大人な名探偵のキャッチコピーではないけれど、ぶっちゃけ烏丸くんには『詳しく説明しなかった』ために起こった『前科』がある。
今回も多分、そういう意図的に隠すべき情報を見つけてしまった感が強いのだけど、それ本当に後で説明してくれるのかな……? と僅かに疑心暗鬼になってしまったり。
そういう意図の目線を向ければ、そういう意図の目線でアイコンタクトを返される。
『シャーロットの前ではちょっと……』と。
りょうかい、後で聞くんだからねっ。
それはそうとカナちゃんがなんかすっごい目でこっち見てる。
なんぞ?
~【ダンジョンの達人~何度だって遊べるドン!~】
全1666階層の烏丸専用【倉庫】
上位666階層には実験動物や趣味で造った色んなアイテムが放り込んで在り、アイテムに関しては道中を探索すると見つけることができる
放り込まれた人たちは外から引き抜かれるか完全攻略しない限り出られることはないが、中に放り込まれた時点でアバターという本人に近似値の『実体』で活動することを余儀なくされる
アバターは基本成長しないが、意識は別なので動き方を試行錯誤できる
元ネタ? …『ルオゥン』という漫画が昔あってだな…
下位1000階層はダンジョンではなく完全に異世界がそれぞれ構築されており、烏丸が気づいた時にはいつの間にか多元宇宙に接続していたらしい
其処には様々な世界があり、世界間同士で交流を図っているグループや、表向きには完全に隔絶して独自の社会や神話を構築し始めた異世界もあるとか
後々出てくる予定? 無いよ
~観測性量子学
原理的には光子の観測に意味合いが近い
粒子であって波である、状態の重ね合わせにも似た理論または色即是空
ヒトの知れる範囲とそれ以外は非常にあやふやで、観測し切れない状態がどのようになっているのかまでは証明し切れない、という悪魔の証明にも似てる
難しいこと言い始めたら軽く流せ!
~情報凍結
キンジョーは同列に見ていたけど原理としては若干違うモノ
温度調整に関わる言葉に思われがちだが実際のところは『状態の保存』が優先されているので、他からの干渉を受け付けない『封印』に近い現象
技術的にはさておき、システム的には『現実』にも既に存在している
これを活用したら人類が好き好んで抱えている問題の8割は解決するのだが、一般に利用されているように見受けられないのだから研究中か使いたくないかのどちらかなのだろう
個人的にはどっちでも構わないので一言だけ。がんばれニッポン
~ミノタウロス&コカトリス&オーク
ゲーム系ファンタジー世界ではすっかりお馴染みの『食用に転用できるモンスター』
ミノタウロスの元ネタはミノス王の息子で、牛の頭をしているが身体はとりあえず人間
最初にそれを喰う発想に至った奴らは間違いなく人非人
なお、このダンジョン内のは牛から『進化させた』人造生物であったり
どちらにしろ討伐するとアイテムドロップで済ませてもらえるので直接喰らうわけではない
~ハイメ&ウィティヒ&ヒャルティ
元々キンジョーらに付けられていたお付きメイドの3人
城ではもっと数が居たが、旅に出るということで厳選された。美少女
~ローラ&リヴィ
シャーロット付きのくっこr間違えた女騎士コンビ
仮にも王女が旅についていく、ということで同行を要請された
国側からすれば完全にスパイだけど、烏丸くんは優しいから見逃してあげてます
~霊感
見えないものが見えるのだから脳機能の暴走以外の何物でもない
シュミラクラはまた別
~霊観
しんだひとはかえってこない
相変わらずごちゃごちゃしててスンマソン
でも書きたかったことの1割を懸けた希ガス
感想・評価、お好きに罵っていただいてたぶんへーき…です
ではまた来週




