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№022 異世界を旅、したかった…っ! 【キンジョーside】


※あとがきに注釈を書き加えました


 ――暗く、重く、湿った土に還らせろと、翳りを帯びた闇が形となって手ぐすねを引いている。



 ハイヌウェレ、という名の女神がいる。

 それは人類文化の起源のひとつ、日本のオオゲツヒメ神話に近い穀物を生み出した神を指す。

 彼女の名を取って、それらの食物起源神話はハイヌウェレ類型と呼ばれることが多い。

 ただ広く知られていないが、ハイヌウェレ自身は穀物の女神というわけではない。

 彼女は世界で最初の自殺者だ。



 ――水だ、温く濁った泥水だ、肌に染みて服を汚す、泣き乍ら嗤った様な貌がこちらを覗くのだ。



 彼女は自ら首を括り、その死から撒き散らされたモノこそが起源を生んだ。

 穀物は後だ、生み出したことこそが彼女の本懐であり本質。

 即ち、彼女は死を以て命を生んだ地母神に当たる。

 そう考えると、むしろ彼女の立ち位置はティアマトのような世界起源に充てることこそが正しいはずだ。

 だが、そうはならない。



 ――貌の無い貌だ、感情の籠もらない眼だ、虫のように魚のように、意図のない瞳がジッと覗く。



 何故ならば其処には既にヒトが生きていた。

 変えるべき世界は無く、進めるべき文化が形成されつつあった。

 物事の立ち換え、進化ではない進歩。

 これを【パラダイムシフト】と呼び、次の段階への進出そのものを指す。

 それは大概が孵化逆で不可逆、換わってしまえばもう以前に戻ることはできなくなる。



 ――真綿が首を絞めるような、圧迫感はゆっくりと、ボクの息を、留めて、停める、吐くことも、吸うことも、儘ならない。



 『自ら命を絶つ』という文化を生み出したことで、自死の選択肢と自由を彼女は世界へ知らしめた。

 例えば基督教は『永遠の魂』という概念を教えることによって自死を狭めさせたが、それは宗教が人を救うためでは当然無く、社会を稼働させる歯車の損失こそを惜しんだ極めて政治的な理由に当たる。

 宗教は人間を救わない。

 人間の味方は人間以外の何物でもないのだから、其処に意志だけが独り歩きをし始めた宗教の立ち入る余地は当然無い。

 故に、己を殺さない理由は無いのである。



 ――帰るのだ、帰らねば、帰って、安らかに、眠るために、還らねば、ならない。



 ハイヌウェレが自ら死んだ理由は何だろうか。

 『死』とは終わることだ。

 終わり、その先が無いことだ。

 無いことが確定しているのだから、死の後に明確な何かを期待して死んだとは到底思えない。

 自死を選択する者は、絶望していて然るべきなのだから。



 ――眠い、落ちて、動けない、引き込まれて、這い摺り、前へと進むことも、返ることもない、ねむい。



 絶望したのだ。

 世界に。

 ヒトに。

 未来に。

 『(彼女)』は、生きることに。



 ――ねむい、ねむい、ねむい、ねむい、たてない、ぼくは、もう、ここで、ねむるしか、なi











「――ぅ起きろバカ娘ぇっっっ!!!」


「――んげろっぱ!?」



 鳩尾に25のダメージ! 何故か吐き気がこみ上げる……!



「ぉヴえ゛え゛ええぇ……、にゃにすんですかい桃園さん……、」


「のんびり死んでてイイ状況じゃないでしょうが! アンタが居なくてアレをどう倒すのよっ!」



 物語のヒロインにあるまじき吐瀉系の目覚めで恐縮ですが。

 どうも。お馴染みキンジョーちゃんです。

 うーん、最悪の目覚め……☆


 気持ち的にコーヒーか紅茶でブレイクタイムを楽しみたいのに、我らがパッションピンク的にはそんな(いとま)は無いと仰る。

 何やら人生観の変わるような(ヤッベー)モノローグが流れていたような気もしたのだけど、明確に容赦の無い微妙に威力のちまいダメージ判定(幻聴)の目覚ましでその残滓も雲散霧消と相成り申す。

 フゥム、未だにやや気持ちが乗ってない感触で、凡そキャラの軸も傾きっぱでゴザル。

 SAN値が削れた? HAHAHA、何を仰る。



「いい加減起きないともう一発食らわせるわよ」


「ガッチャ、良い目覚めだったゼ☆」



 よぉし起きた、起きましたよキンジョーちゃん復ッ活!

 さてそんなわけで、いつものお仕事(モノローグ)に舞い戻りまーす。


 そのためにはまずは状況把握。

 場所は穴倉の奥底で、一般的にダンジョンと呼ばれる迷宮の奥深く。


 遠目に対峙しているのは、板金鎧でガッチガチに装備を固めたタンク役の色気皆無なカイチョーの雄型に、着物で回避率と俊敏性を底上げしたカナちゃんが片刃包丁で剛腕を逸らす人類観が塗り替えられる光景。

 そのお相手は、ミノタウロスと呼ばれる3・4メーターくらいある超ムッキムキの牛頭である。

 ゲーム宜しく斧とかの武装はしてないのだが、首から下が蹄では無くて人の肩と腕力を兼ね備えちゃった中途半端な巨人であり、巨体に合わせた膂力で剛腕を振り翳してくるから始末に負えない。


 文明の生まれる以前、石器も生まれない原始の時代、爪やら牙やら角やら毛皮やら鱗やらと言った目に分かる『武器や防具』を二足歩行への進化の果てに失った原始人が、それでも生き延びて勝者足り得たのは『モノを掴んで投げる』ことが出来たことだ。


 道具の発明と使用はその後で、そもそもが『使いやすいモノ』を『使う前提』が生まれたのが『掴む』ために進化した手の形状と『投げる』ことに優位性を置いた肩の可動域。

 石だろうと砂だろうと、掴んで投げれば充分な武器で、距離を置くことが可能になる。


 距離を取って戦えるというそれだけで、『一方的な展開に出来る』だけで優位性と安全性は格段に上がる。

 『同じ武器』を人間が『それ以外』に用意されていたら、人類は地上の支配者足り得なかっただろう。


 つまり、ミノタウロスはそれくらいヤバいお相手だ。

 後何故か『カイチョーのお姿』という言葉がたぐいまれなる誤変換を見せたキガスル。



「わあぉ、ひょっとしてピンチっぽい?」


「目が覚めたかタクっ!」


「私らだけじゃ決め手に欠けるんや! タッくん、はよ頼めんかぁー!?」



 バックアタックに関しては心配していない。

 そっちはフォローが入っているので、基本的にこの迷宮では対峙した相手がいる方向に懸かり切りで戦える。

 しかし、遭遇一手目は別であったようで。

 後方支援且つ火力重視の魔法使い型のボクは基本的に最後尾配置なのだが、件のミノタウロスは壁を壊してエンカウントしたらしい。

 お陰様で初撃死亡。かー、情けねえ話だねぇ(江戸っ子感。


 しかも桃園さんに『復活(助けて)』貰うとは。

 嫌いな相手のはずなのに、こういう危機的な状況だとそんなことも言ってられなくなっているらしい。

 まあ、悪い兆候じゃあ無いよね。

 てなわけで、



「りょーかいっ! 距離とって、指向確認、撃ち方ぁー、はじめっ!」


「はよとは言ったが私がまだ逃げ切れておらんよ!?」


「会長ォ! 伏せて!」



 おーらいおーらい(心配ご無用)むわぁーかせてっ(ボクにお任せ)☆、フレンドリにファイヤっちゃうようなことは致しません!


 【魔導刻印・雷汞】の『起発』『散逸』の性質に則って干渉できる限界点まで『手』を伸ばし、『発破』『結実』の性質に則って熱量とベクトルを集約させるイメージ。

 使ってみて初めて分かったけど、これらって結構イメージで好きに動かせられる。


 『好きに動かす』と言うよりは、『望む方向へ性質を固定させてゆく』が正解らしいけども。

 件の学園都市の能力者というカテゴリに当たるおんにゃのこたちは、そうやって『できること』の制御と固定を強いられていたのだと烏丸くん(研究者)は言っていた。


 説明に引っ張られたせいなのかイメージは意外と迂遠系だけども、『発しているのは指先から』という固定観念で補正してあるので本物の魔法使いみたいな現代ファンタジーな砲撃がぶっぱできたり。


 そんなわけで、今日のお昼は焼肉です!



「『雷霆よ、万里へ轟け――! 【トォール・ハンマー】』!!」



 そして、――轟音。


 指先から放たれた『それ』が刹那に広がり集約し、牛頭の魔獣に降りかかり『内側へ向けて』爆縮する。

 対象が活動することで周囲に滞空する空気の循環による運動エネルギーと静電気、それから発せられる熱を『集めて』『気化を促す』。


 それは的の質量、すなわち燃料が大きければ大きいほど多ければ多いほど威力が上がり、反射炉を造るような応用で簡単に上限が突破できる。

 要するに核反応と同じものだ。

 専門用語だと『フィジカルフィードバック』とか言ったはず。


 それにしても、烏丸くんがノリノリで技名叫んだりする気持ちが、よーくわかる。

 なんていうか、



「『吹き荒べ、元素の、彼方まで――』」



 こうやって決め台詞でビシっと決めると、チョーキモチイイ――、



「なにやっとんじゃアホムスメぇー!?」


「あいったー!」



 スパコーン、と軽い音がしたけど殴られたの板金鎧で覆われた手甲だよ!?

 カイチョー、刻印の応用で手加減が益々上手くなってる!



「死ぬかと思ったわ! フレンドリーファイヤが無いんは褒めるが、トリガーハッピーも大概にせえよ!?」


「だって気持ちよくって! これ味わっちゃったらもう病みつきで!」


「せめて言い訳のひとつもせんかい!?」



 怒鳴られてもういっかいパッコーンと(はた)かれる。

 ハリセンで突っ込まれるのと同じくらいの気安さで展開されるギャグ時空に、此処がダンジョンの暗い穴倉であることも忘れてしまいそうだった。



「お疲れ様です、【A5ランク・和牛1キロ】ドロップしましたワン」



 犬耳の女の子がひょっこりと現れる。


 とは言っても、頭についているそれは目に分かる装飾品で、道中に拾ったレア装備だ。

 装備している者が味方にいるとアイテムドロップの確率が上がるらしい。

 なんだか益々ゲームっぽい。


 ふと見ると、勇者パーティに危機を(もたら)していた牛頭の怪物は仰向けになって焼け焦げて、四肢を仰天の形で硬直させたまま自己崩壊が始まっているところであった。

 魔物の死体はああやってダンジョンに回収される仕組みらしい。


 さておいて、実は付ける必要のない語尾であざとく無表情キャラを敢行してくる女の子。

 褐色肌に藍の髪と銀の瞳、ボクらの誰ともグラフィックが被らないように予め配慮してあったとでも言わんばかりの特徴を備えた同い年くらいの少女。

 そんな彼女に、ボクはその髪色に沿って付けられたという名を呼ぶ。



「『藍緒(アイヲ)』ちゃん、そのあざと可愛いキャラいつまで続けるの? ぶっちゃけ似合ってないんだけど」


「マスターの幼馴染がこの通りアザトース系なので、3サイズ上から90・56・88の私が同類項に成り代わり性癖を塗り替えてやる所存なのです。なのでしばし練習台になってくださいお客様方」


「相変わらず歯に衣着せない……。ていうかアザトース系って言葉は普通に間違ってない? どんなんなのその幼馴染さん」



 呆れて返すボクの言葉に「……強ち間違ってないとも言い切れませんね。本気を出すとマスターでも勝てないと、能力だけならば完全上位互換だと仰っておられましたし」と、やや本気っぽく斜に蔭るここぞとばかりの表情に『マジかよ』となる一同。

 そんな幼馴染がいるのか彼は、此処から出られたら少しは優しくしてあげようかしら……。


 さて。

 遭遇戦を突破した勝利の余韻に浸り、ここいらで一休み行きたいと腰を落ち着け始めたみんなを見て思考を切り替える。

 ボクはボクで、いい加減にこんなところに籠っている理由の方を語るべきなのでは、と語り部としての役割を全うしたいがためだ。

 当然、語るには間というモノは大事だ。

 間違っても怪物との遭遇戦時に回顧するべき内容ではないので、此処まで自重を守ってきたのである。

 道中色々明後日の方向に思考が逸れていた? 何を莫迦な。


 それでは語るとしよう。

 そう、あれは今から36万5千……、いや半年ほど前の話d











 ――ぃひやああああああああああああああああ!?」



 唐突に。

 誰かの悲鳴が響き渡り、全ての思考が遮断された。


 いや、正しくは思考が途切れたのが先で、その直後に悲鳴が聴こえたのだ。

 そして落ち着いて思い直せば、その声は良く知る桃園さんのモノで――。



「………………………………………………は?」



 ――遠目に見えるのは陽炎、青い空から照り付ける太陽の光が燦然と降り注ぐ。

 揺れるように感じるのは地面か己か、座り込んでしまった砂地の湿った感触は確かに膝先を汚している。

 どこだここ――。


 思わず内心で気が抜けるほど、間を置かずに切り替わった周囲の景色に茫然としてしまう。

 あ、ありのまま今起こったことを話すぜ、とポル●レフになりそうな焦燥を抑え込み、なんとか周囲へと首を回せば、砂地の上でのたうち回っている桃園さんとそれを眺めている褐色白髪の姿が第一に映った。

 ていうか烏丸くんだった。



「……え、桃園先輩どうしちゃったの……?」


「あー……、今までずっと暗いところにおったからなぁ、()所恐怖症にでもなっとんちゃうかな」


「あぁ、桃園の気持ちもなんとなくわかる。いつ何とエンカウントするかもわからなかったし、死んだ経験は桃園がダントツだったしな……」


「索敵係はいなかったんですか?」


「その索敵がユラちんやったんよ。つっても、それほど精度も上げられんかったみたいでな、」


「どっちかというと蘇生係に傾いていたが……」


「……、後でまた講義しますか。どっちかというと、蘇生役は嶽本先輩の方が適してますし」


「それもっとはよ言って?」



 ひと足先に気持ちを持ち直せていたのか、カイチョーとカナちゃんがのほほんと対応していた。

 ああああ、あああああ、フシャー! ともうどんどんと野生化して逝くパッションピンクのことを放っておいて。


 ……忘れないであげてー!



~ああ! 窓に! 窓に!

 勘違いされそうですがハイヌウェレさん並びに云々の冒頭はクトゥルフ系列ではございませぬ



~祝、キンジョーちゃん働く

 もうニートとは言わせねぇ!



~雷霆よ、万里へ轟け――

 詠唱、と見せかけてかっこつけだけの前置きと呪文

 意識的にまたは対外的に、この前置きはトリガーの役割を果たしていると思われ

 ちなみに呪文そのものはムジョルニアだろうがミョルニルだろうが高尾サンダー!だろうが別になんでもいい



~吹き荒べ、元素の、彼方まで――

 前言が術発動のトリガー替わりとすればこっちは完全に決め台詞

 戦闘終了後に『我が勝利、魂と共に――』と決めるのとほぼ同義

 ところでマテリアルパズル、モーニングツーで連載開始したんですってね!



~フィジカルフィードバック

 直訳すると『実面への返還反復』とかになるので多分間違えてる

 本人的に言いたかった現象そのものは核反応とか言ってたので『ポジティブフィードバック』が正しいのではなかろうか、と

 『フィジカルフィードバック』が指す言葉や概念そのものは未だ成立しておらず、検索をかけても出てこない

 しかし意味合い的に同義の現象や才能そのものは既にあり、敢えて説明するなら『実体験へ過剰反芻させる想像性』が適切となる。強ち間違っても居ないキガスル



~アザトース系幼馴染…イッタイダレナンダ…

 明白にはクーデレ系と言いたいのかもしれない

 藍緒ちゃんの詳細についてはまた次回




1話5000文字程度を目指してますので短めです

だのに間に合わないとか何してんだろうね私は


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