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№021 異世界を旅しよう 【こだまside】

今書き上がったわ!(元気系お嬢様風


 馬車に揺られて荒野を進む。

 今更になって思うが、馬車の無い旅路は割と地獄だった。


 日差しがそもそも日本の夏日と比較にならないほどに照り付けて、遮るモノが手元には無い。

 【領域】の副次作用を転用―電磁波の膜を生み出すことで疑似的な大気圏を作成―し光と熱エネルギーの大幅な遮断は出来ていたが、最大の問題点は移動方法だった。


 イオリちゃんの対そら用逆GPSのお蔭―星の球状の傾き加減なんかの計測―で大まかな方向と距離を測ることが出来たが、1万キロとか飛行機があっても達成には難しい距離だ。

 日本の交通機関に慣れた、普通の女子高生には無理ゲー過ぎる。

 そんな状態で、乗り合いの許可を得られたのは幸運だったと言っても良い。



 照り付ける日差しへの対策なのか、テントのように大きく布と木組みで荷台部分を囲っているそれは、現代でも自衛隊なんかがトラックに使っている技術のもっと初期の形と言えるのだろう。


 馬の手綱を扱う御者台と乗り込み口の後方とが開けているので、日差しを遮っているのに薄暗さや空気の籠もりは然程も無い。

 正直、乾燥したこの地域では砂埃なんかもあるからこの形式は片手落ちになるのだが、しかし乗っている人たちにその辺りの不快さは感じ取れないらしい。



「ケツがクッソいてぇですわ」


「おじょー、ことばづかい」



 なんちゃってお嬢様のこはくちゃんに注意を促す。

 元々お嬢様学校として名を馳せていた多宝天壌に通う身として家の方から矯正されていたらしいのだが、こはくちゃんは元が普通の女の子の思考と口調なのに『ですわ』と付けるとそこはかとなく口汚くなる。

 いつも思うのだが、なんだか理不尽なジョ●レス進化を垣間見させられている気分になる。


 さておき、彼女は彼女で荷台に揺られることで感じる振動の方に不快さを見出していた。

 それを口にするのは物言い的にも普通は憚られるはずなのだが、彼女にその辺りの機微は働かないらしい。

 そらも他人の心情に関しては時々気にも留めないレベルでスルーを決め込む時があるし、ひょっとすれば血なのかも知れない。



 私たちは怪物を――、馬車の人たちが【巨獣(ムスタファ)】と呼ぶモノを倒した後に、イオリちゃんの言う通りに怪我人が居た彼らに連れ立ってあの場所から出発していた。

 馬車に揺られながらでもほのぼのちゃんの治療術はフルに有効らしく、その点を説明したら急いで離れることを注意されたのだ。


 ……なんでも、件の怪物はその死骸からも他の怪物を誘引するらしい。

 討伐は味方側に被害が出ることを考慮しなければなんとか可能だが、それが連戦になる上に件の怪物を討伐しても骨肉を何にも活かせないために好き好んで戦おうという者が居なくなっているのだとか。


 こんな物騒な世界でよくもまあ人間が生きてられる、と戦慄したが、何が何でも戦わなくては生きられないわけでもなく、普段は怪物らが襲ってこない場所を得て彼らは国として生存していた。

 そうして今回の彼らの目的は、それでも必要な生存圏の拡張と確保に準じる調査の遠征。

 そこに私たちが通りかかった、とそういうわけであるそうな。



 事情は通訳係のイオリちゃんを通じてある程度理解したが、改めてこの世界の『人々』の様相を伺う。


 怪我人含めて7人程度の少数精鋭、中には女性もいる。

 しかし、その見た目は普通の人間とは言い難い。


 トサカのように逆立った硬そうな髪質はさておき、瞳孔は黄金色で縦に開いている。

 肌の腕先から手の甲、こめかみから耳の後ろを通って首周りに至るまでを鱗が覆っており、全体像から爬虫類系の印象を受けてしまう。


 しかし話に又聞く『リザードマン』とか『ディノサウロイド』や『ドラゴニュート』のようなファンタジーからSFまでを網羅する亜人種ほどに人間離れはしておらず、お蔭でモンスター系と言うよりは外国人に遭遇したかのような感覚。


 忌避感だって然程も無く、言葉が通じる分には純粋に違和感しか感じられなかった。



「お嬢ちゃん、鱗人(うろこびと)を見るのは初めてかい?」


「しょけん。おじさんのくにはみんなそう?」



 サルワさんと名乗った人の好さそうなおじさんに問われた。

 不躾だったとは思うけど、丁度良いので問いを返して会話の糸口に換える。


 私は何故か言葉にすると何処か拙くなるので、言葉少なめに言いたいことを言うしかない。



「うん、【ネフティス】のひともいるけど、そんなに多くは無いね。【ディスコルディア】や【スプリガン】は全然いない」


「へぇ」



 なるほど、ぜんぜんわかんねぇ。


 国の名前なのだろうが、固有名詞を多用されるとさっぱりぽんである。

 頷いたはいいが、会話の広がる糸口にするには不発過ぎたのでどうしようもない。

 どうしよう。



「……ねぇ、この子たち、やっぱり違うんじゃない?」


「みたいだなぁ」


「? 何がですの?」



 カマナさんと名乗ったお姉さんに言われて、サルワさんが頷く。

 その遣り取りは彼らの間にしか意味合いが通じておらず、其処へこはくちゃんが不躾に疑問符を挟んでいた。

 遠慮のない物言いが腹積もり無く出来るその精神性は、こういう時に羨ましい。


 ちなみにお姉さん方の髪は男の人ほど逆立っておらず、しかしけっこうギシギシと硬質そうなのは変わりはない。

 やはりその辺りの毛や皮質は彼らの特徴に当たるらしい。

 『鱗人』とは、上手く呼ぶものだ。



「いや、先に謝っとく。スマンね、お嬢ちゃんらのことを【ディスコルディア】辺りの工作員かと思ってたんだわ」


「【巨獣(ムスタファ)】を一刀両断した攻撃や、あの子が使ってるような治療系を『術』にして使うのはあいつらの特徴だったからね。思わず警戒しちゃったのよ」


「警戒は当然ですけど、そこからの納得がイミフですわね。どういう推理でそうなったのかがさっぱりぽんですわ」



 こはくちゃんの純粋な疑問符顔に、サルワさんもカマナさんもお互いを見合って苦笑する。

 心なしか、馬車の中も色々と緊張が解けたような空気になっていた。



「なるほど。キミたちは根本的にここいらの事情を知らないのか」


「そんな工作員いるはずがないわね。警戒損よ、まったく」



 ひとしきり笑い、しかし私たちにはその意味が全く通じない。

 そんな小首を傾げた可愛らしい私たちに、改めて彼らは説明を始めてくれた。



「【ディスコルディア】ってのは軍事と宗教の国でね、彼らをそう呼んでいるのは『外』ばかりで、彼ら自身はそう呼ばれることを好んでないんだよ」


「少し古い言葉の意味で、『不協和音』という言葉から名付けられた国名だからね。ちょっとでも学のある奴は名付けられたことに込められている印象がストレートに通じるのよ」


「あー、それで怒らなかったから私たちは違う、と」



 イオリちゃんが納得したように応える。

 私たち日本人がイングランドのことをイギリスと呼ぶようなものだろうか。

 ……違うかな?


 しかしそれ以外にもあると、彼らは続けた。



「それもだけど、彼らの保守性はかなり病的だ。言ったろう? 軍事の国だって」


「仮にあいつらの『転位術』が5000キロを超えられるとしても、貴女たちのような実力者を使い捨ての工作員にするほど馬鹿じゃあない、って理解できるわ。仮に工作員だとしても、少数精鋭過ぎて『地の利』を補う暇も作れないでしょう?」


―あぁ……、挟撃するにしても攪乱するにしても、私たちみたいな小娘では地力が敵いませんものね……。


「そういうことだな。……今どうやって喋ったんだ?」


「なんか、脳に直接聴こえたような……」



 ほのぼのちゃんの独特の口調で逆に混乱している彼らはさておいて、その辺り詳しいのは流石だと思う。

 流石は政府からソラへハニトラ要()として密命を受けた女、そっち方面での理解力は群を抜いている。

 ちなみに誤字ではない。


 それにしても、隣国が5000キロっていうことだろうか。

 どうなってるんだ、この世界は。

 あと私たちみたいな『術』の使い手が珍しい、みたいな話も言っていたが、ファンタジーな世界とひと口には言い難いのだろうか。



「おぅい、嬢ちゃんら、河が見えたぞ。水が足りないってんなら、汲んでくりゃあいい」


「かわ?」



 手綱を握るタローさんから呼びかけられる。

 今更だが、馬車を引くのは『馬』ではない。

 その獣は犀のような外見をしているが、脚は6本あり身体幅だけで10人乗れる馬車を凌駕している。

 1頭だけで馬2頭分の馬力をその巨体で生み出すほどのことはあり、小石や枯れ枝なども全て踏み均して悪路を突き進んでいた。

 ちなみに雌であるらしい。


 そんな彼女の後ろから、言われるがままに指さされる方向を覗いてみる。

 向こう岸の見えない豪水が、ドンザドンザと暴れ流れて逝く姿が目に映った。



「……川ですの、これ?」


「わかりづらいけどな、流れの穏やかな時は向こう岸がうっすらと見えるんだ。ちなみに橋は渡せない、危な過ぎてな」



 それは仕方がない。

 しかし、この様では水汲みなどもとてもではないが期待できない。

 というかまさか、この川を渡らないと国に着けないとか、そんなオチじゃあるまいな。



「この河は幅が50キロ、長さが大体2000キロくらいあるんだが、この辺りからなら良くて半日くらいか。河に沿って山を下って往くと、俺たちの国【ティシトリア】に到着する。国土は40000㎢くらいで、総国民数は45000弱。一応は王政国家だけど、全域が首都って感じだな」



 と、サルワさんが必要以上に教えてくれた。

 比較対象が無いからなんとも言えないけど、とりあえずこんな大運河を渡る必要は無いようで安心した。

 それよりも問題は、その国から私たちの目的に届くのか、という点だ。

 しかし、どう切り出せば良いモノか。



「……さて、お嬢ちゃんらをどうするか、ってことになるんだが……」


「まあ、『王子』に任せるしかないんじゃないの?」


「おうじ?」



 いきなり王族に引き渡されるのか。

 こちらとしては話を進められる人材と渡りをつけていただくことになるのだから願ったり叶ったりなのだろうが、そんなにスムーズにやってしまって良いのだろうか。



「あの……、王政国家で王族にいきなり引き合わせて大丈夫ですの? というか、引き合わせられる伝手が皆さんにあると?」



 私と同じような疑問を持ったのか、こはくちゃんがおずおずと手を挙げる。

 返ってきた答えは、何故か苦笑であった。



「ああ、王子っつっても【ティシトリア(うち)】の王族ってわけじゃないんだ。【ネフティス】から来た人でな、むしろそういう方面の仕事を請け負ってもらってる」


―そういう方面、というと……。


「要は、外国人を相手にする仕事ね。交流がメインだけど、対処に関しては彼に丸投げって感じ」



 ……要は外交官なのだろうか?

 しかし、それにしたって他国の人間を外交官にするのは普通ではない。

 この国、本当に頼ってしまって大丈夫なのだろうか。



「お前ら、説明が足りねーぞ。嬢ちゃんらの不安を煽ってどうする」



 そんな考えが透けて見られたのか、タローさんが手綱を扱いつつ口を挟んでくる。

 そういえば水汲みに停まる予定だった気がしたが、こんな濁流ではそれも適わない。

 半日だと心許無いが、多少我慢しておこう。



「まず補足するとだな、【ネフティス】の奴らは基本的に誠実だから安心しろ。うちらと一番交流のある国だから、というのもあるが、あいつらはこっちが誠実な限りは悪意を向けてきたりはしない。それくらいの信頼を結んでる奴らってことさ」


「太鼓判を押されるのは頼もしいのですけど、それって(ワタクシ)たちにも適応しますの?」


「んー、なんというかだな、一言で言っちまえば【ネフティス】の、特に王族は人の心が読めるらしいんだわ」


―「「「え」」」



 全員が絶句する。

 いや、それって普通に凄くない?



「それに元々他の国にも留学に行ってて色んな文化を学んできている人だからねー、外国の人を最初に会わせておけば安心だから、ってうちの王様がそこの役職に据えちゃったのよ。本人も学習に関しては分け隔てなく取り込んじゃう人だから、断らなくって」


「読める代わりに、正直に相対する、みたいなことを言ってたな。だから、相手が詐欺師なら騙し返すし、基本的にあいつらには『騙し討ち』が通用しない。だから、『軍事国家』の【ディスコルディア】も負けっぱなしだ」



 通りで、軍事国家で宗教国家と銘打たれたはずのそいつらが矢鱈と軽く見られているはずだ。

 未だ見ぬ【ディスコルディア】が少し可哀そうな国に見えてきた。



「……? え? ていうか他国の王族ってことに変わりないのに、そんなぞんざいで良いんですか?」


「言ったろう、分け隔て無い、って。初対面の時はちょいと面食らったが、色々と学んでる所為か割とへんj……あー、なんていうか……」


「まあ、変人よね」


「おまっ、俺が濁したのにっ」



 ……信頼はされているのは間違いが無いらしい。

 変人らしいが。



「はぁ。まあ、話が早く進むのならばこちらとしても渡りに船ですわ。それで、その方はなんという方ですの?」



 じゃれ合っているサルワさんとカマナさんの遣り取りを呆れた目で見つつ、こはくちゃんは前知識として問いかける。

 前以って訊くべきではないかもしれないが、ここまで教えられたのならば今更、という意味なのだろう。

 和やかな雰囲気の中、その人の名を私たちは何の意識も抱かずに覚えておいた。




  ◇    ◆    ◇    ◆    ◇




「――そんなわけで、俺がキミたちに対処することになったテトラ=ホル=クロバードだ。お気軽にテトと呼んでくれ」



 王族とは思えないフランクさで、カラカラと笑うその彼と対面する。

 しかし、面食らった。

 確かに面食らった。


 そのひとの外見は、浅黒い肌に黒い髪、そして金色の瞳孔。

 しかし、それよりも目を引くのは頭頂部にある『ネコミミ』。


 男子の猫耳とか、誰得。

 いや、それなりに整った顔立ちなので嫌悪感などは無いが、そんな可愛らしい属性を引っ提げて眼前に現れられるとどうしていいのかわからなくなる。

 それに、なんか、誰かに似ているような……?



「……………………烏丸さん?」



 ――あっ。




~普通の女子高生

 お前らみたいな女子高生がいるか



~通訳係

 言語的な意味ではなく会話的な意味合い



~ディノサウロイド

 恐竜人間のこと

 藤子系の映画で出てきた人たちがこれに当たる



~ディスコルディア

 ディスコードから命名されたらしい



~ハニトラ要淫

 前話のステータスを参照



~犀の牽獣

 悪路を踏み均すことで牽引する馬車を引き易い道を造るとかなんとか

 仮に名前をマリリンとしてryいや、やめよう。それにしても何処かで見た感が強すぎる



~幅50キロ、長さが2000キロ

 それ川じゃねえ、海峡や



~国土40000㎢

 北海道の半分程度。ちなみに北海道の総人口は530万くらいらしいので、それの半分と数え直しても土地が結構余っている計算

 …で、合ってるよね?



~読心術師って…プライバシーとか…

 まあ、基本的に異世界で人権という概念も倫理も薄い時代っぽいし…



~黒肌、黒髪、金の瞳

 何処かで聞き覚えが無いかにゃ?




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