修行開始
長山城から恵林寺までの距離はとても長い。
およそ二百六十kmの道のりは辛いものだった……
快川紹喜殿と二人で二日間の旅をしてようやく甲斐国に到着した。
「疲れましたね。紹喜殿」
すると予想外の返答が帰ってきた。
「この程度で疲れたと言っていては修行についてこれませんぞ」
と笑われた。
そんなにしんどいのか?
疑わしいがそれは明日になれば分かるさ。
僧達の朝は早い。
合図を告げる鐘が朝、恵林寺に響き渡った。
もう朝かと思い外を見てみたがまだ真っ暗である。
一緒に寝ていた僧達はテキパキと寝具を片付けていた。
「あの……すみませんが時間を教えてくれませんか?」
自分も寝具を片付けながら聞いた。
するとまだ若い僧が、
「冬になるまでは三時半の起床ですよ」
と答えた。
自分の常識ではこんなことは知らない……
早すぎるだろ!
「因みに冬は何時頃ですか?」
「四時半ですよ」
自分はやはりおかしいと思った。
皆について行くと洗面所へ辿り着いた。
ざっと見ても五十人以上はいるのだが……
だいぶ窮屈なこの絵面は奇妙なのだがそれよりも異様な事があった。
歯を磨いている者や顔を洗っている人達全員がお経を唱えているのである。
言葉では言い表せない恐怖!
異世界にでも迷いこんだのかな……
「早くしろ!暁天座禅を始めるぞ」
続いて移動したのは僧堂に移動した。
部屋はかなり広く何百人という人が入れるだろう部屋だった。
「暁天座禅を始めるぞ!」
皆一斉に座禅を組んだ。
あまり座禅の仕方は知らないけど真似をしておこう。
「それではいつも通りに線香が燃え尽きるまでだ」
えっ?何、それはいじめですか?
線香は種類にもよるけど30分前後は燃え続ける筈だぞ!
そんなに長いこと座禅なんて組めない!
やっと終わったと思いほっとしたのも束の間また移動を始めた。
息づく暇も与えられない……
もう帰りたい……
次の場所は法堂であった。
「では朝課を始める」
朝課とは朝のおつとめ、ようするに合掌一礼や礼拝、こころもちなどを行うらしい。
終わってみれば朝だけでもうボロボロになっていた。
「これは想像以上に厳しい……」
もう本当に嫌だ!




