# 第七話 ## 「美月の夢」
# 第七話
## 「美月の夢」
「今日は将来の夢を書いてもらいます」
黒川先生がそう言うと、
教室が一気に賑やかになった。
---
「サッカー選手!」
健太が叫ぶ。
---
「アイドル!」
別の女の子が手を挙げる。
---
「ゲームクリエイター!」
---
「ケーキ屋さん!」
---
みんな次々に夢を口にする。
教室には笑顔があふれていた。
---
誠一は配られた紙を見る。
---
**『将来の夢』**
---
七十二歳になって、
まさかこんな宿題が出るとは思わなかった。
---
「中村さんは?」
和子が聞く。
---
「難しいな」
---
「七十二歳の夢ですか」
---
「今さら総理大臣は無理だろうしな」
---
「最初からなれません」
---
教室が笑いに包まれた。
---
しかし。
---
その中で一人だけ、
鉛筆が止まっている子がいた。
---
美月だった。
---
紙は真っ白。
---
誠一は少し気になった。
---
昼休み。
---
校庭のベンチ。
---
案の定、
美月は一人で座っていた。
---
「どうした」
---
誠一が隣に座る。
---
「夢の宿題?」
---
美月は小さくうなずく。
---
「書けないのか」
---
「うん」
---
風が吹く。
---
しばらく沈黙が続いた。
---
そして。
---
美月がぽつりと言った。
---
「私には夢なんてない」
---
誠一は驚かなかった。
---
子供だから夢がある。
---
そんなものではない。
---
大人だって夢がない人はいる。
---
むしろ。
---
夢を失った大人の方が多いかもしれない。
---
「なんでそう思うんだ?」
---
「分からない」
---
美月は空を見る。
---
「みんな夢があるのに」
---
「私は何になりたいのか分からない」
---
「何が好きかも分からない」
---
「だから空っぽなの」
---
誠一は静かに聞いていた。
---
そして。
---
少し笑った。
---
「俺もだ」
---
「え?」
---
「俺も夢なんてないぞ」
---
美月が目を丸くする。
---
「本当に?」
---
「本当だ」
---
「でも大人じゃん」
---
「大人だから夢があるわけじゃない」
---
誠一は遠くを見る。
---
会社員だった頃。
---
夢なんて考えたこともなかった。
---
毎日仕事。
---
家と会社の往復。
---
気づけば定年。
---
そして今。
---
七十二歳。
---
改めて聞かれる。
---
将来の夢は何ですか?
---
答えられない。
---
「でもな」
---
誠一は言った。
---
「夢って最初からあるものじゃないと思う」
---
「そうなの?」
---
「たぶんな」
---
「じゃあどうするの?」
---
誠一は少し考えた。
---
そして笑った。
---
「楽しいことを探す」
---
「楽しいこと?」
---
「うん」
---
「友達と遊ぶ」
---
「好きなことをやる」
---
「誰かを笑わせる」
---
「誰かと笑う」
---
「そうしてるうちに見つかるんじゃないか」
---
美月は黙って聞いていた。
---
そして。
---
少しだけ笑った。
---
「それならできるかも」
---
「だろ?」
---
「誠一じい」
---
「ん?」
---
「今の夢は?」
---
誠一は少し考えた。
---
そして。
---
ゆっくり答えた。
---
「卒業することかな」
---
「え?」
---
「老後学校をちゃんと卒業する」
---
「それが今の夢だ」
---
美月は笑った。
---
「小さい夢だね」
---
「大きなお世話だ」
---
二人は大笑いした。
---
翌日。
---
夢の発表会。
---
美月の番が来る。
---
緊張している。
---
だが。
---
昨日とは違った。
---
美月は紙を持って前に立つ。
---
「私の夢は……」
---
教室が静かになる。
---
「まだありません」
---
ざわつく。
---
しかし。
---
美月は続けた。
---
「でも」
---
「これから見つけたいです」
---
「たくさん笑って」
---
「たくさん挑戦して」
---
「大好きなものを見つけたいです」
---
静寂。
---
そして。
---
大きな拍手。
---
黒川先生も笑っていた。
---
誠一も拍手した。
---
それは立派な夢だと思った。
---
夢は見つけるもの。
---
そして。
---
何歳からでも遅くない。
---
七十二歳の一年生も、
十歳の少女も、
同じ教室で未来を探している。
---
その事実が、
誠一には少し嬉しかった。
---
そして――
運動会まで残り一週間。
---
一年一組は、
まだ知らない。
---
その運動会が、
クラス全員の心を一つにする特別な一日になることを。
---
### 次回
## 第八話
### 「走れ、誠一!」
運動会当日。
誰も期待していなかったリレーの選手に、
なぜか誠一が選ばれてしまう!?
「無理だ!」
「絶対無理だ!」
しかし仲間たちは言う。
**「誠一じいならできる!」**
笑いと涙の運動会編、ついに開幕!




