# 第五話 ## 「七十四歳の転校生」
# 第五話
## 「七十四歳の転校生」
「今日は新しいお友達を紹介します」
黒川先生がそう言った瞬間、
教室がざわついた。
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「転校生だ!」
「珍しい!」
「どんな人だろう!」
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子供たちが目を輝かせる。
誠一も少し楽しみだった。
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すると。
教室の扉が開いた。
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入ってきたのは、
白髪の老人だった。
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背筋は伸びている。
スーツ姿。
表情は険しい。
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七十四歳くらいだろうか。
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黒川先生が紹介する。
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「村上隆之さんです」
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村上は軽く頭を下げた。
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「よろしく」
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それだけだった。
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教室が静かになる。
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「好きな食べ物は?」
健太が聞く。
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「特にない」
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「趣味は?」
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「ない」
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「好きなことは?」
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「別にない」
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健太が困った顔になる。
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「つまんない人だな」
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教室が笑った。
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だが。
村上は笑わなかった。
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「友達を作りに来たわけじゃない」
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その一言で、
空気が少し変わった。
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昼休み。
村上は一人で弁当を食べていた。
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誰とも話さない。
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誰かが近づいても、
会話を終わらせてしまう。
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「頑固そうだな」
和子が言う。
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「昔の部長みたいですね」
誠一も苦笑した。
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すると。
黒川先生が小さく言った。
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「実は……」
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先生は少し言いにくそうだった。
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「村上さん、奥様を亡くされたばかりなんです」
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誠一は黙った。
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「半年前に」
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その言葉だけで十分だった。
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誠一にも分かった。
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悲しい時、
人は誰とも話したくなくなる。
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笑うことすら疲れる。
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昔の自分もそうだった。
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妻が亡くなった後。
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近所の人が声をかけてくれた。
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「元気出してください」
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ありがたかった。
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でも。
その時は何も聞きたくなかった。
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元気なんて出なかった。
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村上もきっと同じなのだろう。
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数日後。
体育の授業。
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みんなでボール遊びをしていた。
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当然、
村上は参加しない。
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校庭の隅で座っていた。
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「村上さん」
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誠一が声をかける。
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「なんだ」
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「一緒にやりませんか」
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「興味ない」
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即答だった。
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誠一は少し笑った。
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「実は俺も興味なかったんですよ」
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「ならなぜやる」
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「友達が誘うからです」
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村上は黙った。
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その時だった。
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「村上じい!」
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美月が走ってくる。
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「なんだ」
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「一回だけでいいから!」
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「嫌だ」
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「一回!」
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「嫌だ」
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「半回!」
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「半回とは何だ」
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思わず村上が突っ込んだ。
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教室のみんなが笑う。
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美月は満面の笑みだった。
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「今、笑った!」
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「笑ってない」
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「笑った!」
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「笑ってない!」
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そのやり取りに、
誠一も吹き出した。
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久しぶりだったのだろう。
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村上の口元が少しだけ緩んでいた。
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放課後。
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村上は帰り際、
校門の前で立ち止まった。
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そこには、
美月たちがいた。
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「また明日ね!」
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「またね!」
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「村上じいも!」
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村上は驚いた顔をした。
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「俺もか?」
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「当たり前じゃん!」
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健太が言う。
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「一年一組だろ!」
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その瞬間だった。
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村上の表情が少し崩れた。
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ほんの少しだけ。
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涙がにじんでいた。
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「……そうか」
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小さくつぶやく。
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「また明日か」
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奥さんが亡くなってから、
誰かにそう言われたことはなかった。
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また明日。
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当たり前の言葉。
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でも。
一人になると、
その言葉は消えてしまう。
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だから。
少しだけ嬉しかった。
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その日の帰り道。
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誠一と村上は並んで歩いた。
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「中村さん」
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「はい」
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「友達というのは……面倒ですね」
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「そうですね」
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「でも」
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村上は少し笑った。
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「悪くない」
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誠一も笑う。
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春の風が吹いていた。
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七十四歳の転校生。
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閉ざしていた心は、
少しずつ開き始めていた――。
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### 次回
## 第六話
### 「運動会なんて無理だ!」
一年一組に届いたお知らせ。
それは――
**運動会開催決定!**
「走る!?」
「無理だ!」
「膝が終わる!」
「腰も終わる!」
大混乱のおじいちゃん、おばあちゃんたち。
しかし誠一は気づく。
何歳になっても、
誰かと一緒に頑張る時間は楽しいのだと――。
笑いと感動の運動会編、開幕!




