# 第四話 ## 「泣き虫美月」
# 第四話
## 「泣き虫美月」
「先生!」
朝のホームルーム。
健太が勢いよく手を挙げた。
「美月がいません!」
「見れば分かる」
黒川先生が苦笑する。
教室から小さな笑いが起きた。
しかし誠一は少し気になっていた。
美月は毎朝誰よりも元気だった。
「おはよう!」
と教室に飛び込んでくる。
その美月が休むなんて珍しい。
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一時間目。
国語。
二時間目。
算数。
休み時間。
美月の席は空いたままだった。
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「風邪かな?」
和子が言う。
「かもしれませんね」
誠一も答える。
だが。
何となく胸騒ぎがした。
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放課後。
帰ろうとした時だった。
黒川先生に呼び止められる。
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「中村さん」
「はい?」
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先生は少し困った顔をしていた。
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「実は美月さんなんですが……」
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誠一は黙って聞く。
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「最近、元気がないんです」
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その言葉に驚いた。
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元気がない?
あの美月が?
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「学校では頑張って笑っているみたいなんですが……」
先生は続けた。
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「ご両親がとても忙しくて」
「ほとんど一人で過ごしているそうです」
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誠一は言葉を失った。
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そういえば。
美月はよく言っていた。
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「今日は一人でご飯!」
「今日は一人で宿題!」
「今日は一人でテレビ!」
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その時は気にしていなかった。
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でも。
子供がいつも一人なのは、
寂しいことなのかもしれない。
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その夜。
誠一は眠れなかった。
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ふと思い出す。
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娘が小学生だった頃。
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仕事ばかりだった。
帰宅はいつも遅い。
休日も接待やゴルフ。
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「お父さん、見て!」
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娘が描いた絵。
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「あとでな」
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その一言で終わらせたことが何度あっただろう。
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後悔は、
歳を取るほど増える。
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誠一は天井を見上げた。
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「俺も同じだったな……」
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小さくつぶやく。
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翌日。
美月は来なかった。
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その翌日も。
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教室が少し静かになる。
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健太も元気がない。
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「美月、いつ来るのかな」
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誰も答えられない。
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そして三日目。
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教室の扉が開いた。
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「おはよう!」
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聞き慣れた声。
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美月だった。
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みんなが一斉に立ち上がる。
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「美月ー!」
「おかえり!」
「待ってたぞ!」
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美月は笑う。
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でも。
誠一は気付いた。
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目が少し赤い。
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泣いた跡だった。
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昼休み。
誠一は校庭のベンチで美月を見つけた。
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一人だった。
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「隣いいか?」
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美月が小さくうなずく。
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しばらく二人で空を見上げる。
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風が気持ちよかった。
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「学校、休んでたな」
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美月は黙る。
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「体調悪かったのか?」
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少しだけ首を振った。
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そして。
小さな声で言った。
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「寂しかっただけ」
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誠一は何も言わなかった。
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「お父さんもお母さんも忙しくて」
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「うん」
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「誰も悪くないの」
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「うん」
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「でも……」
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美月の声が震える。
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「たまに、すごく寂しくなる」
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ぽろり。
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涙が落ちた。
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誠一は胸が締め付けられた。
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大人はよく言う。
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頑張れ。
我慢しろ。
仕方ない。
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だけど。
寂しいものは寂しいのだ。
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子供でも。
大人でも。
老人でも。
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「美月」
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「なに?」
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誠一は少し考えてから言った。
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「俺も寂しいぞ」
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美月が驚く。
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「え?」
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「家に帰ると一人だ」
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「誠一じいも?」
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「そうだ」
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「でも笑ってるじゃん」
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誠一は少し笑った。
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「美月も笑ってるだろ」
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美月は目を丸くした。
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そして。
少しだけ吹き出した。
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「同じだね」
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「同じだな」
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二人は笑った。
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その瞬間だった。
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遠くから健太が走ってくる。
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「いたー!」
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後ろには和子たちもいる。
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「何してるんだよ!」
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「みんなで鬼ごっこだ!」
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「誠一じいも来い!」
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「俺も!?」
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「当たり前!」
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「膝が壊れる!」
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教室中に響く笑い声。
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美月も大笑いしていた。
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その笑顔を見て、
誠一は思う。
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人は一人では生きられない。
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だけど。
誰かがいてくれるだけで、
少しだけ前を向ける。
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学校とは勉強する場所ではないのかもしれない。
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誰かと出会う場所なのかもしれない。
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そして。
誠一たちの一年一組には、
まだまだたくさんの出会いが待っていた――。
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### 次回
## 第五話
### 「七十四歳の転校生」
ある日やってきた新しい生徒。
だがその老人は誰とも話そうとしない。
「友達なんて必要ない」
そう言い放つ頑固な転校生。
誠一たちは閉ざされた心を開くことができるのか――。
笑いと涙の新たな物語が始まる。




