# 第十四話 ## 「黒川先生の秘密」
# 第十四話
## 「黒川先生の秘密」
「おはようございます」
いつもの朝。
いつもの教室。
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だけど。
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何かがおかしかった。
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黒川先生の笑顔が、
少しだけ無理をしているように見えた。
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誠一だけではない。
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和子も気づいていた。
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村上も気づいていた。
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そして意外にも、
最初に口にしたのは健太だった。
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「先生!」
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「なんですか?」
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「元気ない!」
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教室が静かになる。
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黒川先生は苦笑した。
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「そんなことありませんよ」
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「ある!」
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健太は即答した。
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「先生、今日三回ため息ついた!」
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「数えてたのか」
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大笑い。
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だが。
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先生の目は少しだけ寂しそうだった。
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その日の昼休み。
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一年一組緊急会議。
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議題。
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**『黒川先生を元気にする作戦』**
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「先生が困ってる!」
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美月が言う。
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「助けなきゃ!」
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「賛成です」
和子もうなずく。
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「先生にはお世話になってますからね」
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誠一も腕を組む。
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「しかし原因が分からん」
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その時だった。
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職員室から出てきた黒川先生を、
偶然見かける。
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先生は電話をしていた。
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「はい……」
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「分かりました……」
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「入院ですか……」
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誠一たちは思わず顔を見合わせた。
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入院?
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誰が?
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その日の放課後。
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誠一は職員室を訪ねた。
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「先生」
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黒川先生は少し驚いた。
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「中村さん?」
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誠一は少し迷った。
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聞いていいのか。
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でも。
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先生はいつも自分たちを支えてくれた。
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だから。
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「何かあったんですか?」
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静かな沈黙。
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そして。
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先生は小さく笑った。
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「隠せませんね」
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窓の外を見る。
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夕日が差し込んでいた。
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「実は父が倒れました」
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誠一は息をのむ。
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「先週です」
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「命に別状はありません」
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「でも長い入院になりそうで」
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先生の声は震えていた。
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「仕事もしなきゃいけない」
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「病院にも行きたい」
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「でも全部はできない」
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その言葉に、
誠一は胸が痛んだ。
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先生だって人間だ。
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悩む。
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苦しむ。
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不安になる。
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それは当たり前のことなのに、
生徒はつい忘れてしまう。
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翌日。
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誠一はみんなに話した。
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もちろん、
先生に許可をもらってから。
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教室は静かになった。
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美月はうつむく。
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健太も黙る。
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翔太も。
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誰もふざけなかった。
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しばらくして。
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美月が言った。
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「先生も寂しいんだね」
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誠一はうなずく。
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「たぶんな」
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「じゃあ助けよう」
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その一言で決まった。
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放課後。
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一年一組全員で、
一枚の大きな寄せ書きを作る。
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健太は大きな字で書いた。
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**『先生なら大丈夫!』**
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美月は。
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**『ちゃんと休んでね』**
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翔太は少し考えた後、
短く書いた。
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**『一人じゃないです』**
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和子は。
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**『頑張りすぎ注意』**
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村上は。
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**『たまには生徒を頼りなさい』**
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そして誠一。
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しばらく考えた後、
こう書いた。
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**『先生、いつもありがとう』**
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それだけだった。
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でも。
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一番伝えたかった言葉だった。
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翌日。
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みんなで寄せ書きを渡す。
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黒川先生は驚いていた。
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「これは……」
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ページをめくる。
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一人ひとりの言葉。
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一人ひとりの気持ち。
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そして。
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先生の目に涙が浮かんだ。
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「先生?」
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美月が心配そうに聞く。
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黒川先生は慌てて笑った。
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「大丈夫です」
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でも。
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涙は止まらなかった。
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「みなさん……」
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先生は頭を下げた。
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「ありがとうございます」
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教室は静かだった。
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優しい静けさだった。
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誠一は思う。
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人生では、
助けてもらうことも大切だ。
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でも。
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誰かを助けることも、
同じくらい大切なんだ。
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そして。
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一年一組は、
また少し家族に近づいていた。
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しかしその数日後。
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誠一のもとに、
市役所から一通の手紙が届く。
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封筒には、
見慣れた文字。
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**『老後学校運営委員会』**
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嫌な予感しかしなかった。
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### 次回
# 第十五話
## 「学校がなくなる日」
突然告げられる衝撃の知らせ。
老後学校、廃校の危機――。
「ここがなくなったら……」
誠一たちは、
大切な居場所を守るため立ち上がる。
笑いと涙の最大試練編、開幕。




