# 第十三話 ## 「修学旅行なんて聞いてない!」
# 第十三話
## 「修学旅行なんて聞いてない!」
「みなさん、修学旅行のお知らせです」
黒川先生がそう言った瞬間。
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老人組は嫌な予感しかしなかった。
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「行き先は一泊二日の温泉宿です」
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子供たちは大歓声。
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しかし。
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老人組は静まり返る。
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誠一が手を挙げた。
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「先生」
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「なんでしょう」
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「温泉は好きです」
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「はい」
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「旅行も好きです」
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「はい」
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「でも体力がありません」
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教室が大爆笑。
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村上も手を挙げる。
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「旅館の布団から立ち上がれる保証はありますか?」
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「ありません」
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「不安です」
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和子も続く。
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「夜更かし禁止ですか?」
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「自由です」
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「じゃあ九時に寝ます」
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「小学生より早いですね」
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また笑いが起きた。
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こうして、
一年一組の修学旅行が始まった。
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当日。
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バスの中。
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健太は最初から全開だった。
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「修学旅行だー!」
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「いえーい!」
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「お菓子交換しよう!」
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誠一もなぜか巻き込まれる。
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「誠一じい何持ってきた?」
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「のど飴」
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「渋い!」
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「七十二歳だからな」
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大笑い。
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だが。
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その時だった。
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翔太が窓の外を見つめていた。
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相変わらず口数は少ない。
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前よりは笑うようになった。
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でもまだ、
心の奥には悲しみが残っている。
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誠一はそれに気づいていた。
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温泉宿へ到着。
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美しい山。
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澄んだ空気。
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川のせせらぎ。
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みんな目を輝かせる。
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そして夕食。
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豪華な料理が並ぶ。
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子供たちは大喜び。
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しかし。
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誠一たちは別の意味で驚いていた。
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「量が多い……」
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「若い頃なら食べられた」
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「今は無理ですね」
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和子が苦笑する。
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すると健太が言った。
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「残したらもったいない!」
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「じゃあ手伝ってくれ」
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「いいの!?」
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健太の目が輝いた。
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結果。
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健太がほとんど食べた。
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「成長期ってすごいな……」
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誠一は感心した。
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夜。
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自由時間。
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旅館の庭に出ると、
翔太が一人で座っていた。
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月を見上げている。
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誠一は隣に座った。
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何も言わない。
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しばらく沈黙。
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そして。
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翔太がぽつりと言った。
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「父さんと来たかった」
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誠一は黙って聞いた。
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「修学旅行」
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「楽しみにしてたんだ」
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「でも」
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声が震える。
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「もう無理だから」
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月明かりの中。
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翔太はうつむいた。
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涙をこらえていた。
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誠一は空を見上げた。
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そして静かに言った。
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「会いたいよな」
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翔太はうなずく。
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「うん」
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「俺も会いたい人がいる」
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「奥さん?」
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誠一は少し笑った。
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「よく分かったな」
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「だってそういう顔してた」
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誠一は驚いた。
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子供は時々、
大人より鋭い。
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「会いたい人は戻らない」
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誠一は続ける。
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「それは本当だ」
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「でもな」
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翔太が顔を上げる。
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「その人がくれた思い出は残る」
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「優しさも残る」
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「好きだった気持ちも残る」
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「だから」
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誠一は微笑んだ。
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「その人と過ごした時間は消えない」
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翔太の目から涙がこぼれた。
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ぽろり。
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ぽろり。
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そして。
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小さく言った。
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「会いたいな……」
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「うん」
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「すごく会いたい」
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「うん」
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誠一は何も励まさなかった。
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ただ隣にいた。
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悲しい時、
一番欲しいのは正しい言葉じゃない。
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一緒にいてくれる人なのかもしれない。
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翌朝。
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帰りのバス。
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翔太は少しだけ笑っていた。
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健太と話している。
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美月とも笑っている。
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その姿を見て、
誠一は安心した。
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そして。
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自分もまた、
少しずつ前へ進んでいることに気づいた。
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失った人を忘れるのではなく。
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思い出と一緒に生きていく。
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それが大人になることなのかもしれない。
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しかし学校へ戻った翌日――
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一年一組に、
さらに大きなニュースが飛び込んでくる。
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黒川先生が、
突然深刻な顔をしていた。
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### 次回
# 第十四話
## 「黒川先生の秘密」
いつも笑顔の黒川先生。
だがその裏には、
誰にも言えなかった悩みがあった。
「先生も一人の人間なんですね」
今度は生徒たちが、
先生を支える番だった――。
涙の先生編、開幕。




