# 第十二話 ## 「笑わない少年」
# 第十二話
## 「笑わない少年」
「今日から新しい仲間が増えます」
黒川先生の言葉に、
教室がざわついた。
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「また転校生!?」
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「今度は何歳?」
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「八十歳かな?」
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老人組が勝手な予想を始める。
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その時だった。
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教室の扉が開く。
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入ってきたのは、
小学五年生くらいの男の子だった。
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黒髪。
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細い体。
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そして。
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まったく笑っていなかった。
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「自己紹介をお願いします」
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黒川先生が優しく言う。
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少年は少しだけ顔を上げた。
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「……高木翔太です」
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それだけだった。
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教室は静かになる。
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健太が手を挙げる。
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「好きな食べ物は?」
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「別にない」
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「好きなゲームは?」
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「やらない」
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「好きなことは?」
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「ない」
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教室が困った空気になる。
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昔の村上そっくりだった。
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しかし。
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村上本人がぽつりと言う。
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「昔の私より重症ですね」
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誠一は吹き出した。
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昼休み。
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翔太は一人だった。
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校庭にも行かない。
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本も読まない。
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ただ窓の外を見ていた。
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誠一は気になった。
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だが。
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無理に話しかけるのも違う気がした。
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すると。
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美月が言った。
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「寂しそう」
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その一言に、
誠一はうなずいた。
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数日後。
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翔太は相変わらずだった。
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笑わない。
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話さない。
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誰とも関わらない。
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そしてある日の放課後。
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誠一は偶然、
職員室前で黒川先生と会った。
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先生は少し難しい顔をしていた。
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「翔太くんのことですか?」
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先生は驚いた。
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「分かりますか」
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誠一はうなずく。
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先生は静かに話し始めた。
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「翔太くんのお父さんが亡くなったそうです」
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誠一は言葉を失った。
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「去年」
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先生は続ける。
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「それから笑わなくなったそうです」
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胸が痛んだ。
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誠一には分かった。
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大切な人を失う苦しさ。
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世界の色が消える感覚。
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誰にも会いたくなくなる気持ち。
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全部知っていた。
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翌日。
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誠一は校庭のベンチに座っていた。
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そこへ翔太が来る。
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偶然だった。
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二人とも何も話さない。
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風だけが吹いている。
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そして。
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しばらくして誠一が言った。
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「俺もな」
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翔太が少しだけ顔を上げる。
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「大事な人を亡くしたことがある」
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沈黙。
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でも。
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翔太は立ち去らなかった。
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「つらかった」
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誠一は続ける。
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「毎日な」
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「何もしたくなかった」
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「誰とも話したくなかった」
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翔太の視線が少し揺れる。
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「だからな」
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誠一は笑った。
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「無理に笑わなくていい」
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翔太が驚いた顔をする。
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「え?」
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「笑えない時は笑えない」
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「それでいい」
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「泣きたい時は泣けばいい」
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「それもいい」
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「大事なのは」
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誠一は空を見上げた。
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「一人で抱え込まないことだ」
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翔太は黙っていた。
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だが。
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その目には少しだけ涙が浮かんでいた。
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放課後。
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帰ろうとした時だった。
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健太が走ってくる。
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「翔太!」
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翔太が振り向く。
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「明日サッカーやるぞ!」
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「来いよ!」
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翔太は何も言わない。
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すると。
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美月も来た。
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「私もいるから!」
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村上も言う。
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「私も見学します」
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和子も笑う。
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「私は応援担当ですね」
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最後に誠一。
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「俺は救急車担当だ」
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教室中が大爆笑だった。
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翔太も。
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思わず吹き出した。
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ほんの少しだけ。
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でも。
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確かに笑った。
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その瞬間、
みんなが歓声を上げる。
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「笑った!」
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「今笑った!」
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翔太は慌てる。
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「違う!」
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「笑った!」
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「笑ってない!」
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また笑いが起きた。
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そして誠一は思う。
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悲しみは消えない。
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亡くなった人は戻らない。
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でも。
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悲しみを分け合うことはできる。
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だから人は、
誰かと生きるのだろう。
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夕日が校庭を照らしていた。
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その中で、
翔太は少しだけ前を向いていた。
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そして――
数日後。
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老後学校最大のイベントが発表される。
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その名も。
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**『修学旅行』**
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老人組は凍り付いた。
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### 次回
# 第十三話
## 「修学旅行なんて聞いてない!」
「旅館の布団で立ち上がれる気がしない!」
「夜更かししたら翌日が終わる!」
大混乱の老人組。
だが修学旅行は、
一年一組の絆をさらに深める特別な旅になる――。
笑いと感動の修学旅行編、開幕!




