出会い
最近、なぜだかリシュカにまとわりつかれている。休憩時間は、絶対わたしのもとに来るし、勉強の合間の運動前は、わたしとのラジオ体操を張り切る。
孤児院にいる子は、わたしより幼い子も多い。彼らを抱っこするとき、いつも思う。
(この身体も幼い。でも、下の子の重みを知っている手だよね。あの子は小さいころ、喘息気味だったっけ)
一般的に使う言語はもう勉強終了間際だ。今後も辞書は作っていくつもりだけれど。
ある夜、リシュカがモジモジしながら、枕を持って、大部屋のわたしのベッドに潜り込んできた。
「女子会しよ!」
と言うリシュカに、わたしの頭には「?」が飛び交う。
「女子会」? まるで前の世界での話のよう。
(この世界にも、『女子会』なんてあるの?)
「イコ、もしかして、あなた、その……転生者なの?」
「エッ?」
リシュカは、棒倒しやケンケンパッ、ケイドロや独特のメロディで『後ろの正面』を歌うダルマさんで、「コレは……!」と思ったらしい。
なるほど、あちらの人になら、同郷だとバレるのは必至。リシュカの享年は、四十代後半だったらしい。知識的にもやや被る。わたしの後輩か。
「ごめんね、『転生』ではないの。『転移』なの」
わたしは『聖女召喚』に巻き込まれたことをベッドの中でコソコソと話した。
「なんて酷い。天寿も全うしていないし、事故で死んだわけでもないでしょう? それってただの拉致誘拐じゃないの? それなのに、その上、あの王家には放り出されたの!?」
リシュカは憤って、声を荒げそうになっている。わたしは必死に彼女をなだめた。
「それがね、あの当時、もう初老の域に入っていたのに、年齢が十前後くらいまで下がってしまったのが、もう我がことながら意味が分からなくて……」
「この時期って言えば、あちらで言う小学生最終学年ごろか、中学生よ。順当に育っているあたしとしてはしょうがないとして、もしかしたら初潮が……」
あ、それなら大丈夫じゃないかしら。
イコは、肌着をめくって、下腹部の手術痕を見せる。ちょっと躊躇はあるけれど、リシュカは平気かしら?
下の子を産んだあと、婦人科系の病気にかかって子宮を全摘出手術したのだ。
若くなってしまった時には混乱したが、手術痕を見て、成長したとしてもこの先、生理になることはないんじゃないか、と希望を持っている。生理にならなければ子はできない。
例え乱暴されたとしても。
何より、夫に対して、この世界では純潔でいたい。
「あたしは四十代になるまで必死で仕事をしてて、子どもを産めなくなってから結婚もしないで死んでしまった記憶があるわ。この人生を第二の人生にしたかったけど、思えば何の取り柄もないあたしに、なぜ記憶が残っているのかは不明よね。この国で何をやらせたかったのかしら。事務仕事しかしてなかったのに」
リシュカが首をひねる。彼女は生まれた当時に、おくるみに包まれたまま、孤児院の玄関に捨てられていたのだとか。
出自も不明だ。
「今度こそ誰かと人生を共有したいのよ」
力なくつぶやいたリシュカの言葉が染みる。
「まあ、ここで騒いでいたって改善できるわけじゃないわ。十二になったらね、冒険者ギルドに入るのよ」
イコが明るくそう言うと、リシュカも賛成した。
「あたしも冒険者になるわ! あたしのスキルは『剣士』。剣士系のスキルがたくさんもらえるの。バッチリ戦えるわ!」
「え、わたしは『無属性』だから、戦うのは避けたかったんだけど……」
「『無属性』ってどんな事ができるの?」
そこからは判明している熟語のこと、下位層が2文字の軛を外れていること。スキルなのに、下位に『魔法』が作れることなどを話した。
「それって普通じゃないんじゃない? もしかして、チート? あたしも恩恵に預かられるのかしら?」
リシュカがニヤニヤしながら小突いてくる。
「まだ全部分かっているわけではないの。十二まで社会知識を学んで、冒険者ギルドに所属して町中の仕事中心にお金を、旅費を稼ぐわ。そのあとは、十五で成人して隣国のダンジョンに向かうつもり」
「へえ。そのダンジョンへは、戦いに行くわけではないでしょう? 防御はバッチリだとしても」
「もちろん! 冒険者に依頼して、護衛になってもらって、ダンジョンの中に生えている薬草や鉱物なんかを集めたいの」
「薬草? 森とかでも採れるんじゃないの?」
「前の世界で読んだweb小説とかだと、ダンジョンの中は復元力があるみたいなの。モンスターが生まれるみたいに。薬草を摘んでも、鉱物を取っても翌日にはまた生えているわ。奥の階層に行けば行くほど、採れる薬草なんかは希少素材になる」
「なるほど、じゃあ、あたしがイコの護衛になるわ! 価値観も前世のものを持ってるあたしなら、イコとだってお話が合うはず!」
「薬草を集めて、薬師をやってみたり、【魔法】ってくくりの中に【付与】とか【魔法陣】があったわ。家電が作れるんじゃないかしら!」
「良いわね! 冷蔵庫に電子レンジ、炊飯器や湯沸かし器に自動掃除機。ウォータセーバーもあるわね……初心者は自動ランタンなんか、ダンジョンでも使えそう。家電は前世を知ってるだけに、手放せないわよね……電気じゃなくて、魔素を使う家電か……」
二人は、決裂するような事態がくるまで、合わないと思うときがくるまで友人で、親友でいよう、と誓いあった。
「【誓約】をしよう。『別れる時が来れば、お互いの個人情報は全て忘れる』、ってことにして」
「誓いの魔法ね。分かったわ。それ以外にペナルティはある? 第三者に吐き出せって強制されるとか、自白剤とか」
「二人以外が知ろうとするだけで、もう一人のことは記憶から消去されて、ただの孤児院仲間になるわ。もとに戻りたかったら、【復元】がある」
「……本当にいいのね?」と一瞬ためらったが、リシュカははっきりと頷く。
誓約の魔法は凄かった。ピカッと白く光って、慌ててシーツをちゃんと被り、光を表に出さないようにする。
光は二分され、イコとリシュカの胸に吸い込まれていった。厳かな気分になる。
「「我ら二人、別れるときまで同じ道を歩む」」
その後、イコが十二歳で冒険者ギルドに登録し、それより生まれ月が前、と言うより夏に捨てられていて、それを誕生日にしたリシュカも登録。町中の便利屋さんじみた依頼を達成しまくり、リシュカは武器や防具、イコは旅路に使う便利アイテムを集め始めた。
最初の仕事は、側溝の掃除だった。孤児院でも散々、奉仕活動でやっていたことだ。手慣れたようにテキパキと、二人で掃除をする。
平民の子は大抵が、魔力量が少ない生活魔法を、初等学校や孤児院で教わっている。
イコもリシュカも、それぞれの生活魔法で側溝掃除をした。
掃除が多かったが、トイレ掃除、屋敷の書斎の書類整理や、本棚の整頓、料理の下ごしらえ、庭の草木の剪定、そんなことまで人にやらせるの!? ってことまで、冒険者ギルドで二人で受けられる依頼は、全制覇できるくらいに受けて行った。




