世評から人を知る-6
場所を移してここは大通りの喫茶店。
人気デザイナーのティピカの行きつけの場所だという事で戦々恐々としていたが極々一般的な店のようだった。
俺は別に自分が大金を稼いでいるというわけじゃないので自由にできる小遣いにも限りがある。
その少ない予算の中から目の前の少女に奢らなければならないわけだ。
高級店に連れて行かれたらストップをかけようと思っていたが杞憂だったようでホッと胸を撫で下ろしていた。
「それじゃこのハニーロイヤルタルトと季節の果実ジュース。あと持ち帰りでスイートポテトと……そうですねぇ……アップルパイお願いします」
「……遠慮って言葉知らんのか?というか持ち帰りのも頼むとかマジか」
「ケチケチする男の人は持てませんよ」
不満げにティピカを睨みつけるも目の前のこいつは何ら気にした様子はない。
可愛らしい見た目からは想像ができないほどの図太さだ。
もっと色気がある女の子相手なら俺だってもっと機嫌よく奢ったって話だ。
何が悲しくて自分の背丈の半分くらいの少女に奢らなきゃならんのだと思うが必要経費だと割り切ろう。
図書室の魔女への情報収集もこれが最後になるだろうからだ。
「それで、なんでリフィル先輩のことを嗅ぎ回っているんです?本当は先輩に粉かけようとしてるんじゃないですか」
「だから違うっつーの!女子が粉かけるとか言うな!」
何度も否定しているというのに認識を変えようとしないティピカに対して俺は最近の流れを説明した。
要は友人二人がよく話題に出すからついて行けないという話だ。
流石にいつもつるんでいる二人が楽しそうに話題に出す人を俺一人だけがあまり知らないというのは座りが悪いというのは誰だって理解できるだろう?
しかも二人が何やら楽しそうに語るのだから、俺が取り残されているような感覚になってもおかしくないだろう。
「なるほど。確かリフィル先輩も言ってました。エクサスさんの友人と親しくなりましたと」
「あぁ、それはコータの事だろうな。俺じゃねぇから」
「なんだなんだ可愛いじゃないですか。一人だけ仲間外れが嫌だったんですねー」
「そう言われてると何か俺が凄い寂しがり屋みたいじゃねぇか……」
眼の前に運ばれてきたタルトをパクパクと食べているティピカが俺を何やら可哀想な者をみる目で見ている。
確かになんか俺が凄いハブられてる寂しがりみたいに聞こえてしまう。
いやいや、そんな事はない……ないはずだ。
唐突に貼られたレッテルに頭を抱えてしまう。
「まぁケリク先輩が可哀想な人だというだけで良かったです。まーたリフィル先輩が変なトラブルに巻き込まれているのかと心配してしまいました」
「というと?」
「最近、リフィル先輩の人気が急上昇なんですよねー。それもあって厄介な男が寄ってきたのかと。実際は厄介ではなく可哀想な男だったというオチでしたが……」
「可哀想言うな!」
どうやらティピカが最初俺に警戒心バリバリだったのはそれなりの事情がったようだった。
「前までは陰気だ何だと言ってた癖に最近は変に近寄ろうちしてる輩が多いんですよね」
「表に出してないだけで前から良いと思ってた男もいるかもしれねぇだろ。エクサスの婚約者なんて肩書あったら普通の男は近づけなかったのが解禁されたわけだからな」
あの二人の婚約解消によって色々な所に影響が出たという話は俺も聞いた。
一番大きいのはやはりエクサスがフリーになったために多くの女生徒が浮足立った事だ。
だけど、フリーになったというのはリフィルちゃんも同じ事だ。
「エクサスだってそうだが、リフィルちゃんが人気出たっておかしくないだろ?それこそフリーになった時とかも同じようなことあったんじゃないのか?」
彼女はあまり目立っては居なかったがれっきとした良い所のお嬢様だ。
国内最大の大商会であるラインズの娘。
普通に考えれば色々な意味で優良物件だろう。
色々な伝手が欲しい人間なら貴族、平民問わずに男からの誘いが殺到してもおかしくはない。
「それこそフリーになった当初はねぇ、なんかアプローチしてきた男どもが居たらしいですよ」
そして、俺がそう思ったように当時は言い寄ってくる男達がいたようだ。
しかし、今現在もリフィルちゃんは独り身であり特定の男と付き合っているという噂は無い。
ということは言い寄ってきた男たちの末路も想像できるというものだ。
「まぁ全員一瞬で切り捨てられてましたけど。一切の慈悲なくね」
その時の場面を思い出しているのか冷笑を浮かべながらティピカがそう言う。
基本的に敵や気に入らない相手には容赦はしないというリフィルちゃんだ。
家の財産目当てですり寄ってきた男に対する態度がどれだけ厳しくなるのかというのも容易く想像ができる。
そして、回りくどく口説こうとした男がどうなるかも予想がつく。
彼女は友人以外と中身が無い会話をしようとはしないだろうからだ。
“結局、何が言いたいのです?”
とか言ってる姿が俺でさえ目に浮かんで苦笑してしまった。
「まぁ……人気が無いよりはあったほうが良いんじゃね?」
「それはそうですけどぉ……私としてはやっぱり少し心配になるというかぁ、どこの馬の骨かわからない人にリフィル先輩は任せれないっていうかぁ」
「お前はあの娘のなんなんだ……」
当初は悪い噂が目立っていたし、俺も漠然とだけど良い印象は持っていなかった。
それが無くなり良い話を多く聞くようになったのなら寄ってくる男も出てくるだろう事は不思議ではない。
こいつはそれが微妙に気に入らないのだ。
ということは、その煽りを受けて俺は現在進行系で奢らされているのか?
なんという理不尽。
「基本、リフィル先輩は馴れ馴れしい男とかはキッパリ切り捨てる人ですから問題にはならないんですけどねー」
「あーやっぱそういう感じなんだ。そういう気はしてたわー、なんか色々聞いた話からして」
「ですから、ケリク先輩が近寄っても無駄ですよ。切られたいなら止めませんけど」
「だーから違うってーの!俺としてはもうちょっとボリュームある方が良いしな。やっぱ大きい事は良いことだぜ」
リフィルちゃんはスレンダーな魅力があるが俺としてはもうちょっと肉があったほうが良いからな。
どことは言わないが。
そんな男として当然とも言える感想を聞いたティピカの視線は絶対零度まで下がっていた。
持たざる者を前にして言うべきことではなかったかもしれないが、まぁこいつ相手なら良いだろう。
「うわっサイテー。はぁ……これだから男っていうのは体しか見てないんですから」
「馬鹿野郎、体“も”見てんだよ。まぁ小さいのが好きっていうやつもいるからそう悲観すんな」
眼の前の少女は明らかに諸々が小さい。
何がとは言わないが子供サイズだ。
そういうのが好きなやつもいる。
人の好みは千差万別だからな。
それについて良し悪しはないのだから。
「はぁ……これはエクサス先輩にも友人は選ぶように言っておかないとダメですね。友人から悪い影響を受けてしまってはカリニオンの貴公子のファンの子達も泣いちゃうでしょうし」
「俺もリフィルちゃんに言っておくとしよう。折角良い噂が広まってきてるのに悪魔が近くに居ちゃぁ悪い魔女だって思われちまうからな」
俺は理解していた。
この短い間のやり取りで完全に理解していたのだ。
見た目に騙されちゃいけない。
幼気な少女のように見えるこいつの中身は遠慮する必要など無いタフな女であり、手加減の必要の無い女だという事を。
「…………」
「…………」
恐らくだが、それを感じていたのは眼の前のこいつも同様だったのだろう。
深くかぶっている仮面の下から冷たい感情を伴う熱気が漏れ出るのがわかった。
だが、だからと言って俺が引き下がる事は無い。
女性には優しくするべき?
婦女子をエスコートするのがスマートな男?
うるせぇ。
男女平等だ。
やるってんならかかって来いという話だ。
「はぁ!?何言ってるんですかねこの人は!大体、リフィル先輩は私のこういう面だって可愛いって言ってくれてるんですぅ!器が大きいんですぅ!」
「それ言ったらエクサスだって今更そんな事気にしねぇよ!男ってのは基本こういう生き物なの!子供にはわかんないでちゅかねー」
「ぐるるるぅぅぅ!」
「がるるるぅぅぅ!」
お互いに威嚇し合い唸り合う。
おかしい。
俺は別にこんなしょうもない小競り合いをするためにこいつに飯を奢ったわけではないはずだったのに。
このロイヤルタルトとかいう奴クソたけぇし、土産も合わせたら予想以上の痛手なんだが?
だが、始まってしまったのだから自分では止まる事はできない。
男には負けられない戦いがあるのだから。
これがそういう戦いではない事は間違いがないというのはわかっている。
その事実を頭の片隅に追いやりながら俺は目の前の小悪魔と醜い争いをするのだった。




