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世評から人を知る-5

 イルドやセラムから話を聞いた後も俺は色々な人から話を聞いてみた。

 最近なにかと注目をされているらしいが概ね良い噂ばかりだった。

 まぁ、お金どころか何も報酬を受け取らずに人の相談に乗って色々と解決をしているのだから感謝されて当然ではある。

 しかし、良い行いをしているだけだとしてもやっかみから変な噂を流される事もあるから油断はできないが、そういう事も無いようだった。

 それには恐らくだが魔女と呼ばれるようになる前のイメージが関わっている。

 彼女は以前に悪い噂を流されていたという事もあり、そのギャップで更に良い人扱いを受けているようなのだ。

 

 “前に聞いていた印象と全然違った”

 “思ってたより良い人だった”

 “悪口言われるとは思えない”

 などなどだ。

 

 スタート地点が悪いと少しの改善が大きな評価となる。

 テストで80点から90点に点数を上げるよりも10点から60点に上げたほうが頑張った感がでるあれだ。

 実際は90点のほうが凄いのだが、人はどうしても印象で物事を決めてしまう。

 リフィルちゃんは以前に流されていた悪評(エクサス狙いの女子が流した嘘だろうけど)ばかりが目立っていた。

 そこから人の悩みを聞いてくれるという今のイメージの振れ幅が余計に彼女の良いイメージに拍車をかけているのだろう。

 それの極みがセラムとベルーナのバカップルのような過剰に持ち上げる人の存在だ。

 まぁ、あれにはリフィルちゃん自身も困り果てているそうだが、そういう所も美点として見られているのだろう。


(まぁこんなもんで十分かなぁ。思った通りに良い人だし、色々と面白そうだ)

 

 かなり彼女のイメージも固まってきたなと思いつつも廊下を歩いていた俺は唐突に怒鳴りつけられたのだった。

 

 「あなたですね。最近リフィル先輩のことを嗅ぎ回ってる人っていうのは!」


 声をかけられた方を向くと小柄な少女が腰に片手を当て、こちらを指差していた。

 可愛らしい顔だとは思うのだが、そこに浮かべる表情が俺を詰問するために厳しく引き締められているのだから残念だ。

 俺に密かに思いを寄せている少女であれば良かったが世の中そう甘くは無いようだった。

 

 女性に恨まれるような事をした覚えはないし、感情的になってる人とは関わりあわないほうが良いというのは俺の経験上間違いがない。

 できれば聞かなかった事にして素通りしたい所だった。

 しかし、如何せん彼女の言葉には思い当たる節が多すぎる。

 最近、色々な人に「図書室の魔女について教えてくれ」と話を聞きに行っていたのは事実だから。

 そんな事情がある俺は流石に無視する事はできなかった。


「あ~その~……俺?」

「そうです。あなたです。惚けているんですか?」

「いや、惚けちゃいねぇけどよ……そういう君は……」


 平均よりも明らかに小さい身体。

 少しだけ長い髪を二つに結っている姿は可愛らしい。

 制服を着ているという事はこの学園の生徒なのだろうが背伸びをして制服を来た子供と言われても納得してしまうかもしれない。

 そんな少女を改めてよく見ればどこかで見た事がある顔だった。


(なんか見たことあんなぁ……どこでだったか……)

   

 こう見えても俺はそれなりに情報通だ。

 社交界にも顔を出しているし、世間の流行り廃りや飛び交う噂は抑えている。

 多くの情報を取捨選択し必要な情報を頭に残す事は世渡り上手になるには必須の技能。

 それを多少なりとも備えている俺の記憶にあるという事は必要な情報だったという事だ。

 

「ん~……ティピカ。そうだ、思い出した。ティピカ・アンセルだ」

「へ~、私のこと知ってるんですね。男の人にはあんまり知られてないと思ってましたけど」

「女子が色々騒いでたからな。新進気鋭のデザイナーだとかなんとかな」


 人と話す時に重要なのはどれだけ共通の話題があるかってことだ。

 そして、女の子と話す時に重要なのは女の子が興味がある話題に乗っかるって事。

 乗っかるためにはその情報を知らなきゃならない。

 てきとうに知ったかぶりをするなんていうのはバレた時に余計に悪印象になるだけだ。

 だから俺はこの娘を知っていた。

 眼の前のティピカという少女は女子の間で大人気のデザイナーだったはずだ。


 俺自体は特に女性向けの服などに興味はないが、その事実を知っているといないとじゃ話の弾みが違う。

 こういう涙ぐましい努力をして俺は会話を盛り上げているという事だ。


「それで。その人気デザイナーが俺に何の用?」

「はぁ?最初に言いましたよね。リフィル先輩の事をコソコソコソコソと嗅ぎ回ってるのはあなたですかって!」

「あぁ。言ってた言ってた……って違うぞ。人聞き悪い事言わないでほしいぜ。俺は堂々と聞き回ってんだからな」


 確かに俺は図書室の魔女ことリフィル・ラインズ嬢について色々と聞き回ってはいたが、別に悪意があっての事じゃないし隠れて動いていたわけでもない。

 別に口止めをしても居ないし、秘密にして欲しいとも思っていない。

 単純に知りたいと思ったから友人知人に聞いてただけだ。

 それをコソコソしてると言われるのは心外でしかない。

 やってる事は同じでも言われ方で印象が違うからな。


「ペラペラとよく回る口ですぅ!これだから良いところの坊っちゃんは信用できないんです!」

「あら?そっちも俺の事知ってるのか?それこそ意外だ」

「えぇよく知っていますよーだ!ケリク・キューブ。キューブ製鉄の御曹司様っ!」


 どうやら俺だけではなく相手も中々に情報通のようだった。

 俺の実家のキューブ製鉄は軍関係へ武具を降ろしている店としては大手と言っても良い。

 あらゆる商売に顔が効くような大商会ではないが専門分野でなら他に負けはしない知名度を誇っている。

 

 そんな家の一員なのだから俺もそれなりな有名人かと言うとそうではない。

 あくまで有名なのは家を継ぐことになるであろう兄貴のほうだ。

 俺は家業を手伝いはするだろうが兄貴の補佐になるだけだろう。

 だから俺はそこまで顔が売れていないのだ。

 

「御曹司つっても次男だからな、大したことねぇよ」

「はっ!次男だろうが十分な家柄ですよ。キューブ製鉄なんて武具関連の最大手ですからね」

「まぁ家の事は今はどうでもいいだろ。確かに俺はリフィルちゃんの事聞いたりしたけど、それがどうしたんだよ」

「リフィルちゃん~~~~~!?問題大アリですぅ!あなたエクサス先輩の友人ですよね!?まさか友達の元婚約者に手を出そうとしているなんて……分別は無いんですか!常識は!?とにかく最低ですぅ!私の目が黒いウチは不埒な輩は許しません!」


 彼女の口から飛び出したのは驚きの言葉だった。

 確かに茶化すようにセラムが同様の事を言ってはいたが、親交がある後輩に言われるのと見知らぬ後輩に言われるのでは意味が違う。


「ちょっ……違う違う!なんだそれは!俺がリフィルちゃんに手を出そうとしている?」 


 まさか、そんな噂が広まっているのか?

 それは不味い、不味すぎる。

 本来はくだらない噂だと一笑に付せば良い話ではある。

 だが、それができない。

 放置して燃え広がったりする事は止めなければならない。

 何故ならリフィルちゃん関連についてはエクサスの反応が予想できないからだ。


 以前にエクサスから受けた相談からしても間違いなくこれはエクサスの初恋だと俺は考えている。

 今まで異性の話を避けていたツケがここで回ってきていた。

 はっきり言って女関係でのあいつのリアクションは情報が少なすぎるのだ。

 万が一暴走するような事が無いとは限らない。

 遠巻きに見る分には色恋沙汰のアレコレは面白い物だし、あいつが困るような事があれば手助けをしてやる気でいる。

 しかし、その矛先が俺に向くとなるなんて事は流石に予想外だ。

 

「認めないんですかぁ?往生際が悪いですぅ!これはエクサス先輩に報告せねば!」

「ちょっ!待った待った!ちょっ~と座って話しようぜ!誤解がある。大きな誤解がある!なっ!なにか奢るから!」


 当初は「面倒くさい女子に絡まれたかな」なんて思っていた俺の余裕が一気に消し飛んでしまった。

 もしかしたらこれは俺とエクサスの親交が破壊されかねない事態になっている可能性がある。

 金と女の問題は拗れると面倒くさいのだ。

 迂闊と言えば迂闊な動きだったかもしれないが、噂話を集めただけで何故こうなったと俺は頭を抱えてしまった。

 まずはこの姦しい女子を止めることをしなければならないと俺は確信していた。

  

「……ふむぅ……奢りと言うなら仕方がありませんね。私の行きつけの喫茶店で良いですか?」

「わかったわかった。奢るから変な話を広めないでくれ……あとついでだから話を聞かせてくれよ」


 そうして、俺はティピカという小悪魔がエクサスへの悪意のある情報提供をするのを止めるために更なる出費を重ねる事になるのだった。


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