世評から人を知る-4
イルドから話を聞いた翌日。
俺は引き続き情報収集に勤しんでいた。
今日、話を聞こうと思ったのはイルドと同様に俺やエクサスの後輩であり、リフィルちゃんに助けてもらったという奴らだ。
「魔女様の事を聞きたいんですか?」
校庭にて格闘訓練をしている後輩たちの中で一際うるさい男女の組み合わせが居た。
黙って殴り合えば良いというのに何故か休日の予定を決めながら殴り合ってるのだから器用なものだ。
これで実力がなければ真面目にやれと誰かが言うのだが、こいつらはコンビを組めばメチャクチャ強くなる。
そのため誰もが煩すぎる訓練風景もいつもの事として扱っていた。
そんなバカップルが休憩に入ったタイミングで俺は声をかける。
「えーケリク先輩、魔女様狙い?エクサス先輩は知ってるんですかぁ?良いのかなぁこれって、黙ってたほうが良い感じ?それともエクサス先輩に言ったほうが良い?」
「魔女様はケリク先輩の手には余る気がするけどなぁ……どっちか言えばコータ先輩のほうが似合うような気がするけど。ベルーナはどう思う?」
「何言ってんのセラム!絶対エクサス先輩とだって!マジで二人並んで歩いてたら様になるんだから!格好良いのと美しいのが合わさり無敵に見える!」
「そりゃ大本命だろ?対抗で出すならコータ先輩かなって思うんよね俺、どっちも頭良いしさ。クールな感じも似てるし」
息も切れ切れになっていた男女だったはずが息を整える間もなく話し始めた。
先程まで肩で息をしていたはずだというのにだ。
「お前ら凄いテンションだな……つか魔女様って何よ」
俺が話を聞きに来たのは後輩であるセラムとベルーナだ。
この二人も魔女に取りなしてもらった二人だという事を聞いたので、ちょっと話を聞きにきたのだ。
俺の後輩の中でも特に騒がしく熱々なバカップルだ。
何かにつけて一緒に行動しており息もぴったりの二人。
喧嘩をするところなど想像ができないが、そんな二人にもすれ違ってしまい大喧嘩をしたことがあったのだろう。
その喧嘩は凄まじかったらしい。
元々が訓練をしている時でも仲良く話をしているような二人がヒートアップして罵り合うのだから、その騒がしさときたらエクサスの手にも負えなかったらしい。
困り果てたあいつが頼ったのが図書室の魔女だったというのだ。
この様子だと二人がリフィルちゃんによって助けられたというのは事実なのだろう。
そうでなければ彼女の事をこんなにも嬉しそうに話すことはないはずだ。
そして、明らかに普通じゃない箇所が先程の会話の中にあった。
まぁ、誰にでもわかることではあるが、リフィルちゃんへの敬称だ。
彼女が魔女と呼ばれる事は数多くあるようだが、魔女“様”となるとそうそう聞かない。
エクサスなどの上位貴族は敬称を付けられる事はあるがそれとは訳が違うからだ。
「魔女様っていったら魔女様ですよ。リフィル様でも良いけどー1回そう呼んだらすっごい絶妙な顔で止めるように言われちゃいましたしー」
「謙虚なのも良い所だよな、奥ゆかしいっていうか」
「そうそう!その時の顔も可愛かったよねー」
いきなり後輩から“様”付けで呼ばれたら、そりゃ戸惑うだろう。
そんな当然すぎる事もこいつらからしたら謙虚な姿に映っているようだし、恐らくは苦虫を噛み潰したような否定的な表情だったと思われる顔も可愛い顔になる。
いつから俺の後輩に狂信者が誕生していたというんだ。
「普通に考えれば本人は魔女って呼ばれんのあんま喜んでないんじゃないか?」
「えー?でも魔女って響きって良くないですか?中々いないじゃないですか、魔女なんて凄い呼ばれ方してる女の人なんて、更に様もつければ最強じゃないですか!」
「そりゃ魔女呼ばわりされる女の子は少ないだろうけどよ」
「先輩はわかってないなぁ……まぁ魔女様の優しさが分かり辛いからこういう人多いんでしょうけどね」
何故か得意げに鼻を鳴らすベルーナ。
それについて咎めるような事もしないセラム。
というか同調して俺が可哀想な奴扱いをしてきている気がする。
なんだこれ?
「どういう感情なんお前ら」
予想外の熱気に俺は若干引き気味になってしまう。
それくらいの勢いがこいつらにはあった。
リフィルちゃんの事を若干以上に恐れていたイルドとは全く違う感情だ。
どちらも相談事を解決されたという事は同じというのに。
「いやぁ俺らって魔女様に助けてもらったんですよ」
「そりゃわかるけど、それにしてもテンションがおかしくね」
彼女に助けてもらった、相談事を解決してもらった、そういう人は数多く居る。
そんな人達が彼女に感謝しているというのは当然のことだ。
だが、それにしてもこの二人の熱量は中々無いだろう。
これでイルドも同じような態度を取っていたら何かしらの魔術をかけている事を疑うくらいだ。
「ふっふっふっ!私たちは魔女様の献身的な精神を知ってますからねぇー。他の人は知らないんだろうなぁ、あの人の優しさは分かり辛いからなぁ」
「俺らもエクサス先輩からネタバラシされないとわからなかったけどな」
そう言う二人から俺は話を聞いた。
この二人も仲違いをしたためエクサスが仲裁をするためにリフィルちゃんの元へと連れて行ったのだという。
そこで完全に決裂し拗れていた二人の話を聞き、関係の修復に尽力してくれたのが他ならぬリフィルちゃんだと言うのだ。
そこまでは問題がない。
あの娘がいつもやっている事と同じだ。
だが、この時の解決方法が少し特殊だったというのだ。
「私達のために身を張って悪者を買って出てさ、そんな事しても何の得にもならないっていうのに!それで何も言わないままなんだから、もー格好良すぎっていうかー痺れる憧れるっていうかー」
「後になってエクサス先輩が教えてくれなければ誤解したままだったかもしれないっすからね。俺らの感謝とかあの人は必要としてないのかもしれないけど……それでも感謝しかないです」
「そうよね!おかげで今もセラムと一緒に過ごせてるし!」
「あぁそうだな!もしもベルーナと別れたりしてたら……考えたくねぇ」
何でもリフィル嬢は二人のために憎まれ役になり、それによって二人の仲は完全修復どころか更に深まったのだという。
そして、ここで注目すべき所は彼女は自身が悪感情を持たれたとしても二人の仲を取り持ったということだ。
何の報酬もないというのに人から嫌われて人に尽くす。
その精神性はとても素晴らしいものに思える。
「中々真似できないですよ。でもねーだからこそ誤解されるんだろうなぁって言うのもわかっちゃったよな」
「そこが良いんじゃない!最近は良さがわかってる人が増えてきてるけど、それでもまだまだよね。ただ頭が良い人とかそういう風に思ってる人がいるのよねー。浅い浅い、マジで浅いわー。魔女様の良いところっていうのはそういう薄っぺらいところだけじゃないのに」
延々とリフィル嬢の良さを語るベルーナから目を逸らす。
これはちょっと……色々と別な面で拗らせたんじゃねぇか?
どうやら損な役回りを引き受けたって事らしいが、それだけでこうなるのか?
(悪者を買って出て仲裁をした……ねぇ……そんな事もするんだな)
それは今まで俺が持っていた彼女へのイメージとは少し違っていた。
彼女はそういう優しさを持っていないとは言わないが、どちらかと言えばドライな性格かと思っていたからだ。
それこそ、解決方法を提案するだけで
「後は二人で考えてください」
と言って図書室から放り出してもおかしくないイメージだ。
見ず知らずの他人のために自分のみを投げ出すなんていうのはあまり想像ができない。
だが、この二人が言う事が紛れもない事実だろうということがわかる。
外から見ているだけではわからない、伝わりづらい優しさ。
それを知ったからこそエクサスやコータはあの娘の事を気に入っているのかもしれない。
「ちょっと!ケリク先輩聞いてます!?先輩が聞きたいって言うから話してるんですよ!」
「わーったわーった!もう十分だ」
「なに言ってるんですか!まだ全然話し足りません!セラム!飲み物買ってきてもらって良いかしら!」
「えぇ……いやいや、マジでもう十分よ、参考になったぞ」
「おぉそうだな。話長くなるからな!先輩は座っててください、俺ひとっ走り行ってきますから!」
「嘘だろ……」
そうして俺は未だに魔女様の格好良さを話そうとするバカップルから逃げることができず、延々と話を聞かされる事になるのだった。




