世評から人を知る-3
ここ最近の友人たちの動向から図書室の魔女への興味を強めた俺は情報を集めることにした。
直接話せば良いと思うかもしれないがそれではわからない部分もある。
何事も情報収集は重要だ。
人は色々な顔がある。
親しい人間にしか見せない顔と見知らぬ他人に見せる顔は違って当たり前だ。
それは悪いことじゃないが、直接話しをしても隠されてしまえば見えない部分があるのはわかるだろう。
その情報を集めたいと思えば周囲からの評判も重要になるという事。
特に俺はエクサスの友人だ。
普通に考えれば、もしも悪い面があったとしても俺に見せる事はないだろうと考えられる。
色々と知っていそうなコータから本当は話を聞きたい所ではあったがあいつは多くを語ってくれなかった。
なにやら面白そうな顔をして情報を秘匿しやがったのだ。
そうなれば俺は別の人間から話を聞かなければならなくなるというわけだった。
「というわけで、魔女のことを教えてくれ」
俺は直属の後輩の前でふんぞり返ってそう言った。
なんとも言えない表情で俺の言葉を受け止めたのは後輩であるイルド・ワシンだ。
「いや……どういう事っすか?」
俺は昼飯時に恋人と食事を取ろうとしているこいつを学食へと拉致したのだった。
甘い一時を邪魔することになったのは少しだけ悪いと思うが奢るから許して欲しい。
少しくらい独り身の寂しい先輩に時間をくれてもバチは当たらないだろう。
そう考えれば俺が飯を奢って欲しいくらいだ。
幸せ税とかないのか?
イルドから話を聞くにあたって恋人であるレイラーニちゃんには悪いが席を外してもらった。
というのも、こいつの恋人のレイラーニちゃんはリフィルちゃんと親しい間柄だそうだからだ。
そういう人がいては率直な意見が聞けない。
俺が聞きたいのは本人が認識していないであろう外部から見た姿だからだ。
「いやね。俺って彼女のことあんまり知らないわけ。でも、最近なんかエクサスとコータが楽しそうに話題に出す事が多いのよ。寂しいだろ。俺だけ仲間外れなの。だから何でも良いからエピソード聞きたいわけよ」
何でもこいつはリフィルちゃんの世話になった一人であるらしい。
その縁があって最近は恋人であるレイラーニちゃん共々、何かと顔を合わせる機会が増えているのだという。
そんな存在であるイルドは俺やエクサスが可愛がっている後輩であるので最初に話を聞くのにはうってつけという訳だ。
「寂しがりじゃん、俺って」
「はぁ。別に良いっすけど。奢ってくれるみたいですし」
恋人との時間を邪魔されたイルドは少しだけ溜息を付いたが気を取り直して正面に並べられた食事に目を輝かせた。
こいつ、俺の奢りだからと遠慮なく頼みまくりやがった。
通常の三倍は頼んでやがる。
絶対に午後の授業で後悔するのが目に見えてるぞ。
「ったくよぉ……奢ったんだからその分の情報を寄越せ。喋るまでは飯食うのは許さん」
「えぇ?冷めちゃいますよ!」
「だったら食いながらで良いから話せよ。昼休みはそんなに時間ねぇんだから」
とりあえず話を聞かないと始まらないので俺も飯をつつきながらイルドを促す。
こういう時にいつも軽い俺のキャラは便利だなと思う。
てきとうな言葉を紡げば相手が何となくだけど納得してくれる。
これが生真面目なエクサスが急に人の噂話を聞きたいなんて言った日には不審がられるのは間違いないだろうからな。
「リフィル先輩のことって言われても俺が言えるような事はあんまり無いっすよ……」
「まぁそう言うなって。世話になったって言ってだろ?その時の話で良いから」
「やっぱりそうなるかぁ……勘弁してくださいよ……馬鹿すぎて思い出しくたないんすから」
そう言って項垂れるイルド。
その姿からリフィルちゃんへ相談したことは相当に苦い思い出である事が伺える。
少しだけ触りを知っているが、まぁ中々にこっ酷くやり込められたらしい。
こいつはエクサスと同系統の脳筋で深く考えない。
違いはエクサスと違って失敗する事があるということだ。
直感だけで動けば失敗するのは普通なんだが、間近にそれで致命的な失敗をしない先輩が居るのがよくないのかもしれない。
安易にあいつの真似はしちゃいけないってことだ。
詳細は聞いていないがなにか相当な事をやらかした尻拭いをリフィルちゃんがしたらしい。
その影響なのかイルドは図書室に足を向けて寝れないし、逆らえないのだそうだ。
大切な恋人がリフィルちゃんを慕っているというのもあるだろう。
図書室の魔女の機嫌を損ねるという事はレイラーニちゃんの機嫌を損ねる事と同義らしいのだ。
「別に事細かに話せって言うわけじゃねぇって。なんつーか……お前が受けた最初の印象とかそういうの教えてくれるだけで良いんだよ」
昼食に頼んだパスタを啜りながら俺はそう言った。
なにも俺が知りたいのはイルドの失敗談ってわけじゃない。
図書室の魔女と呼ばれる彼女の人となりがわかるような話が聞きたいだけだ。
「そうですねぇ……最初の印象と言われると……」
頭を捻って初対面の時を思い出そうとしているのか唸るイルド。
そうして導き出した答えは何ともわかりやすい物だった。
「最初はエクサス先輩に無理矢理連れられて相談に行っただけだったんですけど、なんつーかやる気のない教師みたいだなって思いましたかね」
「やる気のない教師?」
「リフィル先輩も嫌々というか、エクサス先輩に頼まれて仕方なく俺の相談を受けたって感じでしたからね。すっごい面倒そうにため息付いてたのよく覚えてます。そういう所も何というか教師っぽいというか……」
その言葉に俺は軽い驚きを覚える。
はっきり言って意外だったからだ。
リフィルちゃんは数多くの相談事を解決している。
だからこそ、図書室の魔女なんていう渾名が付けられたわけで、人の相談を受けるのが趣味だと言われてもおかしくないくらいの状態
来る者拒まずの精神で相談事に載っているイメージがあったが最初はそうではなかったようだ。
人に歴史ありという事だろうか。
嫌々ながら引き受けている内に相談を受けるのが楽しくなっていったのかもしれないな。
「そんで……まぁ相談したんすけど……内容は言いたくないんで伏せさせてもらいますけど……マジで怖かったす。今でも思い出したら震えます」
「え?そんな感じなのか?」
「最初はメモ取りながら俺の話を聞いてたんですけど、全部聞き終わった後からが凄かったというか……ほら、リフィル先輩って理詰めじゃないっすか」
イルドが言うようにリフィル嬢は基本的に理屈屋というのはエクサスから聞いていた。
コータの話し方がが似ていると言っていた気がする。
あいつも基本的に筋道立てて物事を説明したりするが、そういう所が似ているらしいのだ。
エクサスのような脳筋でもわかるようにと色々例を出したり、例え話をしたりしてわかりやすく話をする事が多い。
俺はそんな事されなくても一瞬で話を理解するから、あれはあくまでエクサスのための対応のはずだ。
そんなコータに似ているというリフィルちゃんも脳筋でもわかりやすいように事態を説明するのだろう。
何となくだがその姿を思い浮かべる事ができる。
無表情の魔女が苛立ちを隠そうとせずに説き伏せてくる姿だ。
「別に声を荒らげたりするわけでもないですし、ただ静かに話してるだけなんですけど……」
その時の事を思い浮かべてイルドは明らかに顔を青褪めさていた。
まるで死神に出会った時の事を思い出しているようだ。
イルドはこれでも後輩の中ではかなり将来有望な男でちょっとの事では怯みはしない。
敵や魔獣に果敢に突撃できる雄々しい男だ。
そいつが思い出すだけで震えてしまっている。
「俺が馬鹿すぎたってのは勿論ありますけど……一つずつ淡々と問題点を指摘してきて、言い訳も全部潰されて」
「……ごくっ」
「そんで出された結論が“そのまま破滅すれば良いのでは?”ですよ」
「えぇ……マジで……」
「いや、そこまで直接的には言われてないですけどね。要約すればそういう事を言われましたよ。他の件とかでもわかるんですけどリフィル先輩ってマジで敵っていうか気に入らない相手に対しては容赦ないっすよ。俺もマジであの時は軽蔑されてたと思います……」
若干引き気味になってしまう言葉だった。
相談してきた相手に破滅しろと言うなんてどんな女なんだ。
俺も何回かだが彼女が相談を受けている場面を遠目に見たことがあるがそのイメージは俺が持つものとは全く重ならなかった。
親身になって相談者へとアドバイスしている姿を見たことがあるからだ。
その時はそこまでキツイ回答をしているようには見えなかったがそうではない場合もあるらしい。
彼女の許容限界を超える頭の悪い相談に関してはキツくなるのだろうか?
一度見てみたいような見てみたくないような……
「まぁ……そのキツイ言葉のおかげでレイラーニと仲直りできたし、今では感謝しか無いんすけどね」
そう言ってイルドは笑った。
今では仲睦まじすぎて羨ましいを通り越して呆れるしかないような恋人同士である二人。
そうなる前には紆余曲折がありその裏側には魔女の力添えがあったという。
(ああ見えて、結構キツイ性格なのか?人は見かけによらねぇなぁ)
遠目に見ているだけではわからないものだが、キツイ性格であればコータは嫌いそうな気もする。
あいつは姉に苦手意識がある関係で高圧的な女性を特に忌避しているからだ。
しかし、そのコータがリフィルちゃんを認めているのだから、きっとそれだけではないのだろう。
もう少し情報を集めて見よう。
そう思った俺は話はここまでにして昼食を搔き込むのだった。




