世評から人を知る-1
人にはそれぞれ相性っていうのがある。
こいつとは合わない。
こいつとはやっていける。
いつの時点でそれを判断するかは人それぞれだし、どうやってそれを判断するかも違いがある。
これを失敗しちまうと
人の顔色を伺うっていうと卑屈に聞こえるがそうじゃない。
どういう距離感でいるべきなのかを測るのは人間関係においてとても大切なことだ。
だけど、それを考えなくても良い立場の人間が居る。
所謂、貴族ってやつだ。
それも力を持っている貴族。
あいつらは人の事なんて気にせず、我慢をせずに一方的に付き合う人間を決める事ができる。
相手が勝手に自分に相性を合わせてくれるからだ。
相性が悪い人間が無理をしてでも、己を曲げてくれる。
何を言わなくても相手が自分の意思を尊重してくれる。
要は自分が気持ちよくしてくれる人間だけと付き合うという事ができるわけだ。
羨ましい限りだ。
勿論、上には上が居るわけだから完全にゼロってわけじゃないが平民と比べれば圧倒的に少ない。
まぁ今と昔は違うから平民にだって権力を持つような者は出てきているし、中には金で貴族位を買う者もいるっちゃいる。
それでも違いはあるもんだ。
貴族ってのはどれだけ小さくとも貴族ってだけで平民の上に居る。
どれだけ力を持っても、貴族と平民に違いはあるのが現実だ。
俺ことケリク・キューブはそんな平民の中では十分に恵まれているだろう。
実家のキューブ家は武具の製造関係で名を馳せた一部では名工と言われる家系だ。
今となっちゃ軍部とべったりで鋼鉄関係の利権にもガッツリ噛ませてもらっているおかげで権力もそれなり。
家業は兄貴が継ぐだろうが俺もその恩恵に預かって良い教育を受けさせてもらっている。
他から見れば上流階級の一員に入っているかのように見える俺だが、いくら裕福で力があっても平民は貴族の顔色を伺わなきゃならない。
それは幼い頃から受けてきた教育や何だかんだで顔を出す社交界での出来事から学んでいた。
幸い俺はそういう事は苦手ではなかった。
長けていると言っても良いかもしれない。
誰とでも仲良くなれるし、誰とでも話を合わせられる。
てきとうに、さり気なく、上辺の会話を捗らせる事については一家言あると言っても良いだろう。
そんな俺が学園に入って一番最初に目に入ったには国内有数の力を持つ一族の次期当主と言われている男だった。
エクサス・カリニオン。
大きな体で静かに座っているだけでも様になる偉丈夫がそこに居た。
上手に生きて行くためには強者を抑える。
できれば好かれたほうが良いが最悪嫌われなけりゃ良いんだ。
無難に挨拶をしておこう。
そう考えた俺だったからこそエクサスとのファーストコンタクトは衝撃だった。
曖昧で面白みも無いし俺自身も感じていない上っ面の言葉。
無駄しか無い装飾で飾り付けた俺の挨拶の言葉を聞いたエクサスはこう言った。
「クラスメイトだろう?気を使うな。と言っても使ってしまうか?うーむ、どうすれば気兼ねを持たず皆が話をしてくれると思う?」
あいつは本気だった。
本気で気兼ねなく話して欲しいと思っていたのがわかった。
俺はと言えば単純に一番最初に話しかければお坊ちゃまの印象に残るだろうという打算で話しかけたような物だったわけで、そう言われても困ってしまったのを良く覚えている。
「お前も本当はそんな言葉使いじゃないだろう?普通に話して欲しいものなのだが」
エクサスにそう言われたとしても俺が平民である限り壁はある。
楽にしてくれと言って真に受けたら無礼者と罵る輩がいるのが世間というものだ。
そんな事を考えていた俺のことをあいつは一目で見抜いた。
自分の考えを隠して他人に合わせるのには自信があった俺の偽装なんてあいつの前じゃ役に立たなかった。
そして、あいつははっきり言ってそこら辺の貴族とは全く違う考えと行動をする男だった。
「よし!こうしよう!これからケリク!お前と一緒に飯を食いに行く!同じ釜の飯を食うのは友としての第一歩だろう!」
そうして俺はほぼ初対面の貴族の御曹司とサシで飯を食べに行くことになった。
しかも奢りじゃなく割り勘だ。
よく考えれば誘ったんだからエクサスが払うべきじゃないか?
まぁ今更何を言ってもどうしようもないんだが。
そうして俺とエクサスは出会った初日に食事をともにすることになった。
授業終わりに首根っこを掴まれて逃げられなくなった俺は渋々ながら付き合う事にしたわけだが、少しだけでも話せばエクサスが気の良い奴だってのはわかった。
平民は話をする貴族が機嫌を損ねないように気を使っているわけだが、こいつは相手が萎縮しないようにと気を使っていた。
それがわかったからか俺も大分遠慮はなくなっていたように思える。
俺が図太いというわけじゃなくエクサスの想いを汲んでやったということだな。
お互いにあまり足を運んだ事がない下町へ行ってあーだこーだと言いながら店を決めた。
肉が焼ける良い匂いが漂っていたのが決め手だ。
職人が通うようなコッテリ感満載の雑な料理を出す定食屋だった。
ゴツい体で酒を飲む職人たちに混ざって貴族の坊っちゃんと俺の二人。
周囲からは野次が飛んでくるし、エクサスは無駄に堂々としてるしでもう途中から何も気にしなくなっていた。
脂っこい肉と味の濃いスープ、俺が食いたいからと頼んだ魚の揚げ物と酒が飲めないと言った俺たちに店主が出してくれた水出しのお茶。
今では行きつけになっちまった実家じゃ絶対食えないような料理たち。
あの食卓があいつと俺の最初の食事だった。
それから俺はあいつとつるむようになる。
大貴族であるカリニオンの人間と馬鹿みたいな話をしながら歩くことになるなんて思っていなかった。
それをエクサスは俺の遠慮の無さのおかげだったと笑うわけだがそれは無い。
俺は人を選んで態度を決めている。
他の貴族に対してあんな態度は取れるわけがねぇ。
程なくしてコータがこの輪に加わって三人で行動する事が多くなった。
貴族の二人と平民の俺が馬鹿みたいな話をしあってるなんておかしな話だと思う時はある。
だけど、それが今では俺の普通だった。
あの二人のせいで学園に入る前は今までと同様にノラリクラリと過ごす気だった俺の予定が狂ったりもした。
エクサスの隣に居るとどうにも手が抜けなくなっちまったんだ。
あいつはどうとも思わないがやっぱり俺としては周囲の人からも後ろ指は刺されたくなかった。
カリニオン家の次期当主の隣にてきとうに生きてる奴が居るなんていたら、まぁ目障りだろうってのはわかる。
だから、そんな事を言われないように気張ったわけだ。
元々小型で高性能を売りにしているコータは成績優秀だったが俺は平均値くらいだった。
そんな俺の成績が徐々に上がっていったのは水面下での努力があったわけだ。
優秀な跡継ぎである兄貴がいるからてきとうな成績で良いと思っていたのにあいつらと付き合っている内に成績優秀者になって交換留学生にまで選ばれるなんて当時の俺は思っても居なかっただろう。
そんな俺に多大な影響を与えてくれやがったエクサスが現在進行系で大きく変化をしていた。
ある人物からの影響を受けて今までにない状態になっている。
悪い事じゃない。
むしろ凄い良い変化だ。
そう、凄い良い変化であり、とてもとても面白い変化が起きている。
時折、挙動不審になっていたりするのはあいつには悪いがかなり笑える。
エクサスの無二の親友であるケリク・キューブとしては見逃すことなんてできはしないってわけだ。




