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生徒会室に疑念は踊る-5

 生徒会長を決めるための選挙。

 そこで起きたトラブル。

 色々な思惑が絡んでいそうなそれを紐解くためにはまずはそもそもの大本の話を知る必要があります。

 

「まずは投票用紙がダメされている事に気が付いた時のお話を伺って良いですか?」


 私はまずはこの事件の根本になっている場面について聞くことにした。

 相手は発見者であるカーリアン会長だ。

 どのような形でそれが見つかったのか。

 そこに何かしらの手がかりがあってもおかしくは無いのだから。

 

「えぇ勿論よ」


 カーリアン会長は指を組んで私を正面に捉えゆっくりと思い出しながらその時の事を話し始めました。

 

「今日は投票結果を集計して結果を出す予定だったの。集計は生徒会長の仕事だからね」

「集計を一人でですか?」

「そこまで難しい作業じゃないし、そう決められているのよ。想像でしか無いけれど余計な仕事を増やした人間への懲罰的な意味も含めているんでしょうね」


 生徒会長が集計作業をする。

 何となくですが雑務というイメージがある作業を生徒会長の仕事としている事に私は疑問が湧いてしまいましたが、言われてみれば納得する部分もあります。

 そもそも次の生徒会長を指名をすれば選挙など行う必要は無いのです。

 教師陣からすれば何を余計な仕事を増やしているんだという気持ちを持ってもおかしくありません。

 それに対する罰則的な側面もあるというのはありそうな話です。

 

「それに、生徒会長には不正をする理由が無いからというのも当然あるでしょうね」

 

 何故、生徒会長は不正をしないとされるのか。

 誰であろうと等しく不正をする可能性はあるというのにそこまで特別視されるだけの信頼が無ければ生徒会長にはならないという事なのか?

 そんな考えが思い浮かびましたが実際の答えはもっと単純でした。

 

「だってそうでしょう。そもそも生徒会長は指名権を持っているのだから気に入らないなら最初から指名すれば良いのだもの」

「あぁ……確かにそうですね。結果が気に入らないなら最初から指名をしろという話ではあります」


 言われてみれば正しくその通りであった。

 選挙をすること自体を会長は避けることが出来るのだから不正をしてまで結果を覆そうとは考えないのだろう。

 私の答えに満足したのか笑顔でこちらを見る会長に少しだけ胸が高鳴る。

 少し微笑むだけであれほど魅力的になるのは反則でしょう。

 

「そういう訳で私はこの生徒会室で集計作業をしていたわ。部屋の中にはリント君も居たわね。流石に選挙の当事者である二人には外してもらっていたけど」

「僕はその時、室内の清掃をしていまして……それが犯行に使われた水桶だったんですけど……」

「書記であるあなたが清掃をですか?」

「この生徒会室は僕たちしか基本的に使いませんから。管理も僕たちの仕事なんです」


 生徒会と聞くと特権階級なイメージがあったけど実際はそうではないようです。

 どうにも私の中にも偏見があったようでこれは反省する必要がありますね。

 

「ん~半分……いかないくらいかしら?集計したところで休憩にしたの。お昼も食べなきゃならないし、そこまで急ぐ必要はないしね」

「その時はまだ集計中の紙はあったという事ですね」

「そうね。投票用紙の束は机の上に置いたはずだったわ。この部屋に鍵をかけて部屋を出て、リント君とご飯を食べて戻ってきたのだけどその時に束が見当たらなかったの」


 つまり、休憩前に机にあったというのが投票用紙を見た最後だったという事になる。

 

「おかしいと思ったわ。確かに出る前に部屋に鍵を掛けたのに机の上にあるはずの物が無くなってるのだからね。そして部屋の隅に置いてある水拭き用の桶の中を何気なく覗いたら、そこには水浸しになってグシャグシャになった紙の束があったというわけ」


 部屋の奥にある窓のそばには水桶が置かれている。

 その中には少しだけ紙の屑が浮いていた。

 これが投票用紙が投げ入れられたという水桶という事だろう。


「この中に用紙が投げ込まれていたのですね」

「そういう事ね。流石にそのままにはできないから用紙は取り出したけど、水を吸ってしまってグチャグチャよ。どちらに投票したか何ていうのは分かる状態ではなくなってたわ」


 投票用紙は何の変哲もない紙だ。

 それが水に濡らされてしまえば内容を確認する事などはできないだろう。

 私は注意深く水桶を見てはみるが何かわかるような事があるわけもなかった。

 

「その時、リントさんはどうしていましたか?」

「僕は会長の後ろから部屋に入りましたけど、その時は特に変な所は感じませんでした。何も注意してなかったと言えばその通りなんですけど……」

「窓からの侵入どうですか?」

「その窓は嵌め殺しなので開かないんです」


 部屋の中をぐるっと回ってみるも、それで何かがわかるわけもない。

 理解できたのは出入り口は一つだけという事だ。


「そうなると犯人は生徒会室に自由に出入りできる人間になるでしょう?言ってしまうと、この部屋の鍵を持っているのは私達四人の事なのだけど」


 当然だけど窓が割られたりなどはしていない。

 鍵が壊された形跡もない。

 以上のことから考えればカーリアン会長が言うように自由に生徒会室に出入りができる人間が怪しい。

 部屋の状況だけを見ても誰もがそう考えるでしょう。


 それにね、と付け加えるように会長が額を手で抑えながら言う。

 

「私とリント君は食堂に行ったのだけどそこでレイヴン君とシェイド君の二人と合流しているの」

「あぁ。元々俺とシェイドは食堂で飯を食ってたんだが、そこに会長達が来たんで一緒に食事をって流れだ」

「それでは、あなた達の中に犯人はいないのではないですか?」

「そこがややこしいのだけれど、ずっと一緒だったわけでも無かったのよ。一人になった時間が無いのはリント君と私。レイヴン君とシェイド君は途中で席を外したタイミングがあったのね」


 それが彼らがお互いに疑い合うことに拍車をかけてしまっているのだと言う。

 

 四人で食事を取っていたのであれば犯人はそれ以外の人間にはなりそうなものだ。

 しかし、途中で皆から離れて一人で行動をしていたと人間がいるなれば話は違う。

 鍵を持っている人が四人。

 リントさんと会長は一人になったタイミングが無いのであれば容疑者は残った二人だ。

 しかし、レイヴンさんとシェイドさんはお互いの事を犯人だと思って喧嘩をしている。


「もしも、不法侵入した人が居たとしても部屋を荒しもせずに選挙の票だけをダメにするというのは不自然でしょう?そうなるとやっぱり身内の犯行かと思えてしまうし……二人はヒートアップして喧嘩を始めてしまうし。本当、困ってしまうわ」


 本当に憂鬱そうに気怠げにカーリアン会長が深く息を吐く。

 彼女としては仲間として信頼し、女性として慕ってくれている男子二人が牙を剥き出しにして争う姿を見せられたのだ。

 ため息の一つも付きたくなるのも理解できる

 

「最初は私も止めようと思ったわ。でも、少しだけ考えて介入しない事に決めたの。理由は聞いてるでしょう?」

「……居なくなる人間が手を出すべきでは無い。でしたか」

「そういう事ね」


 会長が話してくれた事件の概要。

 ここで確認ができたのは犯人が生徒会のメンバーの中にいるということだろう。

 投票用紙だけが狙われたという状況からそれは間違いがないはず。

 

 しかし、わかったのはそれだけであり、そんな事はこの場にいる全員がわかっていた。

 私がしなければならないのは犯人を見つける事。

 もしくは、見つからなかったとしても全員が納得できる話の着地点を決める事でしょうか。


「ふぅ……これは中々……」

「大丈夫か?」

「そうですね……まだなんとも言えませんが……」


 エクサスさんが心配そうに私の顔を覗き込む。

 今回は彼がリントさんを連れてきたというよりも、リントさんがエクサスさんに頼み込んだという形だ。

 渋々ながら連れてきてしまった相談相手の内容が思ったよりも深刻だった。

 後輩とは言え生徒会役員からの頼みだ。

 無下にできなかったのだから仕方ないのだけれど。


「次は個別に話を聞かせてもらってもいいですか?」


 色々と重そうであり手に余るような内容だとは思いますが一度引き受けてしまったからには全力を尽くすのが私の主義。

 解決に向かうために私はそれぞれの話を聞くことにしたのでした。


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