生徒会室に疑念は踊る-4
生徒会室へと案内された私とエクサスさんは室内に居た彼らに軽く挨拶をしました。
私のような地味な生徒と違い生徒会役員という言うなれば学園の華形だ。
その顔はあまり他人に興味が無い私でも見覚えがある面々だった。
「あなたが噂の“図書室の魔女”!色々面白い話は聞いていたけど、こんな形でお知り合いになるなんて思いもしなかったわ!」
黄色い声を上げて少しだけはしゃいでいるのは現生徒会長のカーリアン・ウィズ会長。
この姿だけを見ればそうは思えないけれど間違いなくこの学園一の才女だ。
人望も人格も実力もその全てが最高と言われる人であり、それを裏付ける実績もある。
武力だけ見れば突出しているエクサスさんと違って彼女は文武両道の万能選手であり総合力であれば彼女に勝る者はいないだろう。
基本的に日陰者の私からすれば眩しすぎて直視ができないような立場の人だ。
「悪いなエクサス。こんな事に巻き込む事になっちまって」
バツが悪そうな顔でエクサスさんに気軽に話しかけているのが副会長のレイヴンさん。
私達と同学年であり武官志望という事もありエクサスさんとは顔見知りであるようだ。
超名門貴族であるエクサスさんと同等に話す様からは色々な意味で自信があることが伺える。
けれども、普段なら大きな体も今は少しだけ小さくなっているのは起こっているというトラブルが原因なのでしょう。
彼としては踏んだり蹴ったりなのかもしれません。
なんといっても副会長ですから順当に行けば彼が会長になっている可能性が高かったでしょうに。
「噂通りに解決してくれれば良いのですけどね」
神経質そうにしている眼鏡をかけた男子が会計のシェイドさん。
彼がこちらを胡散臭そうに睨む。
いや、彼としては何気なく目線を向けただけかもしれないけれどその鋭い眼光が睨まれていると感じてしまっただけだ。
今回の渦中にいるもう一人の人物。
果たして彼が混乱を引き起こした張本人なのかどうか。
「先輩がた……リフィルさんが協力してくれると言ってくれました。ここからはお願いですから喧嘩はしないようにお願いします……ほんとに頼みますよぉ……」
泣きそうな顔で二人に懇願しているのは私達に話を持ってきた書記のリントさん。
最下級生でありながら生徒会に所属しているのだから優秀なのは間違いないのでしょうが流石に険悪な空気を垂れ流す先輩方に参ってしまっていたのでしょう。
私達という援軍を引き入れた事で少しは余裕ができていればいいのですが。
「さて、この生徒会に移動する間に事のあらましはリントさんに伺いました。生徒会長選挙の結果が誰かの手によって破棄されたと」
大枠の問題はそれだ。
だけど、それだけでは話は終わらないようです。
「しかし、リントさんはこうも言っていました。今回の問題には実はもう一つの事情があると。それは生徒会室についてからでしか話すことができないと仰っておりました」
彼らから話を聞くのはその事情を知らなければないだろう。
生徒会室ではできないような話となると何かしら大きな問題を抱えているのは間違いない。
物事の核となる部分を知らずに話を聞いたところでわかるとは思えなかったからだ。
「リント……お前……」
「ごめんなさい先輩。でも、協力を仰ぐのであれば隠すことはできません。僕はそう思います」
「そうね。確かに話さないわけにはいかないわよねぇ」
頬に手を当てて困ったように微笑むカーリアン会長。
そんな会長とは対照的にレイヴンさんとシェイドさんは決まりが悪い顔をしてモゴモゴと口を動かしている。
それは理由を聞いた私とエクサスさんの口が半開きになってしまうような事だったから当然のことかもしれなかったのですけど。
◇
「はぁぁ?!生徒会長になったほうがカーリアン会長とお付き合いをするぅ!?」
そう。
彼らはこの生徒会選挙で賭け事まがいの事を行っていた。
しかも、それが色恋に関係する事なのだからエクサスさんが大声を出してしまうのも仕方がない話だ。
「お前たちは生徒会長を選ぶための選挙を何だと思っているんだ!」
「しっ!声が大きいですエクサス先輩!」
声を潜めてもエクサスさんの声はかなりの大きさだ。
慌ててリントさんが声を潜めるようにと頼んでいる。
だけど、エクサスさんが大声を出してしまう気持ちも私はわかってしまう。
(どんな事情があるかと思えば……これは……)
はっきり言って呆れてしまう。
まさかそんな裏事情があるとは想像もしていませんでした。
何よりもあのカーリアン会長がそんな下らない事を認めているというのも驚きだ。
彼女のイメージはあまり知らない私からしても清廉潔白というのがピッタリな人だからだ。
「カーリアン会長!あなたもこんな馬鹿げた行為を認めているのですか!?」
「まぁまぁエクサス君。これは私が悪いの」
エクサスさんが非難の声をあげるがカーリアン会長はどこ吹く風。
非常識かつ良くない事というのは理解しているけれど気にしてはいないという所でしょうか。
その姿にエクサスさんもあまり強く言えずに言葉に詰まってしまっています。
そもそもカーリアン会長は全校生徒の憧れの的と言っても良い存在です。
能力は性格は勿論ですし、その容姿も美しいの一言。
白く透き通る髪は天使の様であり、鈴が鳴る声は女神のようだなどと形容されていた事を私ですら知っています。
あまり異性関係について強くないエクサスさんからしても魅力を感じていてもおかしくはありません。
そんな聖女のような女性の見たこともない、あまり見たくもなかったような側面を見せられては困惑してしまうでしょう。
私でさえ少し面食らっているのですから。
「この学園の女生徒は将来有望な優秀な交際相手を見つけるのも一つの目的であるのは知っているでしょう?」
「まぁ……それは……この身につまされていますが……」
「私だって生徒会長なんてやってはいるけど女生徒の一人よ。そういう願望があってもおかしくないでしょう」
私達の事を全く気にしていないのか悪戯をした子供のような顔をしながらカーリアン会長は馬鹿げた賭け事を認めた理由を話しました。
学園に通う生徒達は色々な目的を持っている。
武官や文官になるための基礎教育というのが本題ではあるがそれ以外の目的もある。
それは所謂人脈づくり。
この国の優秀な人材が集まる学園において学生時代に培った関係は色々な面で武器になります。
出身学園だけで形成される派閥があったりもするほどです。
特に貴族の女生徒の中には未来の嫁ぎ先を吟味するなんていう話は普通にあるのです。
エクサスさんはそういう方達につき纏われて困っていたこともあるので思い当たる節は大いにあるのでしょう。
「幸いレイヴン君もシェイド君もとても素晴らしい男子で、二人共が私のことを慕ってくれていたわ。これは本当に嬉しかったの。でも、両方を選ぶわけにはいかない。そうでしょう?」
頬に手を当ててそう言うカーリアン会長はまさしく可憐な花だ。
あどけない少女のような表情だというのに妖艶な魅力もある。
男子が理想とし女子が目標とする姿と言って良いだろう。
話す言葉があまり一般的な考えではなかったとしても、それを押し通してしまうような魔力がそこには宿っていたのだろう。
「だから選挙の結果で決めると言ったのですか?」
「これは自分の意思で決めれなかった私が悪いわ。悪いと思いつつも彼らに選ぶという責任を押し付けてしまったの」
すまなそうな顔をしているが男子二人の態度が頑なになっている理由の一つは完全にこれだ。
全く余計な事をしてくれていたものだ。
普通の女子がすればすぐに愛想を尽かされるような提案。
しかし、この会長が行えばそれは名案となったのでしょう。
「そんな事はありません!こいつと決定的な差を付けることができなかった俺が悪いんです」
「そうですね。会長は優しいですから自らで振ったりすれば振られた方を傷つけてしまう。そう思ったのでしょう」
呆れた目で会長の魔力にやられた二人の男子を見てしまう。
この場に女子が私しかいないが他に誰が居ても私のような視線になってしまうだろう。
ティピカ辺りがいれば氷のような凍てつく視線を見ることが出来たのではないでしょうか?
当人同士が納得しているのだから何も言えないのですが何か言ってやりたい気持ちになってしまいます。
「……お二人は納得しているようですね」
「あぁ。こいつは確かに同僚で友人だったがライバルでもあった。会長の事に関してもだ。勝っても負けても決着を付けるというのは悪くないと思ったんだがな。こんな卑怯な手を使われるまでは」
「全く同じ言葉を返しますよ。私も君が正々堂々と挑んでくれれば結果がどうあろうと受け入れる気がありました。そうはならなかったのが残念でなりませんがね」
男は馬鹿だ。
なんて事を思ったことはありません。
馬鹿かどうかは性別で決まることではないと思うからです。
ですが……この時、私は初めて男は馬鹿だなぁと思ってしまいました。
渦中にいる彼ら二人としては真剣なのでしょうけど。
そして隣に居るエクサスさんのほうを半眼で見てみれば何やらウンウンと頷いている様子。
やはり男は馬鹿ですね。
「はぁ……これは余計にややこしい要素が追加されているようですね」
「しかし納得もした。これではできる限り教師の介入は避けたいだろうよ。裏でこんな勝負が行われているなんて貴族としての品位に厳しいエルミザル先生あたりが知れば大激怒間違い無しだ」
エルミザル先生というのは歴史学の講師で所謂昔ながらの貴族としての考え方が強い人です。
民をより良く導くために貴族は優れていなければならないという。
それは能力だけでなく品位も必要だという考えているため、とても厳しいことで知られています。
生徒会長となればこの学園の生徒の代表です。
それを決める言うなれば神聖な投票にこんな思惑があることをすれば絶対に認めはしないことが想像できてしまいます。
(なんというか、あまりにも酷い事情が絡んできましたが……引き受けてしまいましたしね……)
額に手を当ててため息をつく。
まさかこの学園で一番優秀であろうメンバーが集まっているはずの生徒会でこんな事が起こっているというのは色々な面で予想外でした。
しかし、生徒会の面々に色々な思惑があり、これがただの生徒会長選挙ではないという事がわかっても私がやることに変わりはありません。
「それでは一つずつ確認をしていきたいと思います。私が質問をするので答えてもらって良いですか」
私は気を取り直して愛用のペンとメモ帳を取り出しました。
引き受けた事を少しだけ後悔はしていますが、今更です。
私はいつものように事実を一つずつ並べていくだけ。
そうしてたどり着く先がどのようになるか。
そのために必要な工程を一つずつ進めていくことにしましょう。




