友の友は友となるか-2
本日の授業も終わり、私は図書室へと足を向ける。
今日も私は通常営業。
周囲がどれだけ騒いでいても関係が無い話だ。
先日のお見合い騒動の余波がまだ残っていて騒がしいなんて事は私は気にすることはない。
こういうのは反応してしまえば燃え広がる。
スルーが正解なのだ。
(平穏な時間が何故か遠く感じてしまいます……何故なのでしょうか)
ここ数ヶ月の間に失われた私の穏やかな時間を思うとため息が出てしまう。
今の騒がしくなってしまった日々も悪くはないのだけど、昔を懐かしく思ってしまうのも仕方がないだろう。
まぁ、そこまで遥か昔というわけでは無いのだけど。
少しだけ寒くなってきたとは言え日が高い内はまだまだ暖かい。
衣替えが目前に迫っている事をひしひしと感じながら廊下を歩く。
二、三日前まではヒソヒソと囁く声が聞こえたようなものだが流石にそれももうなくなってきた。
私が何か特別悪いことをしたわけでもないのだから陰口を叩かれる云われもないのだけれど。
そんな風に思いながら日々のルーチンに従って行動しようとしてた私に声をかけてくる人が居た。
「リフィルさん、少し僕と話をしないかい?」
唐突にかけられた言葉に私は足を止める。
彼には見覚えがあった。
少し前にエクサスさんから紹介された親友だと言う二人のうちの一人だ。
「あなたは確かエクサスさんのご友人のコータさんでしたか」
「覚えててくれて良かったよ。一度挨拶しただけだから覚えられてなかったらどうしようと思った」
コータ・クォンサム。
それが彼の名だ。
背が低く身体も小さく幼さの残る顔立ち。
一見すると歳下に見えてしまうような風貌だがそうではない。
いわゆる童顔という奴で一部の女子からは中々に熱狂的な人気がある。
その出で立ちからは想像がし辛いがあらゆる能力が高く、隣国との交換留学生に選ばれる栄誉を授かっていたりもする。
外に出しても恥ずかしくない人間だという事は教師陣からの信頼も厚いのだろう。
以前に軽く挨拶した時にも小型で高性能というのが売り文句だと本人も笑っていた。
そんな数度顔を合わせた事があるだけの男子から誘われるというのはあまりない経験であった。
「ふぅむ……私と話を……ですか」
「おかしいかな?」
「えぇ、おかしいですね」
エクサスさんの友人に対してこう考えてしまうのは失礼なのかもしれないがこれは性分なのだろう。
まずは理由を考える。
まずは疑ってかかる。
そうして納得できなければ素直には頷かない。
今回で考えるならば彼は私に接触する理由が見当たらない。
そう考えるのは思い当たる節があるからだ。
「こう言っては何ですけど、今の私はちょっとした火薬庫です。その理由をあなたはご存知ですね」
「クランベリーとの縁談を断ったからかい?」
「そうです。私は不本意ながら他の女性ならば断ることなんて考えられない縁談を連続で破談にした女であり、カリニオンとクランベリーを手玉に取る魔女のようですから」
他の生徒たちが足を止めることなく歩いて行く中、私とコータさんだけが立ち止まっていた。
横を通り過ぎる生徒たちが私達に好奇の視線を向ける。
それも私の現状を考えれば仕方が無い事ではある。
現在の私は不本意ながら渦中の人物となってしまっている。
それは少し前に起きた出来事が原因。
自分から縁談を申し込んでおいて私に責任を押し付けて縁談を破棄した道化。
私を出汁にして自分の愛を成就させた優男。
サボニス・クランベリーさんとのあれこれだ。
彼との協約通り、あの縁談は私がクランベリーの次期当主をこっ酷く振ったという形で終わりを迎えた。
少なくとも世間ではそうなった。
そしてそれが社交界に伝わると私に向けられる視線は好奇を帯びた。
ここまでは私としては織り込み済みであり問題はない。
私に面倒くさいアプローチをしてくる人間を減らすために受け入れた両者の落とし所だったからだ。
だけど、ここで悪戯小僧の血が騒いだサボニスさんが余計な一手を加えてしまった。
『いやぁ!ラインズのお嬢様にはこっ酷く振られちまった!俺程度じゃ相手にされなかったってわけだ!』
百戦錬磨の遊び人と思われていたサボニス・クランベリーが振られる。
それも家同士が正式に結ぼうとした縁談をだ。
普通に考えれば何かしら問題があったと思うだろう。
そして、ラインズ側が何かしら理由があって断ったのであればそれはクランベリーへの不義となるはず。
そう考えた一人が彼にこう聞いた。
「いくらラインズが大商会だとしても流石に失礼な話ではないのか?クランベリーとしてラインズへ何かしらの報復などは考えているのか?」
そう聞かれたクランベリーの次期当主が語ったこの言葉が波紋を呼んだ。
『賠償?報復?そんな事ある訳がないない!魔女様には感謝しか無いぜ!足を向けて寝れないね!ウチもラインズともっと仲良くなりたいもんだ!』
今度会ったら一発殴らせてもらおうと心に誓った。
余計な事を言わずに沈黙できなかったのかと。
クランベリーの次期当主が語ったその言葉を周囲はどう捉えただろうか。
単純なリップサービスかと思った人もいるだろう。
言葉ではそう言いながらも腸が煮えくり返っていると想像した人も居るだろう。
しかし、後日、別の夜会にてクランベリーの次期当主がラインズ家の当主と和やかに談笑する姿が見受けられた。
お互いに頭を下げ合うその姿からサボニス・クランベリーの言葉が本気であるという事が伺えたという。
これによりリフィル・ラインズの評価がおかしくなった。
元々私がエクサスさんとの婚約解消後に良好な関係を構築していることは知られていた。
私もそうだし、エクサスさんも煩わしい人間からの接触を避けるためにお互いに夜会のパートナーとして出席し続けたからだ。
そこに手酷く振ったというクランベリーの道化師が感謝を捧げ、両家が親密になれるように関係構築に本腰を入れる。
この情報が追加されてしまった。
この現状に周囲の人々は困惑しながら色々な憶測を呼んだ。
「どんな魔法を使えばそうなるのだ?普通は家同士で殴り合いじゃないのか?」
「そういえばラインズのお嬢さんは魔女と呼ばれているらしいぞ」
「それじゃ本当に魔法?エクサス様達は魔法にかけられたの?」
「いやいや、魔法は無いだろう。そんなものがあったら本当に魔女だぞ」
「だけど魔性の女である事は間違いがない。そうでもなければあのお二人を篭絡する事などできんだろう」
「魔女ってそういう事?」
何故そうなったのか。
私が考えなしだったのか?
ここまで話が飛躍するなど誰が予想できたと言うのだ。
あぁ頭が痛い。
だけど、認めたくないけどこれが私の現状。
リフィル・ラインズはいつの間にか
『カリニオンとクランベリーの次期当主を袖にしながら何故か誑し込んでいる女』
となっていた。
そうしてただでさえ変な噂が定期的に流れていた私は今が一番おかしい状態となる。
好奇と畏怖と変な尊敬と妙な興味が入り交ざった感情を向けられる混沌とした状況。
とにかく私は思っているよりも更に変な立場になってしまった。
その私に近づいてくるというのは私が浴びている好奇の視線を共に浴びることとなるからだ。
女性ならばそこまででは無いけど男性ならば注目を浴びる度合いは跳ね上がってしまう事だろう。
エクサスさんの友人である彼がそうなってしまうのは私としては不本意だ。
「そんなのは気にしないさ」
「私が気にするのです」
「へぇ……そういう事気にするんだね。ちょっと意外かな」
「どういう事ですか?」
「君は周囲の評判とかには無頓着だと思ってたからさ」
「それは確かにそうですけどね。自分だけならまだしもエクサスさんの友人にまで累を及ぼすとなれば看過できませんから」
私の交友関係ははっきり言って狭い。
特に男性の知り合いとなれば片手で数えれるほどになってしまう。
まだ知り合ったばかりとは言えコータさんはそのうちの一人だ。
その彼に迷惑をかける事はできる限り避けたいものだ。
「確かにそうだね。でも、そこは心配しなくて良い」
私を見つめる彼の眼からはどういう感情なのか読む事はできない。
それでも彼が本当に私と話したがっている事は伝わってきた。
だけど状況が悪い。
今、私が男性と二人きりで話し込んだりすれば邪推する輩が高確率で出てくるだろう。
それが一部で人気のコータさんであればどういう風に燃え広がるか想像ができない。
だが、彼はそれについては心配は無いと言った。
「変な噂が流れる時というのはね、想像が掻き立てられる時なのさ。そしてそれは往々にして何かを隠している事が原因でもある」
彼の語り口が私に似ているとエクサスさんは言っていた。
「では、どうすれば良いか?簡単さ」
それはこういう理屈っぽく話す所なのかもしれないと漠然と感じる。
あぁ、彼から見れば私はこういう風に話してるように見られているのかなと
「人の目がある場所、開けた場所、誰もが見ることが出来る場所で話をすれば良い。そもそも後ろ暗い事があるわけでもないのだから密室で話す必要はないのだからね」
そう言って彼が指定したのは中庭にあるベンチだった。




