モテ男は辛いよ-5
夕暮れの道を歩く。
周囲には私達と同じく少しだけ涼しくなったこの時間帯に帰ろうとする生徒達。
誰も彼も特に深くは考えずに歩いている。
友人とお喋りする。
不意に遠くを見る。
手を振り、別れを告げる。
その何気ない動作にどういう意味があるのかなど、恐らくは皆深くは考えていないのだろうし深い意味など無い場合がほとんど。
でも、深読みしてしまえばそのどれもが何かの意味を持たせる事もできるのだろう。
「いやぁ、なんていうか今までに無い相談でしたねー。いろんな人がいるなぁ」
帰り道を一緒に歩くグレースさんがそう口に出す。
確かに私としてもこういう人も居るんだなと勉強になる内容でした。
自分が取る何気ない行動も人によっては受け取られ方が違う。
今回は本人には少しだけ気の毒ではあるけど微笑ましい内容であったのが救いでしょう。
「ニーゼさんは真面目に相談してきたのですから、あまり面白がってはいけませんよ」
「まぁそうなんですけどね~。でも、あんな事で勘違いする人がいるなら私も多くの男の子を勘違いさせちゃってるかもしれないな!なんて!」
「ふふっ……グレースさんは明るくて賑やかですからね。勘違いではなくて本気で想いを寄せてくれている男の子が居るかもしれませんよ」
私からすれば愛らしいこの後輩は選り好みしなければ恋人を作ることは簡単だとは思う。
それはきっと彼女も理解はしているんだと思う。
だけど、てきとうに選んだ恋人なんて意味が無い事もわかっている。
あくまで自分が好きになれる恋人を求めて居るだけなのでしょう。
「そんな男子がいるなら出てきてくれないかなぁ。はぁ……どこかにイケメンで優しくて格好良くて頼りになって私を好きになってくれる人いないものですかねぇ、お金持ちも追加で。あと面白いも追加します」
物語の中の白馬の王子様に負けず劣らずのハイスペックさだ。
この要求をクリアする存在はいったい世界にどれくらいいるのだろう。
「その高望みが恋人が出来ない理由だと思いますよ……」
「いいんですよぉ!これが私の理想の男性なんです!理想だから高くても問題無いんです!」
溜息を付きながらそう伝えるもグレースさんは頬をふくらませるばかりだ。
彼女としては恋人ができないと愚痴る事も楽しみの一つという事なのでしょうね。
他愛もない雑談をしながら私達は道を歩く。
そんな時、ふと思い出したようにグレースさんが言った。
「理想のタイプって言えばこの前エクサス先輩が好きな女性のタイプを大声で宣言してましたね」
それはつい先日。
唐突に私の前に現れたエクサスさんが大声で宣言した事件。
そう、あれは事件だ。
その情報は瞬時に学園を駆け巡り、あらゆる女生徒が震撼したという。
とまぁ、そんな事があったりなかったりするみたいだけど、とにかくエクサスさんが私に対して好みのタイプを宣言したのだ。
“背は少し低めでロングヘアー。綺麗系よりは可愛い系の顔立ち。明るい性格でお淑やかな守ってあげたくなる系女の子”
それがこの学園の貴公子の求めている女性像なのだという。
「御伽噺のお姫様とか聖女がタイプとか言わずにある程度、現実的な要素を並べてたのは予想外でしたね」
私を通してエクサスさんとも親交ができたグレースからしてもそう感じるのだろう。
彼はどうにも子供っぽい所があるというのは少しだけ付き合えばわかる事だ。
傍から見ていれば格好良くてキラキラした所が目立つ彼だけど実際のところは可愛い所がある。
それに気づけるのはある程度親しい人間だけだ。
「あはは!確かにエクサス先輩なら大真面目にそういう事言いそうですね!」
そう言って二人で笑った後にグレースさんが何気なく私に訪ねてきた。
「ちなみにリフィル先輩はどういう男性が好みなんですか?」
所謂好きな男性のタイプ。
エクサスさんにはトラブル抑制のためにも考えるようにと言ったわけだが実は私にもこの問題は当てはまる。
私も婚約者に縛られていたために、あまり真面目に異性について考えていなかったからだ。
元々、近寄ってくる男性がいない所がエクサスさんとの違いだろうか。
流石に彼ほど異性に夢を見ていないので白馬の王子様を待っているわけではないけれど。
「う~ん……改めて聞かれると困ってしまいますね。今までそういう事は聞かれる事も無かったですし」
「確かに直接聞かれた訳じゃないですけどエクサス先輩はわざわざリフィル先輩に女の子のタイプを伝えに来たんですから、リフィル先輩も好みのタイプ伝えてあげないと不公平じゃないですか?うん、不公平です。絶対に教えてあげたほうが良いように思います!」
含み笑いをしながら私を誂ってくるグレースさん。
話してる内に会話が面白い方向に転がるように舵を切る姿がなんともわかりやすい。
その目に光るのはちょっと前にも見た好奇心の光だ。
(好みの男性ですか……)
私はエクサスさんと違って男子が群がってきてたりもしないし、こんな事を頻繁に聞かれるわけでもない。
想いを寄せてくれている男の子が居るわけでもないだろう。
でも、考えておかなければいけない事でもあるだろう。
流石にずっと独り身で居ようとは思っていないわけで。
婚約者が居なくなったのだから私も相手を探さなければいけない日が来るのだから。
「そうですね。細かい好みはともかく……最低限の条件は会話ができる人……ですかね」
「なんですかそれ?会話できない人なんています?」
「時々居るんですよ、自分の中にある答え以外は認めないという人が。そういう人とは言葉をかわしても意味が無いんですよね。会話にならないんです。何を言っても意味がありませんから。男女問わずですけどそういう人は苦手ですね」
苦手というか不毛なのだ。
恋人になるのであれば私はお互いを尊重する関係でありたいと思う。
良い所は称えて、悪い所はしっかりと伝えて直す。
そうしてより良い関係を目指す。
それこそが私が理想とする男女の仲。
そう考えた時に第一条件になるのはこれだろうか。
「じゃぁじゃぁ!エクサス先輩とかどうなんです!いっつも仲良さそうに話してるじゃないですか!」
「エクサスさんですか?」
その言葉に彼の顔を思い浮かべれば、当然だけど私の第一条件はクリアしている。
ここまで親しくなる前は私が苦手な男性の代名詞のように思っていたものだ。
当然、条件をクリアしていないと思いこんでいた。
どれだけ筋が通っていたとしても気に入らなければ認めないような人だと思っていた。
自分の欲求のために他人の意向を無視する人だと思っていた。
だが、それは間違いだったと今は知っている。
彼は確かに自分の直感を信じているし感情のままに動くこともある。
だけど、人の話を聞いてそれを取り入れる事に何の抵抗もない人でもあるし、人の事をよく見ていて気遣いができる人だと知っている。
正しい意見、有用な意見であれば耳を傾ける度量があるのだ。
「ふふっ。そうですね。前にも言いましたけど婚約解消は少し勿体なかったかもしれませんからね」
「おぉ!それを伝えてあげたらエクサス先輩喜ぶんじゃないですか?なんていうかリフィル先輩の前だとエクサス先輩はとっても楽しそうにしてますし!」
ニヤニヤと笑いながら私の顔を覗き込むグレースさん。
私はその視線から顔を背けながらこう言うしか無いのだった。
「彼には余計な事は言わないでくださいよ」
私の顔は少しだけ赤くなっているかもしれない。
体温が少しだけ上がった気がするのはこの暑さのせいだと思いたい。
エクサスさんが私のことを少しは意識しているかもしれない。
そんなのは私の恥ずかしい自意識過剰でしかないでしょう。
それに、今の関係が心地よいのは間違いがないのですから。
前話の対になるのを書こう軽い気持ちで書き始めた話。
もうちょっと早く書ける気がしてたのに気がしただけでした。
不思議です。
未熟な作品ですが更新を待ってくれていた方、ブクマや評価、いいねをしてくれた方、ここまで読んでくれた方、本当にありがとうございます。
続きが読みたいと思って頂けたのであれば気長にお待ちいただければ幸いです。
何故なら不定期更新から脱出はできそうにないからです!




