モテ男は辛いよ-4
一通りを話し終えて私の中で結論は出ていた。
それはニーゼさんは自意識過剰なだけであり特に異性としては誰にも好かれてはいないだろうという事。
どのエピソードも好意を寄せられているなどと判断できるような代物ではなかった。
彼は以前にも好意を寄せられている娘が居たが、自分が行動をしなかったために逃げられたというような事を言っていた。
それも要は彼に興味がそもそも無かったので接点が無くなっていっただけの話なのだろう。
「俺が話せる事は全部話したんだけど……どうかな?」
私達の反応が思った通りの物ではなかったからか不安そうにニーゼさんが言う。
彼には悪いが予想外だったのは私もだ。
彼の目には苦悩を目に浮かべる私が映っているだろう。
一体誰の想いを受け入れるべきかアドバイスをするために悩んでいるように思えるのかもしれない。
しかし、そうではない。
単純に私が導き出した事実をどのように伝えればこの人は理解するだろうかと考えてしまっていただけだ。
「そうですね……これから言う事はあくまで私の意見です。私が間違っている可能性は勿論あります」
どうしたものかと言う思いはある。
私の答えは彼が求めているものでは無い事は想像に難くない。
彼はどの娘に告白するべきかという答えを求めているだろうからだ。
私がたどり着いた結論はそれからはかけ離れたものだ。
しかし、この相談に乗ってしまったからには彼に何らかの答えを伝えないわけにはいかない。
伝えないわけにはいかないだろう。
「あぁそれはわかっているよ。もし上手くいかなかったとしても君に責任転嫁しようとかは考えていないさ」
胸を張って私の答えを待つニーゼさん。
嘘をつくこともできる。
てきとうにお茶を濁すような解答をする事も不可能ではないだろう。
だが、やはりそれは良くない。
私は彼の相談に真面目に取り組むと決めたのだから、それは良くない。
だから、私はハッキリと彼を真正面から見据えて誤解の余地が無いように伝える事とした。
「結論を言うとですね。あなたは別に誰にも好かれてません」
その瞬間、図書室の中の時が止まった。
誰も動かない。
私の言葉を待ち望んでいた彼も止まっていた。
外の騒がしい喧騒がやけに大きく聞こえる気がする。
隣に座っていたグレースさんが「あぁそんなハッキリ言うんだぁ」という感情が伝わってくるような表情で固まっている。
これこそが言葉にしなくても伝わってしまう感情というものでしょう。
「……………………よく、意味がわからないんだが……その……」
やっと動き出した彼が私の言葉を咀嚼しようとしている。
ニーゼさんが混乱するのも仕方がない。
彼の前提としては“三人の女性に想いを寄せられている”という事が悩みの種だったわけだ。
それが根本から崩された。
しかし、どう考えても私が辿り着いた結論はこれなのだ。
「あなたは誰にも好意を寄せられていません。あなたの勘違い。自意識過剰です」
だから、私は追撃をかける。
下手にポジティブに解釈されてはいけないからだ。
「そんな……何故?何故そんな事を言うんだ?本当に俺の話聞いてた!?聞いた上でそんな事言うの!?」
普通の人が相手であればあそこまでハッキリと伝えた意味を取り違える事はないだろう。
しかし、ニーゼさんは話を聞く限りでは脳内で色々な補正をかけて自分に都合よく変換する癖があるように思える。
そうでなければただ手を握られただけで自分が男性として好かれているなどと発想が飛躍する事はないはずだ。
恐らくは全ての事柄に対してではなく異性に関する事だけなのだろう。
流石に日常生活などもこの調子では社会不適合者になってしまうからだ。
それでも中々に困った人だ。
かなりショックを受け、その言葉を受け入れられないニーゼさんに対して私は現実を突きつける。
「良いですか。あなたが話したエピソードはどれもそうですが普通の人が行う普通の行動です。好意を表現しているわけでは無く、何の意識もしていない行動です」
「そんな馬鹿な!」
声を荒らげて立ち上がるニーゼさん。
その声に浮かぶのは私の答えにたいする怒りなどではなく、ただただ理解ができないと混乱し驚愕している事がわかる。
彼は信じられないのだ。
しかし、信じられないのはこちらのほうだ。
「微笑みながら俺の装備を一緒に選んでくれてお釣りを渡す時に手を添えてくれたのに!」
「店員として当然の行動です」
「兵糧管理になった俺をあんなに褒めてくれたのに!」
「面倒な役割を引き受けてくれたら褒めるでしょう」
「目が合うし!照れくさそうにしてたし!」
「気の所為です」
彼が並べ立てる好意を寄せられていると感じた所作を私は尽く否定する。
何故これだけの事で女性に想われていると考えてしまったのか。
私のほうが不思議でならない。
「そんな……全部、全部俺の勘違いだった……そんな事が……ありえるわけが……」
打ちひしがれて崩れ落ちるニーゼさん。
彼からすればこのような答えが返ってくるなんて思っていなかっただろう。
誰々と付き合えば良いと思う。
そんな答えが返ってくるのを期待していたはずだろう。
私もまさかこんな解答に辿り着くとは相談を受けた時は思っていなかった。
打ちひしがれる彼の姿は哀れであるが答えが変わる事はない。
「あくまで私があなたの話を聞いた限りはそう感じるという事です」
「っ!」
私の言葉に彼が反応して顔を上げる。
そこには一縷の希望がそこに見えたのかもしれない。
私自身、この答えが絶対の正解とは思ってはいない。
思ってはいないけど……これ以外はやっぱり無いかなぁ。
「そうですよ!もしかしたら!万が一!奇跡的に!三人ともニーゼ先輩の事が好きという可能性もあるかもしれませんよ!」
「グレースさんの言葉から可能性の薄さをヒシヒシと感じる!」
悲痛な叫びが図書室に木霊する。
隣で話を聞いていたグレースさんからしても私と同じ結論のようだ。
と言うか、誰に聞いても同じ答えが返ってくるだろう。
私が相談に乗るまでもないような話ではあったが、あまり親しく無い私達にしか恥を晒さなかったという点では正解だったのかもしれない。
あと、親しいとここまでハッキリと言えなかったかもしれませんし。
「いくら魔女の異名がついていても間違う事はあるはず……流石に全部俺の勘違いだなんて事は……」
「現実を見ましょう先輩。傷を負う前に気付いた。それだけでも良かったじゃないですか」
往生際悪く足掻こうとしているニーゼさんがグレースさんに諌められていた。
私としては言える事はもう無い。
いつも通りの事だけど、あくまで私にできるのは私が感じたことを伝えるだけであり、それが正解かどうかはわからないのだから。
「とりあえず、私が言えるのはこれくらいですね。あなたが告白するかどうかは任せます」
「うぅ……本当に……あの娘たちは俺のことなんて好きでもなんで無いって言うのか……」
くだらないと言いたくは無いが、なんとも気が抜けてしまう相談を受けている内に日は傾き始めていた。
日が暮れてもまだまだ暑いことに変わりはない。
これ以上は図書室に居ても何もする気が起きないだろう。
「あぁ、最後に言っておこうと思うんですけど。ニーゼさん」
「……なんだい?」
「私はあなたの相談に親身に乗って、あなたのためを思って言いづらい事実を突きつけました。全てはあなたのためです」
私がニーゼさんのためを思って行動したのは間違いが無い。
結果は何とも言えなかったが真面目に相談に乗ったのもそうだ。
話してて悪い人では無いとも感じた。
良くも悪くも年頃の男の子なだけ。
「そんな私はあなたの事をどう思っているかわかりますか?」
「っ!まさか……!まさか!リフィルさんが俺の事を好きだって言う事かい!ここまで親身になって……確かに普通はここまでしてくれたりはしない!」
予想通りの反応すぎて頭を抱えたくなってしまう。
しかし、最後にこれを言っておかなければ後々面倒くさい事になりかねないのだから仕方がない。
私が殊更に冷たく酷い魔女というわけではない。
これを伝えることで彼を傷付けてしまうであろう事もわかっています。
それでも、私の気持ちを伝える事は必要な事。
「いいえ、全く好きではありません」
相談に乗っただけでその人を好きになるというのであれば私は今までの相談者の事も好きにならなければならなくなってしまう。
そんな事はありえないわけだが、この人にはハッキリと伝えておかなければならないと思った。
変な勘違いでただでさえ色々な噂が流されたりもした私の状況が更に悪化しないようにとの予防線だ。
そして、恐らく正解だっただろう。
放っておけば絶対この人は謎のポジティブ理論で私が好意を向けているとか言い出しただろうから。
「勘違いされては面倒なので釘を刺そうと思っただけです。あなたの事は何とも思っていませんので悪しからず」
「ニーゼ先輩!私も先輩の事好きじゃないですからね!一応ですけど言っておきますね!変な勘違いしないでくださいね!」
私が刺した釘に便乗するグレースさん。
それによって崩れ落ちるニーゼさん。
可哀想に……真っ白に燃え尽きている。
まぁ悪い人ではないのだから自分を少し見つめ直せばきっと恋人もできるだろう。
何にせよ今日の相談はここまで。
彼がどうするかは……もう私がどうこうできる事ではないでしょう。
「さて、帰りましょうか」
「そうですね~暗くなる前に帰りましょう」
打ちひしがれる彼を後目に帰路へと付く私達であった。




