モテ男は辛いよ-2
私の前に少しだけ肩を落としながら立っていたのはこの学園の生徒。
少しだけ背が高く引き締まった体躯。
常ならばサラサラと流れる金の髪だろうにこの暑さでは汗でベタついてしまっている。
目元の泣きぼくろが人によってはチャームポイントにもなるだろう彼の事を私は知っていた。
というか私は彼と一般教養クラスが同じだからだ。
名前はニーゼ。
(何故わざわざ私に……?)
知ってはいたが、なぜ私を訪ねてくるのかと不思議に思ってしまう。
クラスメイトならば話しかけてきてもおかしくないのではと思うかもしれないが、これには理由がある。
それは私の交友関係の狭さ、というか人見知りというか、なんというか。
つまり、クラスメイトではあるが彼とは単純にほとんど話した事もない相手だったからだ。
「リフィル先輩、お知り合いですか?」
「えぇ……まぁクラスメイトですね」
私が怪訝な表情をしているのを察したグレースさんが訪ねてくる。
はっきり言って私宛に男子が一人で訪ねてくる事は珍しい。
なにかの相談事がある場合も基本的に友人などが連れてくるのが前提だからだ。
(う~ん、わざわざ私に相談してくるほど親しくはないと思うのですけど……)
多くの男子と同じく彼も武官を目指しているので一般教養以外の専攻も違う。
はっきり言って話しかけられたのは初めての事かもしれない。
彼のことは知っているが、本当に知っているだけ。
それくらい接点が無い人物だった。
私は全くの見ず知らずの人間からの相談を受け付けたりはしていない。
魔女と呼ばれようとも、それを受け入れようとも、私自身は別に誰かの相談役になった覚えはないからだ。
あくまで親しい人が悩んでいる人を連れてくるから相談に乗っているだけであり、私自身は自分で進んで相談を受けた事はない……はずだ。
こう言うと一見さんお断りの高級料理店みたいだが、そんな感じなのだ。
そんな私に悩みを持った人間を連れてくるのは基本的に女性ばかり。
私の交友関係に男性はほぼ居ないのだから仕方がない。
頻繁に訪れる男性など限られている。
というか一人しか居ないと言ってもいいだろう。
私を積極的に訪ねてくる男性は圧倒的な人数の相談者を一人で連れてきたエクサスさんくらいなのだ。
そんな私に対して一人であまり知らない男の子が訪ねてくるのは珍しい事でした。
「あぁ……僕はリフィルさんのクラスメイトのニーゼだ。君はリフィルさんの友人かな?初めまして」
「あ、これはこれはご丁寧に。後輩のグレースです」
ニーゼさんは流れ出る汗を腕で拭きながらグレースさんへと挨拶をする。
滅多に居ない私を訪ねてくる男子にグレースさんは興味津々だ。
先程までヘバッていたとは思えないほどに彼女に生気が戻っているのがわかる。
「リフィルさんが色々な人の相談を受けてくれると聞いて訪ねてみたんだが……その、噂通りに相談に乗ってくれるのだろうか?」
「いえ、噂は噂です。私は友人から持ちかけられた話を聞くことはありますが、それだけです」
「それにしては色々な噂が飛び交っているけど……僕が聞いた話でも魔女に“相談すれば悩みなんてのは煙が掻き消えるように無くなる”って話だったし」
なんだその噂はと顔を顰めてしまう。
自分自身の噂話を調べるというのは少し恥ずかしくて放置していたけど、一体今私の立場はどういう事になっているのか。
小悪魔的な後輩が面白おかしく尾ひれを付けて流しているのではないかと疑ってしまう。
「それは噂というか嘘です。根も葉も無い嘘です。全く誰がそんな事を言っているというのでしょう」
「えぇ……根はあると思ういますけどぉ」
隣からのガヤは無視する事とする。
そして、今度噂を一度調査する必要があると心に留め置いておく。
とにかく、私はよく知らない人からの相談を受ける気はあまり無いのだ。
頼られるのは嫌いではない。
しかし、それはあくまで友人知人にという話だ。
唐突に頼られても困ってしまう。
「そうなのか……では、俺の相談には……」
「申し訳ありませんが……」
そう言った私の目の前で明らかに落胆するニーゼさん。
わざわざ訪ねてきてくれて申し訳ない気持ちはある。
彼の顔が残念そうにする姿は哀愁が漂い、中々に哀れではある。
しかし、だからと言って無条件に相談を受けるなんて事をするのは後々にトラブルの元になるだろう。
だから、ここで断るのは正しいはず。
そう思った矢先に隣から声がかかる。
「待った待った!お待ち下さいリフィル先輩!ここは一つ相談に乗ってあげても良いのではないですか?」
「グレースさん?」
グレースさんが好奇心に目を輝かせながら私にそう言う。
夏の暑さにやられて私の隣で溶けていたはず彼女はそこには居ない。
気づいた時、私の隣に座っていたのは噂好きな姦しい女の子。
そして、その姿を見て私はすぐに理解した。
これは彼女の悪癖が出ているときの顔だ。
つまり、悪ノリしている時だ。
「暑くて本を読む気にもなりませんし、涼しくなるまでに時間もあります。ここは一つ暇つぶしに良いのではないでしょうか!」
「いえいえ、流石にそんな遊び半分では……」
私の予想通りにこの娘は娯楽のためにニーゼさんの相談を利用しようという魂胆だった。
はっきり言ってそれは良くない行いだと思う。
流石に他人の真剣な悩みを茶化す気は私には無いのでグレースさんを注意しよう思った。
しかし、それよりも前にニーゼさんが声を上げる。
あまりに失礼なグレースさんへの抗議かと思いきや、彼があげた声は予想と反するものであった。
「あぁそれで良い!暇つぶしでも良いんだ。話を聞いて欲しい。お願いだ!」
「ほらほら!ニーゼ先輩もそう言ってるじゃないですか!」
こういう野次馬根性をなくせば彼氏の一人くらい作れそうなのに……とグレースさんを見て思ってしまった。
彼女は気さくで明るく楽しい性格だが悪ノリする癖があるのも事実。
しかし、それもグレースさんらしさ。
こういう淑女らしくない彼女の一面を好きになってくれる人が居れば良いのだけれど。
そんな要らない心配をしてしまう。
「まぁここは一つ冷静になって下さいリフィル先輩」
当然ながら気乗りがしていない私に対してグレースさんが向き直り真剣な顔をして口を開く。
「ニーゼ先輩は相談を受けて欲しい、リフィル先輩は本を読む気が起きない、私には暇潰しが必要。これらは動かせない事実です。ここまで言えば……わかりますね?」
「わかりますね?じゃありません。全く、一体誰の真似ですかその口調は」
溜息を付いてグレースさんを睨むも言ってる事は否定ができない。
グレースさんの言う通り今の私は本を開く力も無いような状態だ。
本を読んでも頭に入っていかない。
ただただ文字に目を滑らせているような状態。
こんな形ならば彼の相談を受けたほうがマシなのかもしれない。
本当に暇潰しに使われるという事を当人が納得してくれればという話だが。
「そうですね……本を読む気にもならないのは事実ですし……ニーゼさんが本当にグレースさんの娯楽に使われる事に抵抗がなければ話を聞くくらいはしても良いのかもしれませんね……」
「では聞いてくれるんだね!」
「あと、最初に言っておきますが聞くからには私は真面目に相談に乗りますけど解決するとは限りませんよ。今まで相談された方の中には解決しなかった事も沢山あるのですから」
「いい!それで良い!図書室の魔女が相談に乗ってくれれば百人力だ!」
本当にこの人はわかっているのだろうか?
半目で睨むも効果があるとは思えない。
もう皆が熱気にやられて頭がおかしくなってきているのかもしれない。
そうとしか考えられないような流れが作られている。
しかし、あまりに暑くて私もその流れに逆らうことができそうにないのであった。




