貴公子の憂鬱-4
コータの巧みな話術。
というかわかりやすく例を出して説明してくれた事により俺は外見的な要素も捨て置いてはいけないという事を俺が認識した。
つまり、ここからが本番というわけだ。
「さて、それじゃ改めて考えようか。エクサスはどんな娘が良いのかな?さっき話したように見た目でも良いんだよ」
「パッと思いつけば苦労はしないのだが……」
改めて言われたとしても外見でアレコレ考えるのにはやはり抵抗があるのか何も思いつきはしなかった。
確かに俺も女性を美しいと思う事はある。
それこそティピカ嬢は外見だけならとても可愛らしいと思うし、イルドの婚約者であるレイラーニ嬢は文句なく美人だ。
その他の女性にも美しい、可愛らしいと感じる事は当然あったが、それは何というか一般的な美意識としてという話でしか考えていなかったのだろう。
自分の恋愛対象としての基準で見たことが俺にはなかったのだと思う。
かと言って他の部分で考えたとしても同じことだ。
漠然と「優しい人が良いな」とか考えることはできる。
しかし、優しくない人が良い人間なんて早々居ないだろう。
そこまで大きな括りの話になってしまうと、とても女性のタイプと言えるとは思えない。
そうして、また難しい顔をして悩む俺に対して相談役となった二人は困り顔になってしまう。
しかし、このままでは留学から帰ってきたばかりだと言うのに付き合ってもらっている二人に申し訳ない。
唸りながら何とか話を進展させようと考えた俺の脳裏に一つ浮かんだ物があった。
「うぅ……そのな……笑わないで欲しいんだが……」
これを言えば笑われるだろうと予測ができるような子供じみた答え。
しかし、ケリクはともかく真面目に相談に乗ってくれているコータのためにも俺は自分の恥部を曝け出す決心をした。
「お……お姫様とか……その……やっぱり良いなと思うんだ」
「お姫様ぁ?」
「その……ほら、ダルク卿の竜退治の……」
俺の脳裏に浮かんだのは子供の頃に憧れた英雄の物語。
それがダルク卿の竜退治である。
ある男が竜の心臓を取りに旅に出る。
それは不治の病にかかった姫の命を救うための妙薬作りの旅であった。
数々の困難に打ち勝ち男は竜の心臓を手に入れる。
そんな御伽噺だ。
その童話に出てくる姫様というのは男ならば一度は夢見る健気な少女として描かれていた。
病弱なため華奢な体、白く透き通るような肌。
美しい金の長い髪。
大きな瞳で愛らしい声を出す可憐な少女。
周囲の人がダルク卿は冒険で死んだと言っても最後まで彼を信じ続ける一途な姿。
この国の子供であれば誰でも幼少の頃に聞かされる童話の一つ。
絵本があったり、演劇の題材に選ばれたりもする有名な話。
それに出てくる姫の姿が俺の脳裏には浮かんでいた。
そして、こんな事を言えばどういう目で見られるかくらい俺は理解していた。
「エクサス……その……それはちょっと……流石にだよ……」
「わかっている!わかっているのだ!言わんでくれ!お願いだ!」
「マジでお前、幼児レベルじゃねぇか」
「言わんでくれと言っただろうが!」
俺の口から出てきた女性のタイプがまさかの御伽噺のお姫様だというのに二人は呆れ顔だ。
俺だってこれが幼稚な事くらいはわかっている。
わかっているから言いたくなかったが言わないと話が進みそうになかったのだ。
「コータ……正直俺はこいつを舐めてた。茶化して良いような話じゃないというのを今理解したぞ」
「そうだね……僕も予想以上ではあったかな……流石にダルク卿のお姫様がタイプなんて言うのが許されるのは僕達の背丈の半分くらいの子供までだよ……」
「すまん……」
俺が出した答えは相当酷かったらしく二人の顔が明らかに引き攣っていた。
俺が自爆を覚悟で内心を曝け出した事によりケリクもやっと真面目に相談に乗る気になってくれたのか、おちゃらけた雰囲気を消して本腰を入れてくれ始めた。
つまり、こいつは今まで真面目に話をしてなかったという事だ。
酷い話である。
「エクサス主導で話を進めたら実在しないお姫様像が出来上がっちまう。流石にそれは友人として忍びない」
「言い返したいが何も言えん……」
「だから、こうしようぜ。俺達が質問をするから必ずどちらかを選ぶんだ。そうすればザックリとだろうが現実的な女になるだろ」
先程まで乳だ尻だと言っていた男とは思えない提案だった。
最初からこういう態度で居てくれれば尚良かったのだが、それをこいつに求めるのは贅沢なのかもしれない。
「確かに質問形式は良いかもしれないね。質問は僕達が考えるからエクサスは答えるだけで良いし」
「たしかにどちらが良いか答えるだけなら俺でもできるか……」
その言葉に俺は顔を上げて頷く。
自分一人ではできない形式だ。
それだけで今まで一人で悩んでいただけの時とは違う答えが出るだろう事は想像に難くない。
何よりも自分一人で出した答えがお姫様だという現実がある。
それよりはマシな答えに行き着くだろう。
「よし!それで頼む!」
俺は二人に諸々を委ねる事にした。
もう、俺には怖いものなどないのだから何を聞かれても答える事ができるだろう。
「よし!早速一つ目の質問だ!」
「先に言っておくが乳か尻かは聞くなよ」
「…………お前は俺が少し真面目になってやった矢先にそういう事を言う、悲しいねぇ」
「日頃の行いは大切だね」
という訳で、俺の好みの女性を探るための二択問題が始まるのであった。
「そうだな。まずは定番で行くか。髪は長いのと短いのはどっちが良い?」
「髪型か……正直、どちらでも良いのだが……それはダメなのだろう?」
「そういう事。強いて言えばでかまわねぇから選べ」
ケリクが出した二択は確かによく聞く物だった。
髪……長いのが良いか短いのが良いか。
理想像であるお姫様は金髪のロングヘアーである。
だから、そのまま素直に考えれば俺はロングが好きなはずだ。
別に強い拘りがあるわけではないが、どちらかを選べと言われればそうなるだろう。
「長いほうが良いな。うむ、やはり美しく長い髪は女性らしいと思う。ダルク卿の姫も美しく長い髪だったしな」
「そこからは離れて欲しいんだけどなぁ~」
「そう言ってやるな。まさか好みの女で御伽噺の姫様が出てくるとは思わなかったが、それでもあの話の姫様は男の子の理想の女性であるっちゃあるんだからな。ほんとお前何歳だよ?」
「お前と同い歳だ!全くうるさいぞ!正直に答えたんだから次に行け次に!」
そうして俺は二人の質問に次々と答えていった。
中には本当にどちらと言えなくて答えられないような物もあったが、少しずつ俺の中の女性のタイプは絞られていった。
「はぁ……今更なんだがかなり恥ずかしいんだが……」
「ぎゃははは!お前が自分で解決できりゃ俺らがこんな楽しい事しなくて良かったんだよ!自分を恨みな!」
「楽しいとか本音を言いおって……」
俺とケリクが睨み合う隣ではコータが俺が答えた内容の使えそうな箇所を紙に書き出して纏めてくれていた。
こんなに多くの質問に答える事になるとは最初は全く思っていなかったものだ。
「かなりザックリだけど最初よりはまとまって来た気がするね」
「おぉ……本当か……」
「最初があまりにも酷い状態だったからな、そこから考えればどんな一歩も前進だぜ」
ケリクを睨みつけるがどこ吹く風だ。
俺一人では同じところをぐるぐると回っていただけだったのだから、それから比べれば大きな前進なのはケリクの言う通りだ。
「でも、まだちょっと足りないかな~後少し頑張ろうか」
「もう何でも聞いてくれ!俺にはこれ以上恥ずかしい事は無い!」
半ばやけくそ気味に俺は天を仰ぐ。
そうして二人からの質問は小一時間続いた。
時折話が脱線しながらとワイワイと語り合う。
俺の恥ずかしい相談に乗ってもらっているという状況だが、それよりも久しく会えていなかった友との語らいが楽しかったのだった。
◇
「できたぞ!これが学園の女子の憧れの的!エクサス・カリニオンの好みの女の子だ!」
そう言いながら俺達が話し合った結果を纏めた紙を天高くへと掲げるケリク。
傍から見れば馬鹿だ。
だが、その馬鹿のおかげで俺の悩みが解決しそうなのも事実なのだから感謝をするしかない。
「ふふふっ……そうだね。結構な数の質問したね~ちょっと疲れたよ」
ケリクの手にはコータが俺の解答をメモに書いてまとめてくれたのものが握られていた。
言ってしまうとメモに書いてまとめないと訳がわからなくなるくらいの質問に俺は答えたのだ。
「でだ、結論はどうなったのだ……色々と答えすぎて自分ではもう良くわからん……」
有用な質問もあれば本当に無駄な質問もあった。
ケリクが俺の性癖を暴くためだけに仕掛けてくる罠もあった。
それらを掻い潜りできあがったのが俺の好みの女性のタイプ。
そうまでしないと自分の好みがわからなかったのだから情けない。
しかし、俺の悩みを晴らすには必要な事ではあったはずだ。
やっと俺は答えを知る事ができる。
「よし!俺が発表してやろう!エクサスの好み女性のタイプは……」
「タイプは……」
「ゴクッ……」
息を呑む。
そして、俺が探し求めていた答えが発表された。
「“背は少し低めでロングヘアー。綺麗系よりは可愛い系の顔立ち。明るい性格でお淑やかな守ってあげたくなる系女の子”だぁぁぁぁぁ!」
ドドンッ!という効果音が聞こえてきそうな勢いで俺の女性のタイプがコータから発表された。
「おぉ……おぉ……これが俺の……」
コータが渡してくれた紙にはまさしく今は発表された事が書かれていた。
悩み続けていた、探し続けていた答えがここにあったのだ。
「……なんか……これで良いのかって感じがあるんだが。もっと具体的な話入れた方がよくね?乳と尻の話とか」
「まぁまぁ。あくまで最初の一歩だからこんなくらいで良いんじゃないかな?全くの空想じゃないだけ良いでしょ」
感動に打ち震える俺を他所にケリクは少しだけ物足りなさを感じていた。
コータもそれは同じなのだろう。
しかし、コータとしてはそれで十分と考えてくれているようだ。
「そうだぞ……普通の人にとっては小さな一歩かもしれん……しかし、俺にとっては大きな一歩なのだ」
俺は感慨深くメモを見つめる。
そうしていると俺はこの答えを伝えなければいけない人が居る気がしてきた。
他ならぬこの難題を俺に提示した一人である彼女にだ。
いつも頼りっぱなしだが、今回は俺は魔女に頼る事なく答えを出せたぞと言いたくなってしまった。
まぁ、実際は親友二人に頼ってしまったのだが彼女の手を煩わせなかったのだから良いはず。
少し時間はかかってしまったが、これは褒められてしまうかしれん。
そう考えたら俺が向かう先が一つである。
「すまん!二人共!俺はこれから図書室へ向かわねばならん!」
「図書室ぅ?」
「どうしたの?」
「俺の答えを伝えなければならん人が居るのだ!」
俺は二人に礼を言って立ち上がる。
彼女は今日も図書室に居るだろう。
俺を待ってくれているわけでは無いが、俺が会いたいと思えばいつでも会えるのだ。
「ん~……どうしたんだあいつ?」
「まぁ面白そうだし着いていこうか」
二人が俺の後で何やらヒソヒソ話をしているのも気にならない。
俺は手にした答えを握りしめつつ図書室に向かったのだった。




