貴公子の憂鬱-3
「しっかし、お前と女の好みについて話す日が来るとはなぁ」
「ふふっ……確かに僕達はこういう話をしたことはなかったね」
事態を把握した二人はどこか面白がっている雰囲気ある。
人がこんなにも悩んでいるというのに不謹慎な奴等だ。
しかし、俺が心の内を話せる人間というのはそう多くない。
更に、こんな他人から見れば鼻で笑われるような事を相談できる相手となると尚更だ。
ケリクは女子の扱いが少なくとも俺よりは上手だ。
本人は女の子が大好きでよく告白してはフラレたり、時々成功したりしている。
女子からの人気はそれなりにあるだろう。
事実、何度か彼女を紹介された事もあるが長くは続いていないというのが現状だ。
コータは今の俺と似たような状況だろう。
家柄も悪くなく、女生徒からの人気もある、そして特定の女性が居るわけでもない。
婚約者なども居ないため、それこそ作ろうと思えば彼女を作れるだろう。
だが、本人がそれを求めていないと思われる。
理由はわからないが彼女を作ろうとしていないのだ。
二人共当然ではあるが女性に興味はあるはずだし、年頃の男友達となれば普通はそういう話をするのかもしれない。
だが、俺には婚約者が居たという事からか異性に対しての話はあまりする事がなかった。
それこそケリクが馬鹿をやってフラられた時に笑い話として出るくらいだった訳だ。
「それじゃ一つずつ聞いていくか。俺から言わせれば女のタイプなんて悩む必要なんて無い事だからな。純真無垢なエクサス様にご教授してやるよ」
得意げな顔をしてケリクが俺に顔を向ける。
イタズラ好きな子供がするような得意げな表情。
色恋沙汰となると恐らくだがこいつが俺の頼みの綱だ。
コータも勿論頼りになるが、ケリクほど異性への関心を持ってはいないだろうからだ。
何事も経験が豊富という事は頼りになる。
俺が知る限りでも成功か失敗かは置いておいて、女性へのアプローチを積極的にしているのは間違いなくケリク。
そのケリクの第一の教えは俺の度肝を抜くものであった。
「まず重要なのは……乳派か尻派かだな」
「「はぁ?」」
ケリクが聞いてきた内容に俺は素っ頓狂な声を出してしまう。
こいつは今なんと言った?
乳?尻?
「俺は断然乳だね。やっぱ巨乳は正義よ。いや小さくてもそれはそれで良いんだけどよ」
「ケリク……君ってやつはほんとに……」
「なんだよコータ?まず考えるのはここだろ?」
何の文句があるのかとふんぞり返るケリクに俺とコータは頭を抱える。
こいつに相談した俺が馬鹿だったのか?
さっきまで頼りになる友人だと思っていた俺は大馬鹿者なのか?
まず最初に出てくるのがまさかそのような事だとは思いはしなかった。
ふざけている訳ではなく真剣に相談に乗った結果がこれなのだ。
「ケリク……俺は好きな女性のタイプについて相談に乗って欲しかったんだ。性癖について語りたいわけじゃないぞ」
「おいおい、何言ってんの?体だってタイプの一つだろうが。むしろ、入り口はどうしたってそこだろ」
俺の苦言にケリクはわかってないなぁという態度を崩さない。
こいつが言う言葉もわかりはするが、それに頷くのは少し抵抗がある。
俺が求めていたものは何というか、そういう即物的な物では無いと思っていたからだ。
だが、これについてはケリクが正しいようだった。
何故かというとコータがケリクの味方についたからだ。
「……少し極端だし、言い方が悪いけど見た目も重要な要素なのは正解だね」
「コータ……お前まで」
「まぁ聞いてよエクサス」
呆れかえる俺に冷静にコータが語りかける。
「女性のタイプについて外見から入るのは別に悪い事じゃないよ。だって、最初は外見しかわからないでしょう?流石の君の直感でも初対面の人間の深層心理はわからない。だから、話してくれたような問題になった」
「それはそうだが……」
「だから、ここで君が……そうだな。例えばだけど“背が高い女性が好き”と言えば、背が低い女の子は静かに身を引くかもしれないだろ?そうすればトラブルの発生数は低くなると思わないかい?」
コータの言う事はもっともではあった。
誰だって最初は外見しかわからない。
だから、そこで一つのラインを引いてしまえばトラブルになる可能性を減らすことができるのではないかという事だ。
「そうだぞ!俺が言いたい事はそういう事だ!つまり、乳がでかいのが良いのか、尻がでかいのが良いのかはっきりしろって事だ」
「女性を身体つきで判断するなんていうのは失礼なことだ!そんな事だからお前は彼女にフラれるんだろうが!あと、お前がとにかくデカいの好きなのはわかったが俺を巻き込むな!」
「でかいのは良い事だろうが!大は小を兼ねるんだよ!」
「ケリクは少し黙って!」
我が意を得たりと勢いづくケリクがコータに黙らされる。
正直、俺達の中で一番発言権があるのはコータだ。
ケリクのような考えなしでも無く、俺のような根拠なしの直感でも無い。
リフィルのように筋道立てて物事を考えるのがコータだからだ。
そう思えば今までも頼もしかったコータが更に頼り強く感じた。
頼ろうとしていた片方がポンコツだった事がわかったからかもしれないが。
「そうだなぁ、一つ例え話をしようか。エクサス。頭の中でイメージをして欲しいんだけど」
「?」
「君は昼食を食べようと思ったんだ。お腹を空かせて商店街に辿り着く。そうすると店がズラッと並んでいる」
コータが言うように俺は脳内に商店街をイメージする。
腹をすかした俺が足を向けたのはとある商店街。
そこで俺は食事をするために入る店を選ぼうとしている。
「店は色々な種類があるんだ。下町の定食屋みたいな店もあればオシャレなカフェもある。一見さんお断りという感じの気取った店もあるし、見るからに豪奢な貴族御用達の店もある。寂れた裏路地には汚れた看板が辛うじて読めるようなボロボロの店もあるんだ。でも、メニューはわからない。何を売っている店かわからない。だけど君は入る店を決めなければならない。さて、君はどの店に入る?」
どの店かを内容もわからずに選べと言うなら外から見た情報、雰囲気だけを頼りにするしかない。
俺はあまり豪華な食事に興味はないし、マナーだ何だはパーティーの時だけで十分だ。
普段の生活はそういう事を気にせずにいたい気持ちがある。
「そうだな、まぁあまり片肘張ったような店は好きじゃないからな。定食屋かカフェかという所か」
「何故?路地裏の店だって美味しいかもしれないだろ?」
「メニューがわからないとなると流石にな。良い評判の店ならばそこでも良いのだろうが路地裏でボロボロとなると何の情報も無しではな……」
「そうだね。つまりはそういうことさ」
その言葉に俺は首を傾げる。
「君は今メニューがわからずに店を選んだ時に外観で選んだだろう。女の子も同じこと。メニュー……要は性格や気性、人となりがわからないならわかりやすい要素で決めるしか無いでしょ?そして、一番わかり易いのは外見って事」
「う~む……」
「君は路地裏の寂れた店は選ばなかった。もしかしたら評判の良い凄い美味しい料理を出す店かもしれない。メニューや評判を知っていれば路地裏の店を選んでいたかもしれない。でも、それがわからないなら選ばないだろ」
「それはそうだが……」
「外見っていうのはとても重要さ。人を中身で判断してはいけないという言葉はあるけど、それは深く知り合った人だけが言える言葉だよ。最初から中身を見て欲しいというのは少し傲慢だと僕は思うね」
コータがいうことは正しい気がする。
確かに俺は路地裏の店に入ろうとしなかった。
出している料理の内容がわからないのに俺はボロボロの路地裏の店を忌避した。
外見で優劣を付けたのだ。
「勿論、外見が全てじゃないさ。だけど外見を完全に度外視して良いかというとそれは違うって事さ」
それは普通の事だから何も失礼では無いとコータは言う。
心の底では認めたくはないが、そういうものなのかもしれない。
そう思うのには何となくだが理由がある。
「しかし……今気がついたが、お前の説明の仕方はどこかリフィルに似ているな……」
「ラインズのお嬢さんに?」
「うむ。彼女は最近では“図書室の魔女”と呼ばれて皆からの色々な相談を解決しているんだが、その姿を思い出してしまった」
コータがリフィルに似ているというか理屈っぽい人は説明する時にこういう話し方になるのだろう。
俺は自他ともに認める直感型だからか、こういう話法をされると納得してしまうのかもしれない。
「魔女とか呼ばれるとか何したんだよ……?やっぱ恐ろしい女なのか?」
「中々女の子は魔女呼ばわりはされないよね」
「怖い面があるのは否定しない。それでも彼女はとても優しいことを俺は知っている。外から見ればわかりづらいだろうがな」
何もリフィルの事をわかっていない二人の言葉に即座に反論をした。
そして、その時に俺は気が付いたのだ。
「なるほど……そうか。そうだな。コータの言う事が実感できたぞ」
「おっ!どうした急に」
「知らなければ外観で判断するしか無いという話だ。容姿とは違うがリフィルについての事はコータの例えに通ずるものがある事に今更気が付いた」
リフィルは魔女と呼ばれたり、他人からすれば悪いイメージを持たれている事がある。
悪い噂を立てられるような人では無いというのに変な噂を流された事もある。
だけど、俺はそんな事は気にならない。
外野がどれだけ騒ごうが一考の価値も無い。
それは俺が彼女を知っているからだ。
しかし、他の人はリフィルの中身を知らない。
外観しかわからない店だ。
路地裏の店を俺が選ばなかったように、多くの人は外から見えるわかりやすい情報だけで彼女のことを判断している。
つまり、リフィルは美味しい料理を出すボロボロの路地裏の店と言う事だ。
「う~む……勿体ない……本当はもっと人気の店になるはずなのに……いや、俺だけが知っている名店という方が良いのか……人気が出たら出たで……しかし勿体ない気も……」
「なにブツブツ言ってんだ?」
自分の悩みもそっちのけで思考に沈み込んだ俺を二人は生暖かい目で見つめるのであった。




