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降りかかる火の粉は噂とともに-7

「ふぅ……疲れました」

「リフィルせんぱいお疲れさまー!」


 嵐が去って一息。

 エクサスさんは周囲に居た後輩達へと事情を説明して解散させるために少しだけ離れた位置で何やら声を張り上げている

 もしかしたら、今回の事をあまり広めないようにと言い含めているのかもしれない。

 彼は女性に対しては基本的に優しく紳士ですからね。

 私としてはそんな慈悲を見せる必要は無いと思いますけど。


 そんなエクサスさんの背中を見つめて私は最後の仕事に取り掛かる。


 キューリー達を撃退したので当面の問題は解決したように思える。

 だけど、それとは別の問題が一つ残っているのだ。

 それはそもそもの話、誰が噂を流したのかという事。

 その真相を究明してこそ、この騒動は終わりを迎える。


 それに深く関係している人物が居る。

 誰かというと、私の横で全てが終わったと安堵しているこの後輩だ。

 

「それはそうとティピカ……エクサスさんが後輩の方と話している間に私に言うことがありますよね?」

「ぎくぅ!え~……っとぉ……そのぉ……な、なんですか~?」


 白々しく演技をして逃げ切ろうとするティピカ。

 だが、あまりにも不自然すぎるその演技にむしろ私は確信する。

 だから私は一言だけ呟いた。

 

「噂」


 数瞬固まったティピカの額を汗が一筋伝う。

 私が気づかないと思っていたのか。

 気づかないで欲しいと願っていたのか。

 今、ティピカの頭の中で目まぐるしく計算が行われているだろう。

 

「……………………すみませんでしたぁ!」


 そうして聡明なティピカの脳は素直に謝るのが最善だと導き出したのだ。


「よろしい。もうこんな事はしないように」


 私は軽く彼女の頭をポカッと叩く。

 それで手打ち。

 私は自分で言うのもなんだが身内に甘いのだ。


「うぅ~こんな事になるとは思わなかったんですぅ。本当にごめんなさいですぅ!」

 

 全ての発端。

 キューリーが私に嫉妬して嫌がらせをしているという噂。

 これを流したのはティピカだ。

 

「元々は“キューリーはエクサスさんに近づく娘に嫌がらせをしている”だったんですぅ。リフィル先輩も被害者の一人くらいだったんですけどぉ……いつの間にか主役の一人になってたんですぅ!」

 

 悪びれもぜずに舌を出すティピカに対して溜息を付く。

 全く困った娘である。


「うぅ~……バレるかなってちょっとだけ思いましたけど、やっぱりリフィル先輩には敵いませんね」

   

 何故、私がティピカが主犯だと判断したか。

 それは噂の中にある“しつこく何度も詰め寄った”という事から推測できたからだ。

 これが想像の中で作られた噂ならば誰にでも可能性があるが事実を元に作られたのであれば容疑者は絞られる。

 何故なら、私が詰め寄られている場所には私とキューリー達しか居なかった。

 あの場面を目撃したのは当事者以外ではティピカだけであり、私は他の誰にもその事を話していないからだ。

 キューリーの一味に裏切り者が居ないと仮定すれば必然、容疑者は一人となる。


「微妙に本当の事を入れるからそうなるのです」

「えへへぇ……でもでもぉ、やっぱり一摘みの真実は重要かなぁって」

 

 話を作る場合は全てを嘘でつくるのではなく、ある程度は真実を混ぜるのが信憑性を高めるコツだと言う。

 キューリーを悪役にする噂を流そうと思った際にゼロから話を作るのではなく、リアリティを補強するために私が実際に体験した出来事をベースにしたのだろう。

 

 私がティピカを疑った要素はそれだけではない。

 時期的な要素もある。

 リフィル・ラインズが事実として詰め寄られ、罵倒された。

 それをティピカが目撃した直後から流れ始めた噂。

 もしもキューリーを憎んでいる他の誰かが想像で流した噂なのであればタイミングが良すぎる。

 

 そして、何よりティピカには有名デザイナーとしての強力なコミュニティがある。

 人から聞いた面白い噂として一人二人に話せば仕込みは完了。

 そうしてティピカが作った噂は急激に広がったのだ。


 こうして広まった噂を耳に入れたキューリーは私が犯人だと判断した。

 あまりにも考えなしであり直情的だったわけだけど、それは当たらずとも遠からずだったわけです。

 犯人は私のすぐ隣に居たのだから。

 

「良いですけどね。私もあのような人にはエクサスさんの隣に立ってほしくありませんでしたから」

「っ!ですよねー!ああいう女っていうか貴族ってほんと嫌いです!」

  

 軽く話を聞いただけでもティピカはキューリーを嫌悪しているのはわかった。

 いや、平民であればあのような考えの人間を好きになる理由は無い。

 だから、この噂も周りに回ってエクサスさんの耳に入る事により万が一にでもキューリーを恋人として選ぶなんて事が無いようにという牽制。

 保険と言って良い程度の意味合いで流した物だろうと想像は付く。


「それでも今後は火に油を注がないように。良いですね?」

「火のないところに煙を立てるな、ではなくてですか?」

「それは当たり前の事です。それに、今回の場合は煙は立っていたでしょう」


 キューリーが私を目の敵にしていたのは間違いなかったわけで、私に火の粉が飛んでくるのは時間の問題ではあったのでしょう。

 相手の頭が予想以上に後先も何も考えていなかったため、こんなにも早く直接乗り込んでくるなんていう状況になってしまった。


 その予想外の事にティピカは責任を感じていたように思います。

 だから、殊更に私を庇い前に出ようとした。

 しかし、私がキューリーを敵と見なした事を感じ取り好機と判断した。

 徹底的に潰す好機だと。

 だけど、私にあまりもヘイトが向きすぎては申し訳が立たない。

 そう思ったので何度もキューリーを煽り敵意を少しでも自分へ向けようとしていたわけです。


(全く、妙な所で律儀なんですから……元々噂を流したのも私に暴言を吐いたキューリーの事を許せなかったんでしょう。そういう所は可愛いのですけどね)

 

 私もティピカもキューリーのような歪な意識を持った貴族に大きな顔をされたくないという事は一致している。

 あのような考えをしている輩は放っておいても衰退していくとは思うが、できる限り早く力を失って欲しい。

 当初考えていた形では無いだろうけどティピカの企みは成功したと言って良いだろう。

 

 そして、それは私にとってもプラスである。

 万が一にもエクサスさんとキューリーが結ばれてしまったらラインズ家とカリニオン家の関係は悪くなるのは必至であったわけで。

 限りなくゼロに近い可能性ではあったが、その可能性を更に極限まで低くできたのはラインズ家である私にとって良い事だろう。

 そう考えれば私もティピカが作った流れに乗ったという意味では同罪なわけだ。


「終わりよければ全て良し。今後は気をつけてくださいね」

「はぁ~い!ほんとにごめんなさーい!」


 軽い口調で謝罪するティピカだが、その内では本当に反省をしている事だろう。

 結果としては満点と言っても良かったので私もこれ以上は言わない事とする。

 それに、もうそろそろエクサスさんが私達が話している窓際へと戻ってくるだろう。

 彼の女性観がこれ以上は歪まないように少しだけ汚い内幕は隠しておくこととしよう。

 そう思った。

 


 後輩達を解散させて、私達の元へと戻ってきたエクサスさんは神妙な顔をしていた。

 今回起こってしまった事が自分のせいだと反省しているのだろう。

 確かにキューリーはエクサスさんに近づくために私に害を成そうとしたと見る事もできる。

 実際は原因の多くはティピカの流した噂とキューリーの歪んだプライドのせいなのでエクサスさんにそこまで責任は無いのだが。

 

「すまなかったリフィル。まさか彼女達があのような人物だったとは。そしてお前に迷惑がかかっていたとは……」

「いえ、こちらこそあなたを利用するような形になってしまいました。申し訳ありません」


 私とエクサスさんはお互いに頭を下げ合う。

 彼は自分が原因で私に迷惑をかけてしまった事を、私は彼を利用した事を謝り合う。

 

 エクサスさんとしてはキューリーが纏わりついてくるだけでそこまで害があるものとは認識していなかった。

 自分が多少拘束されて話を聞かされるくらいなら可愛いものだと。

 基本、彼は人を見る眼はある方だと思うし、神がかった直感がある。

 しかし、女性の本性を見極める眼があるかという……まぁ怪しいと言わざるをえない。

 キューリーに関しても普通の女生徒達の一人だと思っていた事だろう。

 だが、実際は彼に近づく女生徒へ嫌がらせに近い行為を繰り返し、そして私に絡んできた。


「彼女達が見せていた顔はエクサスさんに見せる物と他に見せる物では大きく違っていたようですから気づけなかったのでしょう。エクサスさんは彼女達にあまり興味も無かったようですし」

「そう言ってくれるか……」

「とは言え、これに懲りてあまり多くの女性に良い顔をしないようにしたほうが良いとは思いますけど」


 私とエクサスさんとしてはお互いに謝罪をしあった訳で、これでこの話を終わりにしても良いのだがそれでは収まらない人物が居た。


「リフィル先輩の言う通りです!エクサス先輩が無駄に優しいからこうなるんですからね!あんまり曖昧な態度を取るのは~メッですよ!」


 自分の事を棚に上げてエクサスさんに指を突きつけるティピカである。

 この娘は私が先程まで話していた内容をエクサスさんには隠すと決めたのを正しく理解していた。

 そうなれば殊勝な態度で居る必要など無いのだ。

 私はそんな彼女を困った顔で見つめる。

 全く切り替えの速さに舌を巻いてしまいます。


「ティピカ嬢にも迷惑をかけた、重ねて申し訳ない……」

 

 そんなティピカにもエクサスさんは申し訳なさそうだ。 

 やはり、騒動の原因が自分にあると思っているのだろう。

 大きな体を小さく畳んで頭を下げる。

 確かにエクサスさんが最初からキューリーを切り捨てればこうはならなかっただろうが、そうは行かないだろう。

 彼にとってはキューリーは多数の慕ってくれる女性の内の一人だっただけだ。

 特別ではない多数の中の一人。

 だから、そこまで気にかける事はなかった。

 興味が無かったと言っても良い。

 キューリーの裏の顔が思っていた以上に醜悪だったというだけだ。


「この件に関してはエクサスさんは悪くはありません」

「リフィル……」

「強いて言うなら悪かったのは彼女の歪みきった価値観ですね」


 悪いのは全部キューリーである。

 そういう事にしておく。

 それが一番私にとって都合が良いから。

 

 私はキューリーが言うように卑怯者だ。

 彼女の汚名をそそごうと思えば可能だけどそれはしない。

 ティピカが流した噂が根本の原因であるがそれは言わない。

 何故なら私は聖女ではなく魔女だからだ。

 

「エクサスさんを担ぎ出したのも私の一存です。あなたは私に利用されただけ。ですから、これ以上気にする必要はありませんよ」

 

 私が売られた喧嘩を買っただけ。

 言ってみればそれだけだ。

 相手が殴ってきたのだから反撃をしただけ。

 しかし、殴り方が少々特殊であっただろう自覚はある。

 使える物は何でも使う。

 それが私の戦い方だから仕方ないのだ。

 直接口論したところで話し合う気が無い相手には無駄にしかならないのだから。


 そう思い話を切り上げようとしたがティピカにはまだ言いたい事があるようだった。


「いえ!これはやはりよくありません!リフィル先輩が甘やかすなら私から言わせてもらいます!」

「ティピカ?」

「エクサス先輩がある程度の好みのタイプとか、こういう人が良いとか言わないとダメなんです!な~んも言わないから勘違いする女が出てくるんですからね!」

 

 うっと呻くエクサスさん。

 しかし、これはティピカの言い分も正しい。

 彼はどうにも女性の好みがはっきりしないというか曖昧というか、聞かれてもはぐらかしている事が多いらしい。

 そうなると女性側も脈があるのかどうかという線引が難しいのだろう。

 それこそ、平民を見下すような女は嫌いだと最初から名言していればキューリーもあそこまで熱を上げなかったかもしれない。

 彼女は平民である私と婚約を解消したエクサスさんを勝手に同類だと認識していた節もあるからだ。


「そうは言われてもな……どんなタイプとか言われても、あまりそういう事を考えた事は……」


 チラチラとこちらを見ながら呟くエクサスさん。

 その気持はわかる。

 長い間、婚約者に縛られていたためにどのような異性が良いのかよくわからないのだ。

 急に自由になると何をして良いかわからなくなるという話があるが、そういう事だろう。

 私も同じことを考える事がある。

 だが、それを言葉にすれば遠回しに私のせいだと言っている事になるので口籠ってしまうのだろう。


「そこで提案です!」


 いつの間にかエクサスさんの横へと移動していたティピカが彼へとしなだれかかりながらこう言うのだ。

 

「可愛くてぇ~素直でぇ~優しくてぇ~ちょっとデザインが得意な後輩の女の子が今超絶フリーなんですけどぉ~~~~!そんな優良物件がここに居たりしちゃったりなんかしてぇ~!これはチャンスですよ!逃す手はないのでは!」


 それを聞いたエクサスさんの表情は何と言ったら良いのだろうか。

 苦虫を噛み潰しながらもそれを悟らせては失礼だという思い。

 そして目の前の少女への名称し難い恐れや畏敬の念がおり混ざった顔。

 ティピカには悪いがそんな顔になるのも仕方ないだろう。


 何も知らない時であればだらしなく鼻の下を伸ばしていたかもしれないが彼はティピカの本質を知ってしまっている。

 エクサスさんからすればティピカはよくわからない女性を体現していると言って良いのだろうから。

 

「えぇ……と……その……ティピカ嬢は俺の手には余るというか何というか……む、無理です、ごめんなさい」


 いきなりティピカは難易度が高いだろう。

 表も裏も使いこなすバリバリの女性だ。

 下手をすれば尻に敷かれるどころか完全な操り人形にされてしまいそうだ。

 純真なエクサスさんには少々刺激が強いかもしれない……が、もしも慣れていけば案外ありなのかもしれないけど。


「なんですか手に余るって!なんではっきり断るんですか!しかも口調まで違うし!優柔不断な優しさはどこへ!?」

 

 怒りに任せて彼の胸を叩く可愛い後輩とその怒りを受けてあたふたしている彼の姿を私は笑いながら見守るのであった。

普通、親しい人の言う事を信用するよねという話


こういう話の場合、主人公が悪くも無いのに嫌な噂を流されるという事が多いと思ったので

噂を流す主人公側と悪い噂を流されて当然の敵役にしようと思いました。


もう少し早く投稿したいと思ったんですけど、暑くてだめですね。

誤字脱字報告してくれた方、非常に助かりました。

頭が茹でって仕方がないのでまだ変な所が多々あるかもしれません。


このような作品の更新を待ってくれていた方、新しくブクマしてくれた方、評価してくれた方、いいねをしてくれた方、そして読んでくれた全ての皆さん、ありがとうございます。

次はもう少し早く投稿したいと思いますので気長にお待ちいただければ嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 今回もとても面白かったです。 [一言] エクサスとリフィルはこのまま親しいお友達ポジションのままなんでしょうか?
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