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何かを選ぶという事は-7

 この問はリバイス・テクスジェアが答えを出さなければならない。

 そう言われた俺はラインズの屋敷を出てエクサス君とも別れトボトボと歩きながら自身の家へと歩を進める。

 その間、考えるのはリフィル嬢に言われた言葉だ。

 考えるのはあまり得意ではない頭を叩き必死に考えた。


 確かに冒険をする事は俺は好きだった。

 最初は一旗揚げるために選んだだけの職業だったはずだけど、それはいつしか俺の夢となっていった。

 未知に挑むとワクワクする。

 危険を乗り越えたときの達成感は格別だ。

 成果を持ち帰り皆が俺を称えてくれる様は気持ちが良い。

 はっきり言って天職だと思っている。

 

 だけど、そもそも一旗揚げようと思い、冒険者を目指した切欠はアリシアだ。

 男爵家の三男ではかなり大きい商家の一人娘であるアリシアとは釣り合わなかった。

 勿論、婿入りでもする選択もあったし、別の道で男を上げる方法もあったかもしれない。

 単純に俺が選んだのが冒険者という博打だっただけ。


 でも、それをアリシアは最大限フォローしてくれた。

 駆け出しの冒険者である俺を支援するために彼女の実家を説得してくれたり、煩雑な雑務を引き受けてくれたり。

 俺が成功したのは決して俺だけの力じゃない。

 彼女の献身的なサポートがあったからこそなんだ。

 だからこそ、俺の成功を彼女は喜んでくれていると思っていた。


 いつしか自分の生活そのものとなっていた冒険者としての夢。

 昔から抱えていたアリシアとの幸せな生活という夢。

 そのどちらかを俺はこれから選ばなければならない。   


 俺は悩んだ。

 どこまで冒険を続けるのか。

 そんな事、今まで考えた事もなかった事を必死に考えた。

 家に戻った後も考え続けた。

 

 そうして俺は今、アリシアの部屋の前に立っている。

 俺が出した結論をアリシアに聞いてもらわなければならないからだ。

 

 俺は閉ざされたドアの前に立ちノックをする

 中で微かに彼女が動く気配がした。

 アリシアが扉の前に居るのがわかる。


「聞いてくれアリシア……俺は……冒険者を辞めるよ……これからは君の隣に居る」


 冒険者を引退すると心に決めた。

 その結論を扉越しに彼女へぶつける。

 俺が彼女を想う心が少しでも伝わるようにと。

 俺が一番大切な物は君なんだという事が伝わるようにと。


「すまない。いつからか俺は夢を追うばかりで君のことを見ようとしていなかった。君は俺の冒険を応援してくれているとばかり思っていた。君の気持ちに気づく事ができなかった」


 扉越しに彼女へ伝える。

 リフィル嬢が言うように、アリシアにも悪い所はあるのだろう。

 もっと前に言ってくれれば俺だって色々と考えたし、二人で答えを探す事だってできた。

 何で早く言ってくれなかったんだという気持ちが無いわけじゃない。

 それでも、考えに考えて明確になったのは俺はアリシアの事を失いたくないという気持ちだ。

 それがわかってしまえば多少の理不尽を呑み込むなんていう事は何の問題でもない。

 俺が謝る事で彼女が隣に居てくれるのであれば、それで良いと素直に思えた。


「だから……顔を見せて欲しいんだ。抱きしめさせて欲しいんだ。君の事が好きだから……愛しているから」

  

 彼女の隣に居る事を選ぶ。

 それこそが彼女の問いに対する答えだと信じて結論を出した。


 果たしてこれが正解だったのか。

 その答えは頑なに開かれなかった扉が静かに動いた事で察する事ができた。

 俺の前に彼女が姿を見せてくれたのだ。

 

 数日ぶりに見た彼女の姿に俺は安堵する。

 今までも長期の遠征で彼女を見れない事は何度もあった。

 長い時は一月以上は家を空ける場合もあったのだ。

 たかが数日ぶりの姿なんていうのは大したことは無いはずだというのに、彼女を見ただけで涙が溢れそうになる。

 

「子供の頃に古い本を読んだの。そこには色々な伝説や神話、おとぎ話が載っていたわ。大地を割る勇者の話、空を自由に飛ぶ天馬に乗る騎士の話、色々な話があったわ。あなたはきっと、そうなりたいと思ったのよね」


 静かに語る彼女の目には涙が浮かんでいた。

 微かに震える体。

 不安に押しつぶされそうになりながら、この小さな体で耐えていたのかと今更ながらに思い知る。

 

「でも、私はそんな人が好きなんじゃないの。探しているのはそんな人じゃないの。勇者や英雄なんて好きじゃないの。ただ、隣に居て支えてくれる人が、抱きしめて笑い合える人が、居なくなったら寂しくなる人が良いの」

  

 その言葉を最後に彼女は俺に抱きつき泣き崩れた。

 彼女の体温を感じながらこれが正解なんだと俺は確信した。


 冒険者を続けながら彼女と結婚をするという両取りの選択も俺にはあったのだと思う。

 だけど、それを選ぶ事で彼女が離れてしまう可能性が少しでも高くなってしまうならば俺は安全策を取る。

 一流の冒険者というのは無謀な冒険をして成功した者の事ではない。

 明確な目的を定め、安全を確保し、確実に達成する者こそが一流。

 だから、俺は一番の宝物であるアリシアを手にするために一番手堅い選択をする。

 俺は一流の冒険者……だったのだから。


 冒険者としての俺はこれで終わる。

 きっとそれで良い。

 これからは俺は彼女の隣でお互いに支え合う。

 最後の冒険で手に入れた宝に口づけをしながら俺はそう誓ったのだった。

 

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