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お出掛け-5

 昼食が終わり、私達は道具屋へと足を運んでいた。

 当初は武器や鎧などを見るのかと思ったのだがエクサス先輩曰く、そういう物以外こそが重要なのだそうだ。


「この店は良いぞ。値段もお買い得なのは当然だが何よりも品質が良い」

「エクサス先輩御用達って聞くと、なんか高級店を想像してましたけどそんな感じじゃないんですね」


 そこは戦闘関係の諸々を取り扱っている道具屋というか雑貨屋のような店だった。

 言葉は悪いが古ぼけているように見える外観からは大貴族が贔屓にするような店には見えない。

 しかし、コストと実用性を両立させる良店舗らしい。


 キョロキョロと辺りを見回しながら店内に入るとそこには今まで見た事が無かった世界が広がっていた。

 使い古されたように見える鎧や剣がサンプルとして並んでいる。

 棚には各種いろいろな素材が並ぶ。

 床に置かれた箱の中には無造作に色々な商品が詰め込まれている。

 中にいる他のお客も学生ではなく本職の兵士、または冒険者達が多いように見えた。


「あまり詳しくは無かったのですが自分で揃えるのですね。てっきり学園から支給品があると思っていました」

「支給される物もある。装備一式は勿論、特に用意しなくとも最低限の物は用意される。だから鎧だ武器だなんていうのは支給品を使えば良い。気を使うならばそれ以外だ」


 物珍しそうに店内を見渡すリフィル先輩。

 学園は共通科目以外は専攻が違うと履修内容はガラリと変わる。

 私とリフィル先輩は軍専攻ではない。

 その私達からすると装備などを自分で揃えるというのは少し大変そうだと感じた。


「鎧の下に着る肌着や生命線である水筒、それらを携帯するためのポーチ、あとは多目的に使われる小さめのナイフなどは自分で用意したほうが良い。野営用の諸々もだな。それと靴は足にあった物を選ぶべきだ、かなりの距離を歩くからな」

「あ~そうなんですね。てっきり鎧とかを用意するのかなと思ってました」


 エクサス先輩が棚の皮袋を手にして品質を確かめている姿を見てイルドが意外そうに口にする。

 

「いやいや、あなたの専攻科目の事なのに何で意外そうなのよ」

「だって、装備って言ったら武器とかだと思わね?」


 イルドの言う事はわかる。

 てっきり私もそう思ったから最初に提案したのは所謂、武器屋だったのだ。

 だが、エクサス先輩が連れてきたのは雑貨屋だった。


「本来、鎧などの装備は統一するべきだからな。“自分で用意しても良い”というのはあまり良い慣習では無いのだが貴族が見栄を張るために決めたルールが今も残っているのだ」

「見栄ですか」

「うむ。支給品だと全員が同じになるだろう。それは重要な事であり当然の事だが中には平民と同じ物を使うなど嫌だと喚く者が居るのだ。そして、その声は昔はとても大きかったらしい。その名残だな」


 近年の貴族は平民を見下す事こそ恥ずかしいという風潮が広まってきており、酷い差別などは見かけなくなって来ている。

 れっきとした差はあるが、だからこそ貴族は寛大で公平であるべきだという考え方だ。

 区別はしても差別はしない。

 ルールを捻じ曲げてまで平民と差をつける為に我を通す様は今の時代であればみっともないと言われてもおかしくない。


 しかし、昔は違う。

 貴族にとっては平民なんていうのは奴隷の同義語という時代もあった。

 その時代の名残なのだとエクサス先輩は語る。 


「自分で装備を揃えるとなれば実家の力が使えるだろう。そこで無駄に主張するのさ。家の力をな」


 憮然とした表情で語るエクサス先輩。

 彼は大貴族でありながら選民的な意識はほとんど見られない。

 家柄を見れば遥かに格下のイルドを可愛がってくれているし、ほぼ初対面の私への態度もとても丁寧だ。

 誰にでも別け隔てなく接し、偉ぶる事も無い好漢。

 それは学園でも人気が出るわけだと納得してしまう。

 そんな彼からすれば見栄を張るための行為というのは褒められたものでは無いのだろう。


「だが、それを逆手に取る先生もいてな。どれだけ安く品質の良い装備を揃えてきたかを採点するのだ。無駄に高価な装備を持ってきた生徒は見栄を張ろうとして逆に恥をかく。俺の時にも三人ほど恥をかかされていたのが居たな」

「はぁ……それは優秀なのか意地悪なだけなのかわからない方ですね」

「ハハハッ!よく知っている俺からしても優秀であり意地が悪い先生だ!考え方としてはリフィルと近いのかもしれんな」

「ほう……私は意地が悪いと?」

「ち、違う!そうではなく優秀な所とか頼りになる所とか!」

「あ~確かに意地悪いっすね」


 軽口を叩きながら商品を見ていく。

 そのうちにエクサス先輩とイルドは真面目に装備ついての話へと移っていった。

 どのような所が重要なのか、見るべきポイントはどこなのか。

 次に一人で買い物に来た時にも多少は目利きができるようにとエクサス先輩が教えてあげてくれているようだった。


 私とリフィル先輩はそれを一歩引いた位置から見守っていた。

 はっきり言ってその場で考えついただけの提案だったが悪くなかった。

 見ているのが行軍試験のための無骨な商品群だという事を考えても楽しいショッピングの時間だ。

 そして、エクサス先輩が何やら専門的なアドバイスをイルドに送っている姿も良い。

 これはリフィル先輩からしても好印象な場面ではないか。

 そう思い横を見てみる。


(普段は訓練の時しか見せないというエクサス先輩の真面目な顔……これにはリフィル先輩もウットリ……って全く見てないじゃない!)


 今まで踏み込んだ事が無かった世界である軍用品達はまるで違う世界のアイテムのように見えたのだろう。

 それらはリフィル先輩の知的好奇心を擽ってしまったようであった。

 いつの間にかリフィル先輩は店主と話し込んでいたのだ。

 気になった物があったので一体どのような用途の物なのかを知りたくなったらしい。


(あぁもう!そういうのをエクサス先輩に聞けば良いのに!なんでそうならないのよ!)


 リフィル先輩としては真面目に装備を選んでいる二人の邪魔をしてはいけないと考えたのだろう。

 もしくは商品の事は店主に聞くのが一番良いと考えたのかもしれない。

 いや、多分そうなのだろう。


 “エクサス先輩に聞けば良いじゃないですか”と私が提案しても。

 “専門家に聞くのが一番良いですよね?”とか普通に言いそうだ。


 その情景が目に浮かぶ。 

 どちらにせよ、私の思惑の斜め上を行く先輩であった。



 その後も私達はいろいろな所に足を運んだ。

 私がほぼ無理矢理連れ込んだ服飾店でちょっとした髪飾りなどを見立ててもらったり。

 完全に私の思い込みだけど、ファッション関係には疎いと思っていたエクサス先輩が積極的に色々な意見を言ってくれたり。

 碌な意見を言えないイルドに溜息をつこうとしたら、リフィル先輩が碌な意見を言えない側に居て申し訳なさそうにしてたり。

 大聖堂によってお祈りをしたり。

 広場でゆったりとした時間を過ごしたり。

 そして、元々の予定であったリフィル先輩へのお礼の品を買ったりと色々な事があった。


「中々に良い時間になってしまったな。そろそろ解散をするか」

「はい。今日は貴重な体験ばかりでした。ありがとうございます。このペンもしっかりと使わせてもらおうと思います」


 リフィル先輩の手には先程、お店で選んで買った金属ペンが包装されて握られていた。

 店に入り、目的の商品群へと直行し、少しだけ他と見比べ、そして即決会計買い物終了。

 その姿を見て私は本当に胸を撫で下ろした。

 もしも、当初の予定通りにしていたら三十分どころか十分で今日は終わっていただろう。

 

「こちらこそ、今日は本当に楽しかったです。また機会があればこの四人でどこかへ行きたいですね」

「ふふっ、そのためにもイルドさんが私に対して緊張しなくなってくれると嬉しいのですけど」


 ギクッとした顔で表情を引きつらせるイルド。

 この子はどうにもリフィル先輩への苦手意識というか畏怖の感情が抜けていない。

 特に怖い先輩では無いというのに、第一印象が残りすぎてるのだろうなと思う。

 私はリフィル先輩ともっと仲良くなりたいのだから、そんな私の婚約者であるイルドには慣れて貰わないと困る。

 まぁ気長にやっていこう。

 時間が解決する気もするし。


「それでは私達は失礼させていただきます。今日は本当にありがとうございました」

「先輩方!楽しかったっす!また明日!」


 丁寧に挨拶をする私。

 元気に挨拶をするイルド。

 そんな二人を見て先輩方も挨拶を返してくれる。


「今日は有意義な一日でした。レイラーニさん、また私に色々と教えて下さいね」

「付き合ってもらって助かったぞ!礼を言う!帰り道に気をつけてな!イルド、しっかりレイラーニ嬢をお送りしろよ」


 静静と礼を述べるリフィル先輩。

 尊大な態度の中に優しさが光るエクサス先輩。

 当然だがリフィル先輩の事はエクサス先輩が責任を持って送り届けてくれる。

 本当はそこまで見届けたい気持ちはあるが、それは流石にしないでおこう。

 日は傾き始めれば一瞬だ。

 流石に家路につくまで見守っていたら完全に暗くなってしまうだろう。


 尊敬する二人を背中に私とイルドは帰路につく。

 二人きりになれば自然と手をつなぎ身を寄せ合う。

 とても幸せな時間。

 それを是非ともあの二人にも体験して欲しい。

 そんな事を思いながら。


「楽しかったわね。先輩方の学園では見れない姿をいっぱい見れたし」

「あぁそうだな。俺なんてついでに装備も見てもらったりして助かった」


 今日の感想を色々と話しながら歩く。

 そして私は今までずっと気になっていて、何度もイルドに聞いたこともあり、その度に帰ってくる答えが同じ問を投げかけるのだ。


「ねぇ……なんであのお二人、婚約解消なんてしたの?」

「わかんねぇって、今日でもっとわかんなくなったわ」


 太陽が傾いていく。

 今日という日が終わってゆく。

 思い返せば笑ってばかりだった一日が終わる。

 尊敬する先輩方の事をまた一つ知り、そしてまた一つ謎が深まった一日。

 日常の中で輝く特別な日になった事だけは確かだった。

なーんも考えずに書いた話でした。


評価してくれた方、ブックマークしてくれた方、いいねをしてくれた方、そして読んでくれた皆さん、ありがとうございます。

初めて連載作品でブクマが100を越えました、正直嬉しいです。

この嬉しさを力にしてもっと更新頻度を上げれれば良いのですが、キリの良いところまで書けてから投稿をしますので不定期更新です。

もしも、楽しかったなと思ってもらえたのであれば気長に待っていただけると嬉しいです。

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