お出かけ-1
私はレイラーニ・グレープ。
どこにでも居る中堅貴族の娘だ。
良くも悪くも普通だと自覚している。
私には幼い頃から婚約者が居る。
意地っ張りで頑張り屋な男の子。
小さな体で必死に訓練をする彼の姿をずっと見ていた。
何度転ばされても立ち上がる彼を支えようと思った。
私達は二人三脚でやってきていたはずだった。
擦れ違いなんて無いって思ってた。
自分では問題無いと思っていた婚約者との関係だったけど、そう思っていたのは私の方だけみたいだった。
ある日、私はその子から衝撃的な告白をされた。
泣きじゃくりながら聞かされた内容を要約すると
『私に見下されているように感じて婚約破棄をしようと考えたら、ある人にボロクソに言われて思いとどまった』
というものであった。
いつ私が見下したというの?
なんなのそれは?
意味がわからない。
という話だが、私は冷静に最近の事柄を振り返ってみた。
確かに妙に距離を置かれていた気がするし、この子も男の子なのだから私の配慮が足りなかった事も確かなんだろう。
そして何よりも目の前で泣きながらまだ行ってもいない罪を告白している彼を嫌いになる事はできなかった。
そうして私、レイラーニ・グレープとその婚約者であるイルド・ワシンはお互いの想いを再認識したのであった。
それからの私達は今まで以上にお互いの事を気にかけ、できる限り一緒に過ごすようにしている。
それはとても幸せな日々。
苦難が私達の絆を強くしたのだ。
本当は苦難が訪れる前に処理されたのだけど。
「レイラーニ。ちょっと相談があるんだけど次の休みのデートさ、ちょっと予定変更したいんだ」
「どうしたの急に?」
その日、私は婚約者であるイルドと昼食を取っていた。
それはいつもの如く次の休みの予定を立てようとしていた時だった。
普段どおりであれば二人で街をぶらつく予定のはずであった。
特に目的も無く本当にブラブラするだけなのだが、それがまた楽しいのだ。
それが無くなるというのは残念ではあるがしっかりとした理由があれば仕方が無い事。
だから私はその理由を話すように促したわけだが、そこで聞かされたのは衝撃の事実であった。
「実は……エクサス先輩とリフィル先輩がデートをするっ……」
「なんですって……」
「まぁデートっていうか、普段のお礼に何かプレゼントしたいから買い物に行くっていう話みたいなんだけどさ」
その言葉に戦慄が走る。
私の身に降り注ぎかけたが知らぬ間に解決をしていたドラマの立役者は二人いた。
一人はエクサス・カリニオン先輩。
彼はイルドをとても可愛がってくれている方であり、彼を最初に止めようとしてくれた人。
そして、もう一人はリフィル・ラインズ先輩。
この人は面と向かってイルドを言葉でボコボコに叩き潰して無茶な計画を止めてくれた人。
詳しく聞くとイルドの顔が引きつり青ざめるので詳細は私は聞かされていなかったりする。
学園では“図書室の魔女”なんていうあだ名で呼ばれる女性。
そんな二人は間違いなく私達の恩人である。
その二人が買い物に出かけるのだという。
どんなお題目を掲げようとも年頃の男女が一緒に買い物に行けばそれはデートだ。
普通であれば何の問題もない。
むしろ喜ばしい。
だが、あのお二人の場合は問題はないのだが心配はあるのだ。
「わかってる。あの二人だけでデートとか絶対心配だろ。エクサス先輩って世間知らずなとこあるし」
「そうね……何というかリフィル先輩も基本的には頼りになるのに妙なところでズレてるとこもあるから……」
あの騒動から私はリフィル先輩と親しくさせてもらっていた。
時折、食事を一緒に取ったり、図書室に遊びに行かせてもらったり。
人の相談を受けている場面に遭遇した事も何度かあった。
その度に「あぁイルドはこんな感じでやり込められたのね」と思ったりしたものだった。
イルドは元々エクサス先輩にとても可愛がってもらっていた。
今では更に尊敬の念は募り、そのうち崇拝してしまわないかと思っているほどだ。
そのように私は特にリフィル先輩に、イルドはエクサス先輩にお世話になっている。
私達二人の恩人なの。
二人は婚約者同士だったのに何故か最近になって婚約を解消したのだという。
そのため今更ながらに距離を測りかねている部分を感じ取れていた。
仲が良いのは間違いが無いのだが、どこまで踏み込むべきかをお互いが遠慮しているというか測りかねているというか何というか。
見ていて心配になったりもどかしくなったりと周囲の人間がヤキモキするような状態なのだ。
「だから先輩に“大丈夫ですか?”って聞いたんだ。そしたら“大丈夫ではないからお前も付いてこい”って言われて……」
口があんぐりと開いてしまう。
どこの世界にデートに後輩の男を連れていく奴がいるというのか。
大丈夫ではないとわかっている辺り、正しく自己分析ができているのは評価できる。
そんな風に無理矢理に好意的にとってみはするが一般的な対応でないことだけは間違いがない。
さすがは学園一の貴公子だ。
いや、別に貴公子である事は関係ないか。
「だから、ここはレイラーニにも来てもらって四人でどうですか?って提案したんだ」
「あぁ~なるほど、それで次の休日の予定の変更なわけね」
そのイルドの提案は素晴らしいものだった。
百点満点を上げても良い。
彼が言ったようにはっきり言ってあの先輩方二人だけというのは心配になってしまう。
色々と頭の中に懸念が浮かぶのだ。
私とイルドが居ればそれらの不安要素を排除する事ができるかもしれない。
そして、私としても尊敬する先輩方と一緒に遊べるというのは魅力的な提案だ。
「わかったわ!次の休みは私とイルド、そして先輩方の四人でダブルデートね!」
そうして私の何の変哲もない幸せな日になるであろう休日は少し特別な幸せな日に変わるのであった。




