運命はその手の中に-5
「さぁ、どちらだった?」
「?」
エクサス先輩が手を開くこと無く私に問いかける。
その言葉に皆が首を傾げた。
何故なら先輩は手を開いていない。
コイントスの結果を見ない事にはどちらも何も無い。
私の運命は未だエクサス先輩の手の中だ。
「……その……手をどけて貰わないとわからないですけど……」
結果を見る事が怖い。
だけど、見なければ何も始まらない事もわかっている。
不安に押しつぶされそうになりながらも手をどけて貰うように言った私に対してエクサス先輩がニヤリと笑う。
その不敵で自信満ちた笑みはまさしく貴公子と言って良い魅力的な笑み。
数多の女子を虜にする貴公子が私に再度問いかける。
「違う。わかっているはずだ。この手をどける必要など無い」
「どういう事ですか……?」
「どちらだったのだ?このコインが宙を舞う間、お前は表と裏。どちらが出て欲しいと願ったのだ?」
その言葉に私は息を呑む。
コインが宙を舞っていたあの瞬間、私は一体何を思ってコインを見つめていたのか。
表が出た時の事。
裏が出た時の事。
あらゆる想像が脳裏を駆け抜けたあの数瞬。
私は……私は……
「お……表……だったと思います。表が出て欲しいと……」
「本当か?」
「はい……そうです、私は表が出て欲しかった。あの子と付き合いたいと思った。恋人になりたいと思った!もしも裏が出たら幼馴染が続くんじゃなくて“恋人になれない”って思った!思いました!」
最初は朧気だった気持ちが徐々に固まっていく。
あのコインを見つめていた時の事を思い出せば思い出すほどに想いが明確になっていく。
そうだ。
私は願った。
表が出て欲しいと。
恋人になりたいと。
あの子とこれからも仲良く、これまで以上に仲睦まじく暮らしていきたいと強く強く願った。
その気持ちは本当に強くて、その瞬間には未来への不安も何もかもを吹き飛ばす想いだった。
エクサス先輩が満足そうに頷く。
「自分の気持ちがわかれば、どうすれば良いかもわかるな?」
もう答えは出ていた。
あれだけ考えて悩んで苦しんで、それでも出なかった答えはいつの間にか私の手の中にあった。
気づいていなかっただけだった。
選ぶ勇気がなかっただけだった。
だけど、もう私は理解していた。
そして何よりも既に心の中で決断をする事ができていた。
「はいっ!はい!私、あの子と恋人になります!弟みたいに思ってたけど!未来が少しだけ怖いけど!恋人になってきます!」
「よし!行け!今のお前はとても良い顔をしているぞ!その顔を見せに行って来い!」
私は先輩の力強い言葉に背中を押される。
自分の顔がニヤけて行くのがわかる。
はっきりと自覚した。
私はあの子の事が男の子としても好きなんだと。
いつも隣に居た小さな男の子。
呆れた顔で私に軽口を叩く生意気な男の子。
私に起こされて寝ぼけ眼でこちらを見つめてくる男の子。
改めて思い返して見ればその全てが愛おしい。
その感覚がとてもこそばゆく、そしてとても尊い物だと感じていた。
きっとあの子は私よりも少しだけ先にこの気持を自覚していたんだ。
それなのに私が答えを出すのを待ってくれた。
私と同じく悩んで苦しんだだろうに急がせる事も無く、今も不安になりながら待ってくれている。
「先輩方!グレース!ありがとうございました!私……行ってきます!」
居ても立っても居られなかった。
かつて無い速さで足が動く。
あの子の元へ。
新しい一歩を一緒に踏み出すために。




