あなたの言葉に心はあるか-4
「ベルーナさん。話を聞く限りではあなたはセラムさんが買い物に付き合ってくれた娘にプレゼントを上げたのが特に引っかかってるように思えます」
私は問題解決に向けて話を進める事にした。
そのためにはまず彼女を攻めるのが得策だ。
セラムさんは比較的冷静だが、ベルーナさんはそうではない。
彼女をどうにかしなければこの問題は解決しない。
「それはそうね。彼女でも無い女にアクセサリーのプレゼントとか……怪しんでも仕方なくない?」
「そうですか」
不満げに語る彼女。
自分を差し置いてアクセサリーを贈られている姿を見てしまい冷静では居られなかったのだろう。
だが、これは普通に考えればそこまで不自然な話ではないのだ。
彼は何も考えずにお礼の品を贈っただけなのだから。
勿論、装飾品を選んだというのが悪いのは間違いがないが。
私は机の上に置いてあった本を持ち、挟んでいた栞を取り出す。
それは控え目ではあるが品のある装飾された美しい栞。
隣に立つ彼が以前に贈ってくれたプレゼントだ。
「これは私のお気入りの栞なのですが、これはエクサスさんが贈ってくれたものです。特に恋人でも無い私にエクサスさんは何故これを贈ってくれたのでしたか?あなたは下心があってこれを贈ってくれたのでしょうか?」
「しっしたごころ!?何を言っているんだ……それは世話になった礼にだな……その時は本当にそれだけで……」
「そうですね。これはエクサスさんが感謝の気持として贈ってくれた物です」
唐突に始まった私の栞自慢に先程まで主題であった二人は訝しむ顔をする。
一体何が始まったかがわからないのだろう。
「イルドさん。以前に頂いた菓子折りはとても美味しくいただかせてもらいました。ありがとうございます」
「はぁ……それはその……良かったです」
「あの菓子折りは私に下心があって贈ってきた物なのですか?これを機会に私とどうにかなろうと思ったと。あんなに綺麗で優しい婚約者が居るというのに」
「なっ!そんな恐ろしい事言わんでください!せっ先輩もそんな目で見ないでください!拳を握らないで!」
私の言葉に恐れおののくイルドさん。
話を振っておいて何だが恐ろしい事という言い草は少々心外である。
大体、あの時はイルドさんの婚約者の方と二人で菓子折りを持ってきたのだから、そんな気持ちが無い事くらいは私だってわかっているというのに。
「では、セラムさん。あなたは下心があってその女の子にアクセサリーを贈ったのですか?」
「違います!俺は単純に買い物に付き合ってくれたお礼に、アドバイスをしてくれたお礼にあげただけです!そりゃアクセは不味かったかもしれないですけど、単純に店に居たから買ってあげただけなんです!考え無しだったのは認めます!でも、本当にそれだけなんです!」
彼の言う事は恐らく真実だ。
考え無しだったのは間違いが無い。
誤解を生む原因になった事は自覚もしている。
だけど、本当に下心など無かったのだと思う。
別に女性に贈り物をする事が全て下心があっての事ではない。
迂闊ではあったかもしれないが本当に気軽に目の前に並んでいた商品をお礼として一つ買ってあげただけなのだろう。
「さて、これを聞いてベルーナさんはどう思いましたか?まだ彼は下心があり浮気をするためにプレゼントを贈ったと思っているのですか?確かにアクセサリーを贈るというのは褒められた行いではありません。ですが、それについては彼は反省し謝罪をしています」
「それは……でも、口先だけで謝ってるかもしれないじゃん。浮気しようとしてる可能性はあるじゃん!」
認めたくないというのが態度から滲み出ている。
セラムさんの言う事は恐らくは正しい事を彼女は理解している。
それでも認めたくない。
許したくないと全身が訴えている。
しかし、それでは話は進まないのだ。
「では、どうすれば納得するのですか?」
だから、私はベルーナさんだけを見つめて問いかけた。
「彼が何を言っても受け入れない。彼の事を全く信用しない。それであなたは彼の恋人なのですか?和解したいと思っているのですか?」
「思ってるわよ!私だって仲直りしたいって思ってるわよ!」
「では、何故許してあげないのです?彼は何度も謝ったのでしょう。お世話になったお礼に贈り物をする場合もあると理解できませんか?許す気がないのであれば最初から許さないと言うべきではありませんか?」
矢継ぎ早に彼女に対して正論をぶつける。
私が言っている事は正しい。
感情という要素を排除した正しさだ。
納得できずとも反論がしづらい。
だから彼女は追い詰められる。
「許さないなんて言ってないじゃん!」
「そうですね。“心から謝罪”してくれれば許すのでしたね。では、どういうのが心からの謝罪なのでしょう?何を以て心がこもっているとするのです?土下座をすれば良いのですか?高い贈り物をすれば良いのですか?公衆の面前で涙ながらに謝れば良いのでしょうか?」
「そんな事言ってない!」
「そうですね。全てはあなた次第です。あなたが気に入らなければ何をしてもダメなのでしょう?それは許さないと同義では?」
私は彼女を糾弾する。
悪いのは心が狭いあなたなのだと。
感情に振り回されてヒステリックになっているのはあなたなのだと。
突然、敵対的な態度を取る私に対して皆は戸惑うばかりだろう。
泣きそうになりながら私を睨む彼女。
そんな事で私の鉄面皮が崩れる事は無い。
これでも中々に陰口や真正面からの嫌味は言われ慣れているのだ。
「許さないのであればそう言えば良い。それを告げずに謝り続ける彼を見るのは楽しかったですか?」
「そんな事……そんな事思ってないっ!」
「疑わしいですね。そんな風に思っていないのであればこんな喧嘩にはなっていないと思いますが。あなたの心は少々狭すぎるのでは?このままでは愛想を尽かされてしまってもおかしくはないですよ」
唐突に始まった私からの非難。
息苦しい雰囲気が場を呑み込む。
エクサスさんとイルドさんも訳がわからずオロオロとするばかりだ。
しかし、涙が溢れそうになる彼女を前に黙っていられない人が居た。
ベルーナさんの恋人であるセラムさんだ。
「もういいっ!止めてくれ!」
「セラムっ!?」
彼は椅子から立ち上がり、そう叫んだ。
隣で俯き泣きそうになっていたベルーナさんが顔を上げて彼を見上げる。
「魔女さんよぉ!あんたの言う事は正しいんだと思う。俺の事を擁護してくれているのもわかる。でも、これ以上は聞いてられねぇよ!」
「セラムさん。私が最初に提示したルールを覚えていますか?今はあなたは口を挟んではいけません。それはわかっていますか?」
「わかっている!だからって黙ってられねぇ!話し合いは終わりで良い!」
大きな声で宣言し、椅子に座っているベルーナさんの手を取る。
片膝を突き目線を合わせる姿はまるでプロポーズをする王子のようだ。
「ベルーナ。俺はお前の事が好きだ。本当に好きなんだ。誤解されるような事をした事は悪いと思っている。今すぐ許して貰うのは難しいかもしれない。でも、それでも、許して欲しい。お前と仲直りしたいんだ」
「セラム……」
「プレゼントも買い直す。だから、俺と一緒に……俺の買い物に付き合ってくれねぇか?サプライズじゃ無くなっちまったけどさ。お前が喜ぶ姿を見たかったんだ」
急遽始まった熱烈な彼の行動にベルーナさんは頬を赤くしながら潤んだ目で彼を見つめていた。
周囲を置いてけぼりにして盛り上がり始めた二人を止めようと動こうとしたエクサスさんを視線で止める。
これで良いのだ。
「うんっ……うんっ!買い物行こ!一緒にさ!その後ご飯たべよ!私作るから!」
既に喧嘩をしていたはずの二人は居なかった。
そこにはいつも胸焼けするほど仲が良かったという話の二人が居た。
私は静かに目を閉じ出口を指す。
「さて、私が決めたルールは破られてしまいましたので話し合いは終わりです。お二人共、出口はあちらになりますよ」
「時間取らせて悪かったです!ありがとうございましたっ!」
セラムさんが全く感謝をしていない口ぶりで叫び、それに続くようにベルーナさんが嬉しそうについて行く。
二人は手をつないで寄り添いながら図書室を出ていく。
全く世話のかかる人達であった。
だが、これで問題は解決された。
二人で買い物に行くのだろう。
その後は仲良く食事をして恋人としての甘ったるい時間が待っているわけだ。
なんとも羨ましい限り。
そうして、くだらない喧嘩は終わり。
私の役目も終わりというわけだった。




