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あなたの言葉に心はあるか-3

「では、まずはセラムさんから話を聞きましょう。あなたの主観で結構です。問題となったと考える場面から順番に説明をお願いします」


 私の言葉に彼は少し宙空へと視線を彷徨わせた後に少しずつ語りだした。

 隣ではこれ見よがしにそっぽを向くベルーナさんの姿。

 彼等の態度からどちらかと言えばまだセラムさんのほうが冷静さを残しているように見えた。


「えっとですね……その、付き合って1年の記念にベルーナにプレゼントを用意しようと思ったんです。その時にこいつが“サプライズされると嬉しさ倍増だよね”とか言ってるのを思い出したんで、こっそり用意して喜ばせようと思ったんです」


 付き合って1年の記念にわざわざサプライズプレゼントを用意。

 これだけ聞けばなんて良い彼氏だとしか思えないわけだが話は続く。


「でも、肝心の何をプレゼントすれば良いかってわからなかった。その……女の流行りとかあんま俺わかんなくて……」


 その言葉にエクサスさんとイルドさんも深く頷く。

 そして、頷かないが女性である私も頷きそうになる。

 流行の移り変わりは本当に早くて、ちょっと時間が経てば古臭いと言われてしまうのだ。

 だから私は流行りに全く関係ない落ち着いた服装を好んでいるし、それをよく後輩のティピカには勿体ないと言われているわけですが。


「だから、仲良いクラスの女子に聞いたんです。プレゼント何が良いと思う?って、そしたらその娘がなんか呪文みたいな説明色々してくれたんだけどぜんっぜんわからなくて……そしたら、一緒に店行って説明してくれるって言ってくれて……」

「なるほど、その場面をベルーナさんに見られたと」

「はい……」


 ここまで聞く限りではセラムさんには何の問題も無いとも思える。

 彼女のためにサプライズを企画し、プレゼントを用意しようとし、自分では不得手だったので流行りに強い人に頼った。


「そんでですね。今日いきなりベルーナに詰め寄られて、昨日一緒に買い物してた女は誰だって。俺はちゃんと言ったんだ。買い物に付き合ってもらっただけだって。そりゃサプライズを隠したいから何の買い物かとか最初は言わなかった。そうしてたらベルーナの機嫌がみるみる悪くなって行ってさ……何度も謝ったけど受け入れてもらえなくて、その後はその……まぁさっきみたいな感じになったわけで」


 頭を掻きながらセラムは事の経緯を語った。

 元々は彼女を喜ばせようと取った行動だったが、上手く噛み合わず喧嘩へと発展していった。

 そこに悪意は無く、ただただボタンを掛け違いが起きただけに思える内容であった。



「では、次はベルーナさん。あなたの視点からの話をお願いします」


 セラムの話が一通り聞いた私は次は隣で控えていたベルーナへと話を促す。

 待っていましたとばかりに彼女は話し始めた。


「あの日、本当に偶然だったんですけど街を歩いてたらセラムを見たんです。隣には可愛い女の子が居ました。二人は仲良く話しながらお店に入って行ったの」


 その時の情景を思い出しながら語る彼女の目には今も怒りが灯っている。


「遠くからで何を話してるかはわからなかったわ。でも、二人で仲良くアクセサリーを選んでるのは見えた。そして、こいつはその女の子にプレゼントしてたのよ!おかしくない?だって、こいつの話が本当なら私のプレゼントを選びに行ってたわけでしょ!?それなのに何であの娘にプレゼント上げてるの!?」


 語り口が徐々にヒートアップしていく。

 拳を握りその日に覚えた感情を思い出して語る彼女の瞳には怒りの火が灯っているのがわかる。


「その時はほんと頭が真っ白になっちゃって、問い詰めれなかったから今日にしたの。私は聞いたわ。昨日のあの娘はどういう関係だって。そしたらこいつクラスメイトだとしか言わないの。どう考えても普通のクラスメイトにアクセサリーをプレゼントしないでしょ!絶対おかしいって!」

「だからそれはっ!」


 思わず口を挟もうとしたセラムさんを私は鋭く睨む。

 机の上にあるルールを箇条書きしたメモをトントンと指す。

 それで彼は私が決めたルールを思い出したのか口を噤んだ。

 私が厳しい審判であればここで終わりだ。


「よく止まりました。後少し発言をしていれば私は席を立っていましたよ」


 流石に初回で終わらせてしまうと可哀想なのでまだ続けようとは思うが。

 だが、口を挟もうとしたセラムさんだけが悪いわけではない。

 それは話しているベルーナさんの態度にも問題があったからだ。


「そうよ!大人しく聞いてなさい!」

「ベルーナさん。あなたもです。私は言ったはずですよ。余計な感情は省いて欲しいと」


 興奮しながら語っていた彼女にも冷水を浴びせる。


「彼が二人で買い物をしていた、アクセサリーをプレゼントしていた。それは良いですがその他はあなたの感情です。そういった物は必要無いと言ったはずです」

「うっ……」


 バツが悪そうに彼女が唸る。

 彼等はここに仲直りをする切欠、問題の解決に向けて歩みを進めたいから来ているはずなのだ。

 だというのに話が拗れる要素を追加されては困るという話。


「ご、ごめんって。話してたらやっぱり腹立ってきちゃって」

「そうですね。これでセラムさんとベルーナさんはお互いにルール違反を一回です。次は無いようにお願いしますよ」


 私は彼女が語った内容を反芻する。

 手元には彼等の話を聞きながら気になった事を書きなぐったメモ。

 それを見ればセラムさんが告げず、しかし、ベルーナさんは問題視している物がある。


「セラムさん。あなたの話にはありませんでしたが、買い物に付き合ってくれた娘にプレゼントをしたのですか?」

「はい……そりゃ世話になりましたからお礼くらいはするじゃないですか」

「何を上げたのですか?」

「その……アドバイスしてくれた店で一つ選んで良いぞって、そこまで高いのはダメだけどお礼に買ってやるって……最初は断られたけど、でもお礼しないのって礼儀がなってないじゃないですか。親しき仲にも礼儀ありって言葉もあるし」


 彼はその場でお礼の品を贈ろうと思い、そして目の前にはアクセサリーがズラリと並んでいた。

 だから、それで済まそうとした。

 彼からすればそれだけの行為だった。


「勿論、くそ高いのとかは断る気でしたよ。でも、お手頃価格の物とかだって普通にあるし、あいつはそういうのわかってるから安いの選んでくれたし……」


 贈られる側の娘は気を使って一番安物を選んでくれたのだという。

 友人同士が巫山戯合いながら話す姿。

 それをベルーナさんは楽しそうにアクセサリーを選んでいると感じてしまったのだ。


「それは……少し迂闊でしたね。女性への礼ならば形に残らない物が良かったのでしょう。それこそ菓子折りとか」

「言われたらそう思いますけど、あの時はそんな深く考えてなかったんすよ……この場でお礼もしちゃえば面倒くさくないなって思ったくらいで……」


 先程、脳筋呼ばわりされていたのが納得の思考であった。

 誰にも見られていなければ問題が無かった事ではあるが、事実、それを一番見られてはいけない人に見られてしまったのだから。



 その後、私は色々と話を聞いていった。

 彼女たちは私に聞かれた事に簡潔に答えていく。

 その結果をまとめた手元のメモを見れば当たり前の事が羅列されているだけであった。


・喧嘩の原因はセラムさんが女の子と買い物に行った事

・ベルーナさんが浮気を疑う原因は黙って二人で買い物に行っていたのがどう見てもデートにしか見えなかった事、アクセサリーをプレゼントしていた事。

・セラムさんが隠し事をしたので弁明を信用できない事


 ここまでは現状の把握であり、ここからがやっと問題解決のために話を進めて行く事になる。

 そうは思うのがどうすれば良いものかと頭を悩ませる。


 なんと言っても問題なのはベルーナさんだ。

 彼女はとても感情的になっており、普通であれば納得するような事柄でも受け入れる事はできないように見える。

 この二人が和解するにはどうすればいいのだろうか。

 本当に困った問題だ、何故私がこのような事をしているのか不思議でならない。

 中途半端に投げ出したりはしないが。


 少しだけ目を瞑り自分の思考に沈み込む。

 頭の中で彼等の言い分を整理し、何が話を拗れさせているのかを考えた。


 セラムさんは自分が喧嘩の原因になっている事を理解しており謝罪をする気持ちはある。

 しかし、その謝罪は受け入れられず、あらぬ疑いをかけられた事により嫌気が差している。

 ベルーナさんは疑心暗鬼に陥り、彼からの謝罪を素直に受け取る事ができない。引くに引けない状態になっているように見える。

 感情が彼女自身でも制御できていないのだろう。


 事実だけを並べれば単純な話だというのに二人の感情が解決を容易にさせてくれない。 

 他人からすれば勝手にやってくれという内容ではあるが、私はこの相談を引き受けてしまった。


「ふぅ……さて……どうするべきでしょうか……」


 深い溜め息が出てしまっても仕方がない事だろう。

 そもそもこういう感情が主体の話は私向きの内容では無いと思うのだ。


 余計な事も色々と混ざりながらも頭を回転させた結果。

 和解への一歩目として、まずは終わり方をはっきりさせなければならないと私は考えた。


「確認したいのですがセラムさん。今、あなた達は喧嘩をしているわけですがそれは何を目的とした喧嘩なのでしょう?」

「……どういう事ですか?」

「最終的な着地点の話です。喧嘩の末に仲直りをしたいのか。それとも悪いのがどちらかをはっきりさせて別れるためにしているのか」


 その言葉に二人の表情が少しだけ強ばる。

 何だかんだと言っても彼等は恋人同士である。

 この喧嘩の前提はそれだ。

 他人であれば喧嘩にはならない。

 ここで別れる気なのであれば長々と現状を確認する必要はないわけだ。

 そして、当然ながら別れたくないと考えているのはわかりきっているがあえて言葉に出してもらう。


「そりゃ仲直りしたいですよ……俺は元々喜んで欲しくて……プレゼントだって用意してるし……悪いとは思ったから何度も謝ったし……」

「ベルーナさんは?」

「私だって心から謝罪してくれれば許して仲直りするわよ。でも、上辺だけなら許さないわ。そうでしょ?口では何とでも言えるんだから」

「心から……ですか」


 私は少々思案し結論を出した。

 この問題にどう決着を付けるのが一番良いのか。

 私がここまで色々な物をを割く必要があるかは疑問ではあるが一度引き受けてしまったからには最善を尽くすべきだろう。

 そう思ったのだった。

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