第9話 -面倒事は面倒だ-
前にフレンが美味しいと言っていた風書局の近くにあるケーキ屋さんで、
ケーキを買ってカフェに向かう。
今日は、雑貨屋さんの方で気になっていたマグカップを買う予定だ。
いつも仕事中に使っていたマグカップを先日割ってしまっていたので、ちょうどいい。
なんて色々気分が弾むことを考えながら、カフェへの道を急いだ。
実は前回カフェに行ったときに、風書局からの近道を発見した。
裏路地だから、大通りを通らなくて済むから混まずに楽に進める。
慣れない道は冒険をしているようで、テンションが上がる。
裏路地にそれしばらく歩くと角に人影が見えた。
――珍しい。
「あ、すみません。」
道を譲った私に男性が軽く声をかける。
私も軽く会釈をしてすれ違う。その瞬間、すれ違ったはずのその人が声をかけて来た。
「お前、風書局の人間だろ…」
「え?」
まずい。
反応してしまった。
「あ、の…」
「少し付いて来てもらおうか。」
軽く動いた男性の手。
視線を向けると魔法具が見える。
その魔法具は、フレイジアの魔法具だ。
ということは、この人はフレイジアの人?
風書局宛に来ていた手紙のことを思い出す。
内容までは知らないがあれだけの手紙が届けられていたのだ。
何かあるに決まっている。
「手紙の件ですか?
申し訳ございませんが、私は風書局でも下級の人間です。
私と話をしてもご希望に添えることは何もないと思いますが――。」
私の言葉に微かに眉をひそめる男性。
「なら今ここで再起不能にして、話が通る人間を脅すか?」
男が持つ魔法具が赤く光る。
恐らく本気なのだろう。
「はぁー…。戦争でも起こすつもりですか?国内戦争なんてルヴァール王国の歴史でも数える程度しかありませんよ。」
私は、そう言いながら両手を上げた。
男は無表情でそのまま歩き出した。
「ところで、なんで私が風書局の人間だとわかったんです?」
「…………………。」
「…もしもーし、聞こえてます?」
「…………………。」
「無視ですか?」
「…………………お前、自分が置かれている状況理解しているか?」
「んー。良くはない状況ですよね?
でも、正直あなた方の要求も何もわかっていないので、どうしようかなって感じです。」
前を歩く男がこちらを振り返り少し呆れたような表情で見る。
「なんです?その顔」
「お前。本当に下っ端の人間なんだな。」
「だから言ったでしょ?開放してくれます?」
「いや、だが、ハーヴェル・ロイドと仲良いよな?ルシエル・ブルー。」
男が目を細めこちらを見据える。
「なるほど?あらかた調べてはいるんですね。」
「まぁな、今日お前に会うことは全く想像していなかったがな。」
大人しく大通りから行くべきだった。
今更しても遅い後悔をしながら男の後に続いた。
―――――――――
「なんです?」
「…なにが。」
「あなたが私を誘うときなんて何か起きた時くらいですからね。」
「そんなことないだろ、」
「いいえ、ハーヴェル・ロイドという男はそういう人間ですよ」
統括府から戻った俺は、そのまま風書局でいつも通り仕事をこなしていた。
が、今日は朝から色々ありすぎた。
統括府でのこと、フレイジアの手紙の内容――。
少しくらい早めに切り上げても罰は当たらないだろう。
そもそも俺は、楽をして生きていきたいのだ。
そう自分に言い聞かせ、部下たちにも仕事を早々に切り上げさせた。
そしてそのまま、ノルを誘った。
「面倒事なら早めに言ってくださいね。
大きくなってから言われても、対応が面倒なだけですから。」
「お前って結構雑だよね。」
「効率的と言ってください。」
まぁ、こんな人間だからこそあの、アレル陛下を支えられるんだろうけど。
あんな天然で、世間知らずな男を。
――――――――
「各街の統括官たちってどういう基準で決めてる?」
俺の言葉に、眉をひそめて首を傾げるノル。
「遠回しな物言いも、無駄な遠慮も結構です。なんです?」
「――お前は本当に…。」
呆れて笑えてくる。
「局長として統括官たちに報告することがあって今日行ってきたんだよ。」
「統括府にですか?
珍しいですね、貴方ああいった場所嫌いでしょ。」
「大嫌いだね。でも、まぁ、仕事だからね。」
「ふぅん、それで?」
「すべての対応と責任を押し付けられて帰って来たよ。」
「……は?」
「ふはっ、珍しいね。ノルがそんな顔するの」
俺は簡単に事の経緯を話した。
「なぜ我々じゃなく、統括府に話を上げるんです?直接、我々に話せば済むことでしょ」
「そんな簡単に言うんじゃないよ。
街同士のことで、わざわざ国を頼るわけにはいかないでしょ。
俺は、お前らと繋がりがあるからそこのハードルは低いかもしれないが、普通ならそうはいかない。
それに、統括府を通り越して行ったら後々何を言われるか。
余計面倒なことになるんだよ。局長の座も降ろされるかもしれない。」
もっともらしい理由を並べてみる。
「貴方、局長の座なんて興味ないでしょ。」
「まぁね。でも、面倒事残していなくなるのは、統括官たちと同じことになるからね。
皆にそんなものの対応はさせられないね。」
ノルはしばらく俺を見つめ、小さく息を吐いた。
「……そういうところですよ」
「なにが?」
「貴方に局長を任せたくなる理由です。そして、周りが付いていきたくなる理由。」
「………もしかして、かなり褒めてくれてる?」
「もしかしなくても褒めています。」
「明日、槍でも降るんじゃない?」
「はっ倒しますよ?」
「あははっ、ごめんごめん。有難く受け取るよ。」
「とは言え―」
軽口をたたいていたノルの表情が、一気に真面目な表情に変わる。
「統括官たちのことも、フレイジアのことも面倒なことになる前に対応しておきたいですね。」
「でもまぁ、内部から国を壊そうとしている奴がいないとも限らない。
その為の、要求かもしれないしな。」
「なら余計に、早く対応を」
「今一つ火種を消したところで、きっとすぐにまた火種が上がる。
だから、これを見せしめにするべきだと思うが?」
「そうは言っても、我々がそんな騙すような動きは取れませんし――」
「その為の俺だよ。」
「え?」
統括府にもフレイジアにも、釘を刺しておきたい。
あまり出しゃばるなと。
「フレイジアの要求を詳しく聞くための場を設けようと思っている。」
「なるほど?」
「あちら側にも考えはあるだろうから、聞くだけは聞いてやるさ。
そのうえでどうするかは、あくまでこちらがが決める。
フレイジアは、勘違いをしているようだから」
「勘違い?」
「我々は手紙を飛ばすことしかできない。他のものは全て周りに頼っていると」
甘く見られては困る。
ウエンティスが何故風魔法だけで他の街と同等の生活をしているかを考えた方がいい。
「確かに、ウエンティスには様々な強みがありますからね。
そこを理解している者の考えとは思えない。
少なくとも、フレイジア上層部全体の総意ではないのでしょうね。」
「あぁ、ただ、喧嘩を吹っ掛けられているのは事実。
このルヴァール王国で一番歴史のある町は紛れもないウエンティスだ。
随分面倒くさい場所を相手取ったよ。
これまでの援助のことをチラつかせれば優位に交渉を進められると考えているのかもしれないが、自分たちの首を絞めていることにまるで気付いていない。」
「なら、統括府の方は私が動きましょうか?」
「いや、統括府にわからせてやることが最大の目的だよ。俺からすればね。」
ある程度流れに身を任せ、不意に刺してやるさ。
「本当に厄介な男を敵に回しましたね。とても楽しそうな顔してること、気付いてます?」
窓ガラスに映る俺は、いい顔で笑っていた。
「はぁ、貴方に局長なんて大層な役職を与えた人間の顔を見てみたいですね。」
「全くだよ。君たちが従っている男は、人を見る目がないみたいだね。」
ノルはケラケラと笑っていた。




