第10話 -面白がって首を突っ込む-
男に連れられ気付けば、ウエンティスで生まれ育った私ですら来たことのない場所に着いた。
「あの、移動手段考えた方がいいですよ?」
「は?」
「私いたから風車使えたけど、貴方存在するら知らなかったでしょ。」
図星を突かれ言い返してこないその人。
「それで、ここは?」
人気のない古びた建物の前に立つ男。
『フレイム・リリース』
男が持つ魔法具に呪文を唱えると、それは赤く光り扉の鍵が開く音がする。
扉が開くと外観からは想像できない落ち着いた雰囲気の内装が広がっていた。
「俺たちの長がいる。入れ。」
案内された一室。
入ると置かれたイスとテーブル。
その奥に座る男性。
「風書局の局長でも呼べば満足です?」
「お前っ!少しは今の状況を!」
私の減らず口に、ここまで連れてきた男が慌てる。
「君は、局長さんを呼んでくれるの?」
椅子に座る男が言う。
「勿論」
「なんで?仲間でしょ?」
「なんで?んー、だってここで私と何か話したところで、私にできることなんて何もないもの。だったら、さっさと話しが通りやすい人を呼んだ方がいいでしょ?
それに、
私明日も仕事なの。あまり無駄な時間は過ごしたくないのよ。」
この間盗賊に襲われた時の恐怖はなぜか感じられなかった。
落ち着いて会話が出来る感覚。
「あははっ」「んふふっ」
私の言葉に座る男性も、私を連れてきた男性も笑う。
「何よ、失礼な方たちね。」
「ふふっ、ごめんごめん。
自己紹介をしていなかったね。」
「別に、私は結構」
「僕は、サリア。そっちの大男が、リヴァエル。きっと乱暴に連れて来たでしょ?悪かったね。」
その紹介で、リヴァエルと呼ばれた男が頭を下げた。
「はぁー…。何故かもう知られているみたいだけど、ルシエル・ブルーよ。」
心底迷惑そうに私は答える。
「それで?局長は呼ぶの?呼ばないの?」
「んー僕としては、もう少しシエルとお喋りしていたい気もするけどなぁ。」
「私は結構よ。」
「あら残念。なら、呼んでもらおうかな。」
「わかったわ。」
『レター・コネクト』
局長に渡されている紡ぎ人を示すバッチに手をかざして、唱えるとバッチが仄かに光る。
――――――――――
「まぁ、やり方は任せますよ。」
「ありがとう。アレルにはまだ何も伝えないでいて貰えると助かる。」
「言いませんよ。彼のことです。面白がって首を突っ込むに決まってます。」
それを想像して、俺たちは笑った。
すると突然、紡ぎ人を示すバッチが光る。
そしてそこから聞き覚えのある声がする。
〈ロイド局長?聞こえます?〉
「シエル?どうした?魔法まで使って」
〈少し面倒事に巻き込まれてしまっていまして〉
その割には落ち着いているように聞こえる。
「今、ノルと一緒だがこのままで大丈夫か?」
〈ノルさん?あーちょっと待ってくださいね?〉
シエルの声が少し遠くなる。
〈あのー、ルヴァール王国第二王子の側近の方も一緒にいるそうですがいいですか?〉
〈はぁ?!〉〈おっと、想定外だね〉
知らない声が二人分聞こえてくる。
「シエル様?私のことは、気になさらず続けてください。今、聞いたことは忘れますので」
〈だって、どうする?〉
〈まぁ、いいんじゃない?別に、戦争をしたいって言っているわけじゃないし。〉
〈いや、だけど――〉
〈どうします?〉
〈いいよ、このままで。シエルとも面識あるならある程度の信頼はできるし〉
〈それの言い方じゃ、誤解されますよ?〉
〈…なんで?シエルのことは信頼してるよ?〉
〈え、なんで?〉
〈え?〉
〈はぁー…ロイド局長?いいですか?〉
「本当にシエルは、面倒な人に好かれるね。」
〈え?〉
「まぁいいや、どうぞ?」
〈――今、フレイジアの方に捕まっていまして〉
「…は?」
〈捕まってるなんて言い方が悪いなぁ〉
〈サリアは少し静かにしててください〉
〈おまっ!その言い方!!〉
〈はぁ、リヴァエル。あなたもです。〉
捕まっている割には、随分緊迫感のないやり取りが聞こえるが
「シエル?どういうこと?」
〈風書局宛に来ていた手紙あったじゃないですか?恐らくその差出人です。〉
その言葉に、空気が変わった。
――気がしたが。
〈え!違うよぉ?〉
〈…え!?違うんですか?!〉
誰も何も状況が掴めていない。
隣で聞いているノルも、眉をひそめて微かに首を傾げている。
〈僕たちが送ったのは、ウエンティス宛の手紙だけだよ。〉
サリアと呼ばれていた彼が話を進める。
〈風書局宛に手紙を送っている奴ら――そいつらについて、話がしたかったんだよ。
リヴァエル、ちゃんと説明しないでここまで連れてきたの?〉
〈……悪い、忘れていた。〉
〈はぁ?!ちょっともう、いい加減にしてくださいよ!
あ、ロイド局長?えっとですね、〉
「あー、とりあえずシエル。今君どこにいるの?そっちに向かうから」
〈あ、わかりました。
サリア、ここどこですか?〉
場所もわかっていないのか、この子は。
ノルに至っては、もう、笑ってしまっている。
「私、シエル様のこと結構ツボなんですよねっ、」
「あー…だろうな、アレル側だもんな。」
「んふふっ、私も彼女たちのところにご一緒しても?」
「―――好きにしろ。」
本当に、面倒な奴らに好かれるな。シエル。
――――――――
〈コンコンコン〉
ノックの音が響き渡る。
「わざわざすみません、ロイド局長。ノルさん。」
「仮にも拉致られた人間とは思えないな。シエル。」
扉を開けると、呆れた様に笑うロイド局長とその後ろで笑いを堪えている様に見えるノルさんの姿があった。
「来てくれてありがとう。歓迎するよ」
私の後ろからサリアが、ひょっこりと顔を出す。
「色々聞きたいことはあるけど、とりあえず、シエル」
「はい?」
「けがは?していない?」
「あ、はい。全くの無傷です。」
「そっか、ならよかった」
「ほらほら、そんなところで話していないで中に入りなよ」
サリアが2人を招き入れる。
それと同時に、2人の空気感が変わる。
ぴりっとした、警戒をしているような、品定めをしているような。
変化した空気を感じ取っているはずのサリアだが、その様子に静かに笑ってみせる。
「別に、敵国との交渉の場じゃないんだから気楽にしてよ」
「シエルをこの場に連れてきている時点で、そのたとえ話に近い状況になっていると思うが?」
「…ロイド局長?」
「君に局長と呼ばれる筋合いはないよ?」
「そんなに、シエルのことが大事?」
「もちろんだよ?」
「そっかぁ、なら、少し傷を付けておくべきだったかな。」
「は?」
「怒りに身を任せた君が、力に身を任せてくれれば事は大きくなる。
部下の身の安全を守れず、過剰防衛。責任を取って、局長の座を降ろされる。
もちろん先に、シエルをさらった僕たちも罰せられるけど、君の退任の方が有難い。
風書局の頭脳の君がいなくなれば、色々なことがしやすくなるだろうからね。
この国の情報交換の業務を一任されている風書局の手綱はどの街も欲しいものだけど、君がいる以上恐らくどこも握れないだろう。
だから――」
「ちょっと待って、ちょっと待って」
突然間に割って入る私に、サリアが怪訝そうな顔をしながらこちらを見る。
「サリア、貴方、そんなことに興味ないでしょ?」
「――――え?」
「だってそんなこと、一言も言っていなかったじゃない。」
「いや、だからそれは、君のことも騙して、ロイドさんをここにおびき寄せる為の―」
「ならもっと、最初から過激なやり方をするはずだわ?
今日私がここに連れてこられたのだって、貴方の計画の中には無かったはずのことよ?
貴方、無計画に、強引に、物事を進めるような人じゃないでしょ?。」
「ねぇ、シエル。何が言いたいの?」
少し視線を揺らしながらサリアが問う。
「そんな安い煽りにロイド局長は絶対にのらないし、交渉をしたいなら、変に回りくどくするより、ストレートに言った方がいいわ。
この人、性格悪いからやられたらやり返されるわよ?」
「シエル?君、俺のことそんな風に思っていたの?」
私は、ロイド局長の方を見て、取って付けたような笑顔を向けた。




