第11話 -謝罪と説明-
「それで?まず初めに、シエルをここまで攫ったことに対しての謝罪からだ」
不機嫌そうにロイド局長が言う。
「局長、なんか不機嫌ですね?」
「部下が見ず知らずの人間に攫われたんだ。機嫌がいい方がおかしいだろ」
「――それだけじゃないですよね?」
局長が鬱陶しそうに私を見る。
「その話も、これからするから少し黙ってなさい。」
「はーい」
今度は私が不機嫌な顔をしてみせる。
その様子に、ノルさんが笑っている。
「シエルを連れてきたのは俺だ。
強引なことをした。申し訳ない。」
リヴァエルが頭を下げる。
「僕を慕ってくれている人間が頭を下げているのに、僕が逃れようなんてそんな都合のいい話はないよね。」
サリアが椅子から立ち上がる。
「ルシエル・ブルー君の意思を無視してここまで連れてきたこと。
本当に申し訳なかった。」
今までのサリアの柔らかい雰囲気は消え、静かに頭を下げた。
「え、いや、サリア――」
「本来であれば、こちらから正式に話し合いの場を設けさせていただくべきだったし、君を攫っていい理由なんてどこにもない。」
顔を上げて話すサリアの表情は、後悔そのものだった。
「怖い思いをさせてしまったこと、君の大切な時間を奪ってしまったこと。
それに――――。」
一度言葉を切り、サリアは真っすぐ私を見る。
「君には一切関係のないはずのことに巻き込んでしまったこと。
本当に、申し訳ありません。」
サリアはもう一度頭を下げる。
それに続いて、リヴァエルもより深く頭を下げた。
「はぁー…。もういいですよ、頭上げてください。」
私の言葉に、2人は頭を上げる。
「ロイド局長も、私がいいと言ったのだからいいですよね?」
「君がいいと言ったから、俺が許すなんて誰が言った?」
「本当に、性格悪いですね。嫌われますよ?」
局長が何故か得意げに笑う。
私は、眉間にしわを寄せた。
「とにかく、しっかりとお話をしましょう。」
―――――――――
ルシエル・ブルー
本当に、面白い人だ。
アレル殿下が彼女を助けた日、王宮に戻ってからも珍しく殿下は彼女に興味を示していた。
私に彼女のことを調べるよう仰って来たのだ。
とは言え、特に変わったことも珍しい何かを持っているわけでもない本当に、
ただの女性だった。
強いて言うなら、紡ぎ人という職務の中で繊細な魔力のコントロールが出来るくらい。
そんなどこにでもいる普通の、女性。
なのに、何故かどこか惹かれる人間性がある。
次は何をしてくれるのか、目を離せない。
こんな感情になるのは、アレル殿下に出会った時以来だ。
ただ一つ気になることと言えば、彼女が紡ぎ人の仕事をしているとき以外魔法を使わないことだ。
『レター・コネクト』も、紡ぎ人しか使えない特別魔法。
そういったものではなく、普通魔法を使っている姿を見たことが無い。
防御魔法や、攻撃魔法、日常生活の小さな魔法、鍵を開けたり物を浮遊させたり。
ルヴァール王国の民ならどの街の人間でも使える、普通魔法。
だから、彼女が使えないはずがないのだが…。
今回のこともそうだ。
きっと、炎魔法で脅されてここまで連れてこられてたのだろうけど、全く抵抗せずに大人しく連れてこられている。
最初に出会った時も、盗賊からの攻撃に防御魔法も使わずに堪えていた。
いったい何故そんなことを―。
「ノル!聞いているのか?!」
ロイドの声にハッとする。
「え?あぁ、ごめん。なんです?」
「シエルは、こいつらの謝罪を簡単に受け入れすぎだと言ってるんだ。」
はは、本当に過保護ですね。ロイド局長様も。
―――――――――
「謝罪を受け入れるかは別として、今回のことについての言い訳は聞いてやる。」
何故かロイド局長が偉そうに言う。
「なんで局長が偉そうなんです?」
「お前がこいつらと変に仲良くなっているからだろ。」
「別になっていないですよ。
まぁ、いいや。サリア、この人は放っていていいので、情報共有してもらっていいです?」
「ははっ、シエルは面白いね。」
少し気が抜けたような表情を見せながら、サリアは話し始めた。
―――――――――――
「まず、大前提としてこの国で”紡ぎ人”とういう職業は狙われやすい。」
「え?そうなの?」
「シエル、君、紡ぎ人になってどのくらい経つ?」
「んー、随分長いこと…」
「…そっか。」
サリアは諦めた様に話を続けた。なんでだ。
「この国で最も一般的な情報のやり取りは手紙だ。
そして、その手紙を届けるのが君たち”紡ぎ人”
つまり、紡ぎ人を味方につければ、情報を他の誰よりも先に手に入れることも、都合の悪い情報を消すこと出来る。
それだけじゃない。手紙に攻撃魔法を宿せば、確実に受取手に被害を与えることもできる。
情報は時に武器になるからね。だから、君たち”紡ぎ人”は狙われやすい。」
なるほど。
え、でも――。
「そうは言っても、私、そんな危険な目にあったことはないし紡ぎ人をやっていて、そういう裏のやり取りみたいなものを聞いたことも無いわ?」
「うん、だろうね。
君の局長はとても優秀そうだしね。」
ロイド局長を見ると、ん?と首を傾げるのみ。
「そして、”紡ぎ人”の存在を邪魔だと感じる人間も、一定数存在する。」
「――邪魔?」
「うん。自分たちの味方につかない紡ぎ人は、悪事を働こうとしている奴らからしたら懸念材料にしかならない。
検書部で内容全てを確認するわけでは無いだろうけど、危険が無いかの確認は行うでしょ?」
「えぇ、私はやったことないけれど」
「つまり、手紙に何か仕込んだとしてもそこで見つかり場合によっては罰せられる。」
「それは、”紡ぎ人”をと言うよりは、風書局が邪魔なのね。」
きっと昔は、紡ぎ人という仕事に明確な決まりも、それを管理する組織もなかったのだろう。
けれど、決まりを設け、組織化することで、ウエンティスは”紡ぎ人”を守ってきたのだろう。
「………そして、恥ずべきことに、”紡ぎ人”の力を悪用しようとするのはフレイジアでも一緒だ。」
その言葉に、思わずサリアを見るけど情けなく笑うサリア。
「つまり、シエルを攫ったのも”紡ぎ人”の力を悪用するつもり、もしくは風書局を脅す材料として攫ったってわけだ。」
「っ、違う!!」
話に割って入ってきたロイド局長の言葉に、サリアが強く返す。
「僕たちは”紡ぎ人”を利用すようなんてしたことも、考えたこともないよ」
「現にこうして危害を加えている時点で同じことだろ。」
「―――っ、ぐうの音もでないね」
「はぁ、ロイド局長。一々突っ掛かっていたら話が進みません!」
「なに?なんか俺が、悪いみたいに言うね」
「全ての話を聞いてから文句言ってください!」
私の言葉に面白くなさそうにするロイド局長。
全く、何にそんなにイライラしているのか。
「はい!サリア、続けて」
「ふふっ、ありがとう。」
そして、サリアはまたゆっくり話し始める。




