第8話 -新しい靴は気分が上がる-
「いってきまーす。」
私はいつも通り返事のない部屋に声をかける。
いつもと違うとすれば、足元に”友人”から貰った真新しい靴があることくらい。
王宮で採寸してもらって数週間後。
いかにも高級そうな箱に入って靴は届いた。もう余計なことは考えずに、有難く使わせてもらうことにした。
靴が勿体ないし。
全く違和感のないピッタリな靴を履き、私は一歩を踏み出した。
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ここ最近、風書局ではちょっとした異変が起きていた。
風書局では、というかここに集められている手紙に異変が起きている。
それは、炎魔法の加護を受けるフレイジアからの手紙がとても増えているということだ。
しかも、フレイジアからどこかに向けてではなく
フレイジアからウエンティスへ向けての手紙だ。
ルヴァール王国に存在する四つの街には、それぞれ街を統括する者が置かれている。統括官だ。
街の行政を取り仕切るだけでなく、街に宿る魔法の加護を管理し、何かが起きた際は王家に報告する役目も担う、民と王宮を繋ぐ存在。
ウエンティスに届くフレイジアからの手紙は、その統括官から直々に届いているものだ。
この、風書局宛に。
私たちは手紙をロイド局長に報告。
そのあと、局長はその手紙をウエンティスの統括官にそのまま渡しているらしい
勿論その内容を紡ぎ人が知ることはないが、今までそのようなことが無かったのにいきなり何の用なのだろうと、風書局内でも少し話題になっている。
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「どんな内容なんだろうね、フレイジアからの手紙」
お昼休み。
サンドイッチを口いっぱいに頬張りながらフレンが言い出した。
「そんな口パンパンでよく話せるわね」
「ん、っ、まぁね」
「褒めてないわよ?
…でも、まぁ確かに気になるわよね。」
「ロイド局長も内容までは見ていないって言ってたし、謎だよね」
「そうね、ウエンティス宛じゃなくて風書局宛っていうのもよくわからないし」
「だよねぇ…。
私たちには関係ないことだと思うけどね!
てか、シエル!その靴がアレル陛下にいただいた靴?」
「ちょっと!!大きな声で名前出さないで!誰かに聞かれたらまたややこしいことになるから!!」
「あ、ごめん」
「はぁ、もう…。
――そう、これがいただいた靴。」
「なんか、一応局長のおかげで一見は普通の靴だけど、よく見ると本当に市民じゃ手が出せないような代物なんだろうなって感じだね…」
「そうなのよ。あまり、何も気にしないことにしたわ。
心臓がいくつあっても足りないもの。」
私たちの話題から、あっという間にフレイジアからの手紙のことは消え去った。
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あぁ、また面倒事が起こりそうだ。
俺、極力楽に生きていきたいんだけどな…。
ハーヴェル家という、まぁまぁ金も地位も持ち合わせている家に生まれて、大人達の見栄の張り合いを子供のころから見てきた。
俺は大人になったらそういう面倒な付き合いからは出来る限り逃げて、いかに楽に過ごすかを考えて生きていこうと、子供のころから心に決めている。
それを蓋を開けてみれば、風書局の局長なんかをやっている。
紡ぎ人の仕事は嫌いじゃない。
むしろ好きだ。でも、局長の仕事は嫌いだ。
今日だって、最近フレイジアから頻繁に届く風書局宛の手紙について、統括官に報告するため
統括府まで来させられている。
「ここ一週間で風書局宛に届いたフレイジアからの手紙を、お持ちいたしました。
ご確認、ご対応いただきたく存じます。」
「…いつもと同じで、我々の風魔法とフレイジアの炎魔法で同盟を組まないかという手紙だろ?ロイド、いつも通り適当にあしらっておけ」
統括官の一人が答える。
「ウエンティス宛に来ていた頃でしたらそうだと思いますが、今は風書局宛に来ております。ままた別な要件かもしれません。」
「そうか、ならお前が対応しろ。」
「…は?」
「風書局宛なのだろ?
なら、風書局局長であるお前に一任する。我々も暇じゃないんだ。頼んだぞ。」
――何を言っているんだこの人たちは。
「お言葉ですが、統括官方。
下手をすれば大きな問題になるかもしれないことを、私に一任というのは」
「下手をしなければいいのではないのか?」
―――――クソったれ共が。
「はぁー…。」
あいつらはいつもそうだ。
対して忙しくもないくせして、面倒なことは自分たちじゃやりたくないから下の人間に押し付ける。そして、何かあったときは、彼らが勝手にやったことだと言い逃れる。
イラつきと、ダルさと色々混じった感情を落ち着かせるため、煙草の煙を大きく吸い込んだ。
風書局の屋上で吐き出す煙越しに見えるウエンティス。
夕日が街並みを真っ赤に染め上げている。
突き返された手紙の封を開ける。
「――っ」
想像していた何十倍も面倒な内容だった。
多額の見返りをちらつかせ、優先的にフレイジアの手紙を送ったり、攻撃魔法の力を込めた手紙の送付の許可するよう求めたり…まぁ、その他も似たり寄ったりな話。
その意図はわからないが、どこかへ向けて、何かをするつもりなのはすぐにわかる。
「本件についてより詳しくご相談させていただけますと幸いです。良いお返事お待ちしております。なお、今後のウエンティスとの関係もより良いものにしていければと考えております。
これまで行ってきた互いへの援助等も、良好な関係のもと継続できれば幸いです。
是非、よろしくお願いいたします。
…随分ご丁寧に脅してきてんな。」
まぁ、あのクソ共がこの内容を知らなくてよかったかもしれない。
あいつらのことだ。
提示される対価に目がくらみ二つ返事で了承し兼ねない。
その対応をさせられるのが我々、紡ぎ人だ言うことも忘れて。
「とりあえず、アレルに報告――。いや、余計面倒になるか?
…先に、フレイジアの話を聞いてみるか。」
俺は、咥えたまま忘れていた煙草の火を消し風書局に戻った。
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今日はいつもより少しだけ早く、紡ぎ人の仕事が終わった。
フレンはシーザーさんに、食事に誘われたらしくすごい勢いで帰っていった。
「カフェに寄っていこうかしら」
最近の私は、バレッタを見つけたお店に寄ってから帰ることが楽しみになっている。
「どこかで差し入れでも買っていこうかな」
私はその選択をしたことを、遠くない未来で後悔することになる。




