第7話 -陛下は、私とお友達になりたいんですか?-
酒屋での話はもう既に、アレル陛下とノルさんにも伝わっていた。
「あー本当に、最悪すぎる。」
フレンは隣で、顔を真っ青にしてうな垂れて居る。
「まさか、シーザーと知り合いだったとはな。」
アレル陛下が言う。
「え?なんでここで、シーザーさんの名前出てくるの?」
フレンが驚いた顔でこちらを見る。
「あれ?この間もなんでシーザーさんとセラフさん一緒にいたんだ?!」
「え?シエルさんお伝えしていないんですか?」
ノルさんが首を傾げる。
「言ってないです。聞かれなかったし、黙っている方が楽しいかなって思ったので!」
「はははっ」
私の答えに、アレル陛下が笑う。
「アウディ家は代々、王宮お抱えの薬屋だよ」
セラフさんが言う。
その言葉に、フレンが固まる。
「…王宮お抱えの薬屋、」
「そう、俺とシーザーは個人的にも仲が良くて、よく飲みに行ったり出かけたりしているんだ」
「………え?」
「あっははははは!」
混乱するフレンの姿に私は思わず、大爆笑してしまう。
「え?!シエルは知ってたの!?」
「はははっ、フレンが酔いつぶれているときに聞いたわよ?」
「はぁ?!」
私はこらえ切れずまた吹き出した。
――――――――――――
「ところで、シエル。あれから身の回りで変わったことはなかったか?」
いまだに淡々しているフレンをよそに、アレル陛下が私に問いかける。
「はい。陛下たちにご対応いただきましたお陰で」
「それ辞めろ」
「…はい?」
「その、へりくだった物言い辞めろ。普通に話せ。」
「…いや、陛下?
そもそも私と陛下なんて、言葉を交わすことすら有り得ないくらいの身分差ですよ?
それをこうして、お話しさせていただけて」
「だから、それをやめろと言っているだろ。」
「――はぁ、ではその、人が話しているときに遮ってお話しされるのをやめていただけますか?」
「ふふっ」
視界の端でノルさんが楽しそうに笑う。
「それは、お前が言うことを聞かないからだろ」
「”お前”と呼ぶのもやめてください。」
「……………っ。」
「陛下と市民の立場で良いなら、呼び名に物言いするつもりはありませんが
その立場を取っ払い、へりくだらず普通に話せと仰るのであれば、文句も言わせていただきます。」
私の意見に、アレル陛下は少し驚いたような表情をし
視界の端では息も絶え絶えになりながら笑う、ノルさんがいる。
「さぁ、どうします?文句を言うことを許可されるか、されないか。」
「それで、おま―シエルは、ノルやセラフ、ロイドと話すときのように話してくれるのか?」
「んまぁ、それが陛下のお望みならば?」
「それは、俺が第二王子という立場からの命だからか?」
なんなんだこの人は。
何が望みなんだ?
――――もしかして。
「失礼ながら陛下」
「うん?」
「陛下は、私とお友達になりたいんですか?」
「ぶはっ!」
少し笑いが落ち着いていたノルさんがまた、吹き出した。
「…お友達――。」
「あれ?違いました?であれば、今まで関わったことのない立場の人間への興味?」
「興味――。いや、どちらかというと”お友達になりたい”の方がしっくりくる。」
「…そうですか。変わっていますね。」
「そうか?」
「私が想像する第二王子像からすると大分変っていると思います。」
「そうか、ならその、想像している第二王子像を取っ払って、今目の前にいるアレル第二王子をこれからの第二王子像にしてくれて構わない。
というか、俺はお友達になりたいと思っているから、第二王子像すらもいらないが」
なんだか話がよくわからない方向に進んでる気もするが、まあいいか。
「わかりました。では私が、アレル陛下のお友達になってあげますね。」
「ああ、よろしく頼む」
「はぁ、おなか痛い…。
アレル陛下、今日適当な理由を作ってシエル様をお呼びした理由、忘れていません?」
随分笑っていたノルさんが、少し疲れた様に話に入る。
「あぁ、忘れていたな。シエル」
「なんです?」
「新しい靴を探しているんだったよな?」
「…セラフさん、変なこと言いましたね?」
「別に変なことではないだろ!本当に、靴探していただろ」
「まぁ、そうですけど」
私は、古くなった靴に視線を落とした。
「町で有名な靴屋を呼んでいますので、そちらで新調されてください。」
ノルさんが言う。
「いや!結構です!王宮お抱えの薬屋の次は王宮お抱えの靴屋ですか?
そんな高価であろうもの、私には到底払える代物ではありませんし」
「国からの、感謝の形として送らせてくれ」
アレル陛下が意味の分からないことを言い出す。
「何言ってるんです?私、国に感謝していただくことなんて何もしておりませんが」
「国の民を危機から守ってくれただろ。」
「はぁ?」
「あの村で、盗賊が出ている情報は入っては来ていたがそいつらを確保できたのは、
紛れもないシエルのおかげだろう。」
「そんな大層なことはしておりません!」
「話し方がおかしいぞ」
「今そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!」
「俺にとっては大事なことだ」
「っ、そうですか!私にとっては大事ではありません!」
「友人にそんな言い方をするのか?」
「あなたが訳わからないこと言い出すからでしょ?!」
「はっはっはっ!随分面白い会話をしているな」
聞き慣れた声がした。
ドアの方を見ると、ロイド局長の姿が。
「ロイド局長!!」「局長!」
私とフレンが駆け寄る。
「聞いてください!局長!シエルが酷いんです!!」
「ちょっと、フレン先に私が話すことがあるんだから黙ってて」
「はぁ?!
言っておくけど、私あんたのこと許してないからね!?
靴でも何でも買ってもらえばいいでしょ!あんたの、”ご友人”に」
「なによそれ、感じ悪いわね!」
「あー、はいはい。とりあえず、部屋の中に入らせてね?お二人さん」
「っ、」「っ、」
私たちは大人しくロイド局長とともに元居た場所に戻った。
――――――――――
「それなら大人しく、感謝されておけばいいんじゃなか?」
ロイド局長に、先ほどアレル陛下に言われた靴の話をするとそんなことを言われた。
「我々からもお願いいたします」
ノルさんまでも言ってくる。
「しかし――」
「じゃあ、わかった」
それでも渋る私を見ながら、アレル陛下が何かを決断したらしい。
「なんです?」
「国からの感謝の品という形が嫌なんだろ?」
「別に嫌だとは言っていないですけど」
「なら、俺からのプレゼントという形ならいいだろ?」
「…いや、余計意味が分かりませんけど」
「なんだ、お前友人から何かプレゼントをされてそれを受け取らない人間か?」
またこの人は、絶妙な物言いをしてくる。
「友人を”お前”呼ばわりしてくる人と友人になったことないので、わかりかねます。」
「っ、それは悪かった。
どうせ、もう靴屋は呼んでいる。もう間も無く着くだろうから大人しく受け取っておけ
友人からのプレゼント」
「……、わかりました。」
全く納得はできないが、言われるがまま靴屋を待った。
その間に、フレンに酒屋のことやシーザーさんのことを黙っていたことをロイド局長にチクっていたが、逆に、シーザーさんとの関係を突っ込まれてフレンが頬を赤らめていた。
それからすぐ、靴屋が到着し採寸された。
靴の素材や、加工の仕方など次々と指示を出し始めるアレル陛下。
その様子を見かねたロイド局長が、『普段使いが出来るように、機能性重視で』と言ってくれて
なんとか落ち着いた。
何から何までお金持ちの思考過ぎて、私とフレンはぽかんとするしかなかった。




