第4話 -答え合わせができたらな-
ゆらゆらと、心地よい揺れ。
頬にさわさわと触れる風。
きっと、飛び立っていく手紙たちはこんな気持ちの良い中を飛んでいくんだろうな――。
「…ん、んん。」
「あれ?起こしちゃったかい?お嬢さん」
うっすらと戻る意識。
目の前には、セラフさん。
抱き抱えられた状態だった。
「っ!きゃー!」
「おっとっと、突然暴れないで、お嬢さん」
「おー、起きたか?おはよう」
暴れ出した私を、セラフさんがゆっくり降ろしてくれる。
その様子を見ながらケタケタと笑い、おはようなんて言ってくるロイド局長。
「重いのに、申し訳ございませんでした!馬車でも私、寝てしまっていましたよね?!」
「はははっ、そんなに気にしないでよ。
アレルも言っていたが、お嬢さんはもう少し食事をとった方がいいくらいだぞ?
恐ろしいくらいに軽かった。」
私は、申し訳なさと恥ずかしさでひたすらに頭を下げた。
「そんなに頭を振っていたら、頭が取れるぞ。」
そんな様子に、後ろからアレル陛下が声をかけてくる。
「頭を振っているわけではありません!謝罪しているのです!」
「セラフは気にするなと言っているぞ?」
「私が気にするんです!」
「本人が気にするなと言っていてもか?」
「え?えぇ、そういうものでしょ?」
私の言葉を理解できないような顔でこちらを見るアレル陛下。
「申し訳ありません、シエル様。
アレル陛下は、剣術も学術も優秀なはずなのですがそれ以外のところが、ちょっと…。」
ノルさんが呆れた様に横からフォローをしてくれる。
「シエル、体調はどうだ?」
「ロイド局長、特に問題ありません。痛めつけられる前に、皆様に助けていただきましたので」
「いや、全く間に合っていないよ。その髪…。」
ロイド局長が、顔を歪めてまた私の髪を見る。
「シエル、君がそんな髪になる前に助けに行くことが出来ず申し訳ない。」
ロイド局長の隣に来たアレル陛下が頭を下げだす。
「ちょっと!!!辞めてください!そんな!!陛下が私なんかに頭を下げるなんて!
そちらの方があってはならないことです!!!」
慌てて頭を上げてもらう。
「ただ、一ついいか?」
「はい」
「我々は間に合わなかったことを悔いるべきだが、君自身はその選択をしたことを誇るべきだと思うぞ?」
「え?」
真っすぐな目でそう伝えるアレル陛下。
「確かに、ご両親と君の繋がりの一つなのかもしれないが、それを守るため命を落としていたら元も子もない話だ。
君がその髪を切り、逃げ、稼いでくれたわずかな時間のお陰で我々は間に合い、君を助けることが出来た。
俺は、そっちを大いに称えるべきだと思う。
ご両親もきっと以前よりもっと、自慢の娘となっただろう。」
――っ
アレル陛下の言葉になんだか救われた気分になる。
「ありがとう、ございます。」
「あぁ。それに全てが無くなってしまったわけでは無いんだ。
今あるその髪も十分美しいと思うぞ?」
「っ、」
「ただ、ある程度はそろえた方位がいいだろう。ノル、今すぐにシエルの髪を整える手配を」
「もう済んでおります。シエル様、こちらに」
「え!?いや!大丈夫ですよ!いつも自分で整えていますし!」
「シエル、やってもらいなさい。」
ロイド局長にも言われ、私はしぶしぶ案内された部屋へと向かう。
――――――
「戻りました…」
髪を整えてもらい、皆様がいる部屋へ戻った。
「おかえりって、おお、短いのも似合うな。シエル」
「ロイド局長、お世辞はいいです。」
「お世辞じゃないよ、俺、そういうの苦手だし。」
自身の慣れない姿に気恥ずかしさを感じる。
「ノルさん、手配いただきありがとうございました。」
「いえいえ、当然のことです。
ロイドさんも仰いましたが良くお似合いですよ、ショートヘアのお姿も」
「…ありがとうございます」
「信じておられませんね?」
「…いえ、有難く頂戴いたします」
「そういえば、局長たちは何であんな場所にいたんですか?」
なんとなく気になり聞く。
「元々あの辺りの治安が悪くなっているという話は王宮にも入ってきていた
見回りのものを向わせるかと話していたところに、ロイドがやってきてな。
俺たちの話を勝手に聞いて勝手に出ていこうとしたからな。
俺たちも、向かったんだ。」
ちらりと局長の方を見ると、ニコリといい笑顔をしていた。
「あの場所に向かう様お願いしたのは俺だからね。
何かあったら申し訳ないなと思って、無意識に向かっていたよ。
結果的には、大正解だったけどね」
ロイド局長が言う。
「とにかく、我々が何とか間に合いよかったです。
シエル様も今日はお疲れでしょう。
こんな、肩が凝りそうな場所にお引止めするのも如何なものかと思いますが?アレル陛下」
「ノル、お前肩が凝るのか?」
「…はぁ、ちょっとした嫌味だったのですがね。
そりゃ肩も凝りますよ、こんな自由気ままな方にお仕えしているとね。」
アレル陛下とノルさんの会話に思わず笑いかける。
「はははっ、頑張れーノル。」
「ロイドさん、あなたも肩が凝る原因の一つなんですがね?」
「じゃあ、俺たちはそろそろ帰ろうか、シエル」
「え?あぁ、はい」
「無視ですか?」
「門まで送ろう!」
「ありがとう、セラフ。」
ノルさんのお話を半ば無視しながら、ロイド局長と私は王宮を後にした。
――――――――
「はぁー…、疲れた」
自分の家に着くと私は、倒れるようにベットに横になる。
横になるときでさえ、髪が短くなったんだと感じる瞬間があるから驚く。
『自慢の娘になっただろう』
アレル陛下に言われた言葉が、ふと頭をよぎる。
「やっぱり、ああいう人たちはかける言葉が違うよなぁ」
寂しくないと言えば、噓になる。
自分なりに大切にしてきた髪だったから。
それでも、その言葉を貰う前よりは少しだけ違う気持ちで髪に触れられた。
「…自慢の娘、か。」
その答え合わせが出来るわけない。
それでも、そうだったらいいななんて思いながら、なんとなく窓の外を見る。
窓を開けると、空には満天の星たち。
昼間は手紙たちが飛ぶ空だけど、夜は星たちの独壇場だ。
明日は、ロイド局長が「ゆっくり休め」と休暇をくれている。
まだ、この星たちの輝きを見ていられる。
「明日は、久しぶりにお買い物にでも出かけようかな
せっかく髪型も変わったし、ヘアアクセサリーでも見に行こう。」
誰かに聞かれるわけでもない、明日の予定を呟いてみる。
なんだか少しだけ、明日の休みが楽しみになった。




