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「しょーこの証拠」  作者: 森宮照
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「一日目」五時間目:脊山高校の卒業生

良い学校、なのだ。昔はでも、自由は有ったかも。

大池正子おおいけしょうこは、嘆息した。


脊山私立高校せやましりつこうこうは、最初は「自由な環境で人間性を育む」と言うコンセプトにより、私立で有りつつも、比較的問題を抱えた様な生徒も受け入れる学校、としてあった。その、改善?される直前に卒業した正子にとっては、今の増改築をされ、規模を拡大、微妙に商業主義のデパート的になった環境には、何処か居心地の悪さは感じた。昔は生徒と先生の距離も近いというか、問題ではあったろう、言い方としては友達感覚ではあり、制服を崩して着る生徒も多く、時々全校集会で校長先生から苦言を言われていた物だが。


自身にとっての3時間目の授業を終えて、正子には生徒に対して…或いは何かの違和感さえ感じる部分は有った。小奇麗な校舎、小奇麗な制服、そして、良識的と言って良い生徒ら。今も、さほどは進学校、という訳でも無い…しかし。


ともかく自身の現状でさえ、”ここ”にまだ馴染めない部分は有った。自身に与えられた机に座り、不意に眼をつむり考え込んでいると、ふと後ろに人の気配が有った。


「どうですか大池先生、初日の感想は」

「あ、校長先生」


正子の後ろに立っていたのは、この学校を改革したと言う、その大泉校長、その人ではあった。人当たりの良さそうな笑顔に、しかし奇妙な自信と言うべきか、そう言う何かも感じる彼は、学校を「自由な環境で社会に通用する人材を育てる」と言うコンセプトに変えて、そして現在の脊山高校へと作り替えた訳だが。その影響だろうか、気づいた。


「何というか、生徒らもみんな賢くて、助かります」

「貴方はその先生役をやるのです、より聡明で有って頂かねば困ります。他の先生方にもお願いしている事ですが、頑張ってくださいね」

「は・・・、はあ」


苦笑しつつ、コピー用紙を一枚受け取る。正子にそれを手渡した後、大泉校長は校長室へ戻って行った。渡された用紙には、新教員の歓迎会を行う日取りが書かれていた。



「あー、それはね、思う」


初日から残業、という程には、今の所は忙しくない舞と正子は、就労時間後に取りあえず、彼らだけの慰労会をする為、小出の知っている居酒屋に来ていた。小規模な店内で、幸いと言うか、奥の小部屋を使えた彼らは、ともかく生中で乾杯した後、注文した焼き鳥などを口にし、学校について話す。小出も少し微妙な表情で続けた。


「やっぱり、あの校長先生の影響って言うのあるんだろうね、逆らい難い雰囲気って無い?自分らの立場じゃ、凄いですねって言うしかないんだけど」

「そう言うモノかなぁ、自分が学生の頃は、あんまり意識してなかったんだけど」

「社会人に成っちゃうと違うよね、自然と、上に居る誰かって言うのは有るから」


二本目のネギまを口にしつつ、それをふらふら回して見せる。


「一本100円でも、お給料無いと買えないからね」

「そーねー、今もまだ、そんなに景気は良くない、か」


小部屋と言っても、4人は入れるスペースである。夜9時台でここを使えた、という事は結局の所、それほど客は来てない、と言う意味ではあった。何となく文系の大学に進学し、やがて教員免許を取得するまで故郷を離れていた正子にとって、この状況には改めて、いささかの不安は感じた。


「ウチの学校も、地域経済を活性化させるって触れ込みでこうなったらしいのよね。地元への就職にも意外と力入れてるのよ、だから、国の方からも補助金が出てるって話」

「”そう言うの”を、学生にも要求してるって、事か」

「うちらの時代が生ぬるかったのか、今が厳しいのか解んないね」


苦笑しつつ、舞は焼き鳥串を置いて、次の串に手を伸ばした、正子も慌てた。



そこそこに、ほろ酔いに成るまで楽しんだ後、彼らは自身らの自宅へと帰る為、駅へと歩いていた。明日も授業はあるのだ、そんなに遅く成る前に帰らねばならない。幾つか車が通り人も歩く中、ふと振り返る町並みは、まだ活気がある、と言う感じはしなかった。


「…生徒らは卒業したら、何処に行くのかな」


不意に呟いた正子に対し、舞も苦笑した。


「そう言えば、そんなオチだったっけ、ノストラダムスの奴」

「え?あー・・・そうだったかな」


苦笑する。魔王は倒され、ニャルラトフォテプと言う邪悪なる王子は嘲笑を残して消えていき、世界はペストの脅威から解放されつつあったにせよ、その時はもう、何もかもが壊滅的に破壊されていた。プレイヤーキャラも含めその中で、人々はどうするのか、それは当時の自分には解らなかった。


ウケなかったと言って良い、学生の頃に創った自身のリプレイ動画は、今の”こういう感覚”を見ていただろうか…それは少し、疑問には成った。



小出は途中の駅で先に下り、その後正子は一人、電車に揺られる。

正直、脊山高校へ戻ってきた理由それには、学生に戻りたいと言う意識は有ったのかもしれない。


勿論それは、そして物理的にも、もう有り得ないのだと、不意に正子は実感した。



正子は、先生である。

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