「一日目」三時間目:古のノストラダムスは何処
昔居た学校、その中庭での昼食、それでも先生として
9月の柔らかな日差しの中で、不遜な視線の元、脊山高校中庭での、女性らによる昼食会は続いていた。
「大池先生は、ノストラダムスって信じてるんですか?」
不意に長谷川佐奈から聞かれた問いに、正子は苦笑した。
「一応は実在した人よ?実際には、預言者って言うより医者だったらしいけど」
「へー、そうなんだ」
舞の隣にいた、ショートカットの少女、名を咲川美羽と言う子が、母親の手作りだろうか、小さめの弁当をつまみながら感心した。ちょっと正子は調子に乗る。
「授業でもこれから出てくる所だけど、ペスト、黒死病がヨーロッパで大流行した時、それまでは神様に祈る事しか出来なかった中で、彼は死体を焼いたり付近を消毒したりって言う、今で言うと科学的な対策で乗り切った、って言う話なのよね。実際は、言われてるよりずっと科学的な見地があった人なのよ」
「そうだったね、そんで確か、ペストを広めた邪悪な王が、ニャル様に操られてたって感じだったっけ」
苦笑する舞の相槌に、つい同調しそうになり、少女らの視線で我に返る。
「何ですか、それ?」
「あー、いや、まあ昔の話。自分らが学生の頃にね、ちょっと」
「えー聞きたい」
「…小説か何かのアイディア、ですか?」
もう一人、長谷川、咲川と共にいた、あまり喋ってない少女が、不意に興味を示した。小林怜奈と言う、既にテンプレと言って良いおさげで眼鏡の控えめな少女に、舞が苦笑する。
「学生の頃にね、自分は正子からログ見せて貰っただけなんだけど、クラブでやってたって言う、この子が創ったTRPGのシナリオ」
「?」
「テーブルトークRPG、知らない?」
「あー、でも聞いた事はあるかな、クトゥルフとかでしたっけ」
長谷川の同意に、正子は少し安堵した。最近ではリプレイ動画も山ほど上がっている筈だったが、今の高校生には全く認知度が無い?と言うのは、何かの恐慌でさえある。…もっとも、リアルタイムで体感していた筈の自分でさえ、今のそれをTRPGのリプレイ?と言うには、幾らか抵抗はあるが。長谷川が続ける。
「なんか、キャラ絵が動いて喋ってる奴、ですよね」
「・・・うんまあ、そんな感じ」
複雑な表情で苦笑する正子に対して、舞が言う。
「気を落とすな、よくある事だ」
「あれはそんなに悪くなかったのよ!?」
「?」
大人の女性二人の会話、というべきか、それを聞いていた少女らの反応は今も、疑問符と共には有った。当時にしろ、自分らは本来は日陰者である、と言う事は一種の暗黙の了解ではあり…だからこそ、舞とは次第に親密には成ったのだが。そう言えば、自分が卒業する時にはもう、この辺は下火に成っていた、気はする。
所詮、一時の流行りでしか無かったのだが。きょとんとしつつ、小林怜奈が聞いた。
「ノストラダムスの話ですか?」
「いやいや、正子がね、この子らがクラブ活動でやったセッション、まあゲームか、そのログを元にして、そう言うキャラが動いて喋ってる奴にして、ネットにアップしたんだけどさ、正直まあ」
「え~みたーい」
「えー・・・?大池先生、そんな事してたの?」
その長谷川の台詞は、不意に正子には突き刺さった。
世間の風を、不意に正子は感じた。




