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「しょーこの証拠」  作者: 森宮照
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「一日目」二時限目:こんにちわ

正子はそして、戦場へと向かった。

「いや、それにしても」

「いやまったく」

「いやいやいや」


 その眼鏡、小太り、ひょろがり、と形容して良い容姿の、仲の良さそうな男子三人組は、教室の隅で固まり、何やら満足そうに頷いていた。それを見る女生徒らの視線は冷ややかだったが、彼らは気にせず会話を続けた。


「良いですな、大きさは」

「小出先生と良い、この学校、かなり選んでませんかねぇ、くくく」

「校長の趣味なんですかね」

「何にせよ、良いですな」


うんうん、と頷き合ってる、田中たなか中村なかむら川崎かわさきの三人に対し、流石に見かねた様に、長髪で眼鏡な学級委員長の長谷川はせがわと言う少女が、一言言った。


「お前ら犯罪だけはするなよ」


彼らは一様に不思議さと心外さを表情に出しつつ、長谷川に抗議の視線を向けた。



「2―B」と言う教室の中はそんな感じで、微妙に活気づいては居た。朝の国語が終り、次の授業までのインターバル中、教室の中は特定の話題で持ちきりではある。2時限目は世界史総合、大池正子おおいけしょうこの担当する授業だった。そんな、何かの熱気が少しずつ湧き上がる教室へと、正子は、とは言え久しぶりに歩く学校の中を、何だか懐かしそうに歩いていた。卒業してもう6年ではある。自身が卒業する頃には、学校も経営方針の刷新を求められていた…と言う話で、その後は馴染みの先生方の殆どは、もう他校へ移ったと言う話だった。そう言えば、空気の違う感じはした。もっとおおらかな感じもしたが…今は小奇麗で、或いは何処か、窮屈さはある。


そうこう考えつつ、ほぼ時間通りに彼女は「2-B」その教室の前に立つ。新任教師定番の洗礼、と言うのは取りあえず、扉にはなさそうだった。恐る恐る開けると、中には「2-B」の、今はもう、自分らの頃からは大分変わってしまった制服の学生らが座っており、彼らは一斉に彼女を見た。出た一言は、何だかな、ではある。


「こ、こんにちわー・・・?」


生徒らの苦笑と共に「こんにちわー」と言う元気?な声に笑みは出る。奇妙な場違い感と、とは言え求められる仕事と。その狭間の中、ともかく彼女は、邪さえ渦巻く教室の中へと一歩、踏み込んでいった。



授業開始の号令と、その後にある自身の自己紹介。それから続く授業その物は、それほど問題は起きなかった。ユーラシア大陸での再編と対立、その入り口で何が起こっていたか?と言う部分をざっくりと説明し、理解の要点を指示する。本人が知っている中世ヨーロッパ、の時代はもう少し前に終わっていたが、この部分もむしろ彼女にとっては馴染みのある話題ではあった。とは言え、今日は初日である。今後の授業の範囲を提示し、要点を黒板に書いて行く。しかし、少し張り切り過ぎた…そう言う部分は有ったろうか。黒板いっぱいに描いて行くウチに範囲が足りなくなり、下の方に書く事になった、その時、少し教室はどよめいた。


少し驚いて振り返るが、男子生徒らは少し笑みを、女子生徒は或いは奇妙な、抗議とも言える視線を向けていただけで、彼女にはその時は、それ以上の理由は解らなかった。やがて、チャイムが鳴る。正子のファーストミッションは、ほぼ滞りなく終わる事は出来て、彼女も安堵した。


「…と言う感じで、これからユーラシア大陸の歴史を学んでいきます。来週はあのノストラダムスが活躍した時代ですので、期待して下さいね?」


気が緩んだ、と言うべきだろうか。教室に、奇妙な戸惑いが流れた。



「何故そんな事を言った」

「いや、ゴメンちょっとウケるかと思って…」

「愚かな」


ともかく午前中の授業はそれで終わり、昼食、という事に成った。小出から食事に誘われつつ、授業内容の報告をし、多少の失策に頭を抱えた。ホラー系のTRPGでは定番でさえあるし、本人も昔は良くシナリオで使ったネタである。高校生なら興味は有る筈、という理解は、恐らく立場が違えば問題なかっただろう。


「先生、だもんね…」

「まあね」


先人と言っても、舞も自分より半年ほど前に赴任しただけ、である。彼女の方が、見知らぬ土地での教員と言う仕事に戸惑いは有ったろう。とは言え、自分も慣れた学校、の筈が、そこはもう自分が居た時代とは違うのだ、それは自覚せざるを得なかった。増改築もされていて、もう解るのは体育館の場所位である。ともかく中庭の芝生は、昔よりも綺麗に整備されてはいる様だった。そこには、でも女子高生らが既に数人座っていた。


「こいちゃん、やっほー」

「せめて舞先生とか言ってくれるとありがたいんだけどー」


ボーイッシュと言うより愛くるしいショートカットに、コケティッシュな笑顔で手を振るその子に、困った?様な表情で、舞が苦笑し応える。彼らも一緒に食事、と言う事らしかった。舞から話は聞いていたが、この学校にも相応、趣味の合う子は居たらしい。彼らと交流出来た事は彼女にとっては大きな支えではあったろう、もちろん今の問題は自分の方にこそあるが。そこで気付いた。


「こんばんわ、大池センセ」


そこには、「2-B」の教室で、最初に授業開始の号令を発した、学級委員長の少女が居た。正子は笑みを浮かべつつ、はにかんだ笑顔で手を振った。



「いや、いいですな」

「次のネタにしますかな」

「バイトに出なければなりませんかな」


そんな、中庭を見下ろせる校舎の隅っこに、その、6人位が居るのがやっとだろうか、或いは倉庫の様な部屋は有った。「2-B」に居た、あの、田中、中村、川崎と言う三人組その、拠点の様な場所らしく、入り口には「PC探求同級会」と言う看板が掲げられ、部屋の中には数台のPCが、密に何とか置かれていた。その部屋に入ってくる存在が居る。


「お前ら、”そう言うの”は控えろと言ったろう、我々の活動に支障が出る」

「あ、すいません山田先生」


一応はリーダーらしき田中が、入ってきた存在に返答する。それは職員室で正子らの会話を聞いて笑いを噛み殺していた、あの男性教師だった。山田海斗やまだかいとと言うその英語教師は、それでも自身も窓へ歩み寄り、その、数人の女子生徒と楽しげに会食中の正子らの様子を眺めた。それから、苦笑しつつ三人に向き直って、言った。


「頑張れよ?」

「何がですか」


何か、とても失礼でさえ有る事を言われた気がした三人だった。



女子高生との会食は、正子には懐かしい何かではあったが。

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