「一日目」一時限目:私の名前はしょーこです。
自分は既に学生ではない、と自覚するには、彼女にとってまだ学校は、直ぐ近くにあるそんな故郷だった。
初老の、川崎と言う名の教師が、眼鏡を弄りながら、その創ったばかりの、真新しい名刺を見た。
「…おおいけ、まさこ?」
「しょーこです、先生」
正子も、嘆息しつつ訂正した。
大池正子、今年で24歳に成る彼女は晴れて、母校「脊山私立高校」に、新任の社会学教師として帰ってきた。前任の女性教員が出産から退職、という流れを受けての採用であり、いささか急と言う感は否めず、覚悟もおろそかに、不意に彼女は母校の体育館にて朝、ステージ上に立ち、全校生徒を見下ろす事になった。他の先生方に混ざり、この壇上に立つ、その意味と言うか…変化に、少し身震いはした。脊山高校の校長先生、大泉雄治54歳が、慣れた様子であいさつを始める。自身の紹介は、その後だった。
「…えー、という訳で、本日から新しい先生をお迎えする事に成りました。退職しました河瀬先生の代わりにご就任頂きました大池…えと、しょーこ先生です、大池先生、どうぞ」
流石に足は不意に、勝手に前には出た。ただ、後に聞くところによるとロボットの様だったとは言う。
…朝の全校集会は、幸いと言うか、活況の末に終わる事には成った。良くも悪くも、正子の自己紹介によって、だ。
「と言う訳で、これから社会科を担当させていただきます。ちなみに良く間違われますが、名前はしょーこと書いて正子と読みます。・・・じゃなくて、あ」
気付いた時には言葉が止まってしまい、その後、学生らの苦笑とも、失笑とも言える笑いに会場は不意に包まれてしまった、彼女はそれで「と、とにかくよろしくお願いします!」と、直ぐに慌てて切り上げ、足早に元の場所に戻る。全身から脂汗が出ているのは自覚しつつ…、既に地雷を踏んだ自分を、彼女は自覚した。集会が終り、教員室に入り。与えられた机の前で、暫く突っ伏していると、同僚と言うか、先輩?の女性教員、数学を担当する小出舞と言う女性が、それでも正子の肩を叩く。
「カンペでも用意すれば良かったのに。ま、ウケたけどさ」
「そう言うつもりは無かったんだけど、はう・・・」
目つきのキツいポニーテールな彼女の、その笑みには度々「不敵な奴」と評していた自分だったが、今は知り合いがいる、それはかなりの幸運である事を自覚していた。自分をこの学校に教員として紹介してくれた彼女は、実際には高校生時代からの知り合い、である。学校は他県だったが、クラブ活動を通じて交流があり、イベントではちょくちょく会っていた、或いは戦友とも言える存在であった、が。右も左も解らないこの職場では、数カ月の先輩と言えど、それでも先人で有る事に変わりは無かった。
奇妙な縁ではある。正子がこの学校への赴任を願った時、それは既に決まってしまった、と言う事だったのだ。彼女は別の学校への赴任では無く、暫く待とう、そんな事を考えた。大学に入った時点で小出とも多少、疎遠には成ってしまい、交流は暫く無かったのだが…縁と言うのは解らない物ではある。
「取りあえず、2時間目か、頑張ってね?記念すべきファーストミッションだ」
「大丈夫です、大尉」
何故か、24歳の女性教員二人が、そんな奇妙な笑みを交わしあうのを、周囲の先生方は微妙な視線で眺めていた。若いモノは良い、と言う表情で二人を見ている国語教師、川崎藤二65歳の隣では、一人の若い男性教員が苦笑をこらえているのは、その時の彼女らには見えなかった。
と言う感じで不意に始めました、連載小説「しょーこの証拠」です。
タイトルの意味を考えるのは止めてください、何となくです。
続くかどうか、それはちょっと解りません、不定期、かも。
ではでは。




